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 師匠たちが帰国した後は特に予定がなくなったルーズは魔法士団に通いながら魔法士になる勉強を教わっていた。


『ルーズはすでに実力はある。ただ隣国と違ってうちの国は魔法具の扱いもあるからそっちを勉強してその後試験を受けて。貴女なら1週間くらいで大丈夫よ』

 イリアが言うには、ギルドで魔法具を扱っていたので後は細かい名称などが分かれば大丈夫と。


 本来なら魔法士試験は年に一回しかないが、魔法師団長の推薦ならいつでも受験可能らしい。イリアに相談して正解だった。



『ルーズお疲れ!早くこっちにきてね、待ってるから』

 以前食堂で一緒に食事をしたヘザー。何度も顔を合わせるうちに友達になっていた。彼女は魔物討伐部に所属しておりルーズと一緒に魔物狩りに行くのを楽しみにしている。


『ルーズさんお疲れ様です。うちでもいいですからね』

 彼女は魔法具部のアンナ。アシェルが使用していたマントの開発チームの1人でもある。彼女もルーズの大切な友達だ。


『アンナ、ヘザーもお疲れ様です。いや、私まだ魔法士にもなってないんで。魔法士団なんてまだまだ先…』


 魔法士団では既に顔馴染みのようなルーズは、みんなから早く士団に入れとせっつかれている。

『いやいやルーズはすでに魔法士団員だろ、なあ?』

 食堂に居合わせた他の団員が囃し立てる。それに頷く人たち。

 彼らは訓練場で的を正確に射抜き続けるルーズの実力を見ている。話してみるば知識量の豊富さに舌を巻いた。

 同じ訓練をし互いにどうすればもっと早く効率を上げられるか語り合えば、それは仲間だろう。


『ありがとうございます。頑張って早くここに来ます!』

 ルーズは皆に宣言をし、1週間後見事魔法士に合格した。




 あとは少しづつ実績をあげ魔法士団に入れるように頑張るね、とアンナとヘザーに約束し、アシェルにも『魔法士になりました』と手紙を送った。

 充実した日々を過ごしていたルーズ。


 次はちゃんと返事を見逃さないように、毎日確認しないと!



 毎日手紙が来ていないか朝起きてからと夜寝る前に確認をしたが、一ヶ月経っても返事が来ることはなかった。



 おかしいな?と思っていると、城で変化があった。まず、ルーズの魔法士団の出入りが禁じられた。

 理由は言われなかったが、何かがあったのだと察するには十分だった。


 次にアリナーデの散歩係と魔法指南が中止になった。これで城の出入りが完全になくなった。

 宰相のキーラと王子の側近のシヴァンは城に行くと泊まりがけになることが多くなった。

 帰ってくると疲れた様子で『まだ何も言えないが、大丈夫だ』と揃って同じことを言う。



 ルーズの城での肩書きはただの魔法教師だ。知る権利も手を出す権利も何もない。歯がゆい立場だ。


 それでも何か出来ることはないか考えた。


 今日は久しぶりに2人が揃って帰宅すると聞いてタナーや料理長に手伝ってもらいながら、夕食に出すスープを作ることにした。


 2人の好物の具とガリックをたくさん入れ煮込み、半分ほどまで水分を飛ばしたら魔法で出した水を加える。こうすると口当たりがなぜが良くなるのだ。

 田舎の家族にも評判だったスープ。



 空が暗くなり始めた頃2人は帰宅した。

 ひどく疲れた顔をしていたが、執事からルーズが食事の一つを作ったと伝えられると嬉しそうにしていた。


『ルーズひとりにしてすまないな』

 寂しいという歳ではないのだけれど…宰相が過保護になっている気がする。

『まぁ引越し直後だしね、心配もわかるよ。義姉上はなにか不便はない?』

 義弟たちの方が疲れているだろうに、ルーズの心配ばかりする2人に心が温まる。

『私は大丈夫です。それより2人ともちゃんと休息はとってくださいね』


 久しぶりに3人揃った温かい食卓。いつもより食事が美味しく感じる。


『!?義姉上の作ったスープ何が入ってますか…?』

 もしかして不味かっただろうか?不安になるが、執事が大丈夫だと頷く。


『こちらは、ガリックと2人が好きなムーチキン、トマトーニそれからルーズ様が最後に魔法で水を加えられておりました。

味見をした我々も、食べた直後から疲労回復したと報告が上がっております』


 恐らく、ルーズの出した水に溶け込んだ魔力が体内に染み渡ったのではないかと執事は予想を立てていた。ガリックの効果を増幅させてる可能性もあるとのこと。

『そうか…ルーズありがとう。今日はぐっすり寝れそうだ』『義姉上ありがとう』

 その後は美味しい美味しいと2人はお代わりまでしていた。ルーズは少しでも役に立てたことに喜び、楽しい食卓になった。


 執事や使用人たちもそんな主人の様子を微笑ましく見ていた。




 お腹いっぱいだ。食べすぎてしまった…

 2人に釣られてルーズまでお代わりしてしまいお腹の膨らみが大変なことになっていた。


 またスープ作ろうかな。


 さて、今日は師匠からの手紙…とレターボックスを開けると小さな箱と手紙が入っていた。


 やっと、師匠からの返事!


 まず手紙から、と中を読んだ。


 返事が遅くなった謝罪から始まり、魔法士試験合格おめでとうの文字が書かれていた。

 返事が遅くなった理由は、合格祝いに魔石を取りに行っていたせいらしい。良い魔石がなかなかなくだいぶ奥地まで探しに行っていたとのこと。

 ようやく、良さそうな石があったから指輪にしてあり、防御魔法が仕込まれていて寝るときもつけるように書かれている。


 寝ている間までって…師匠何を心配して、と笑いながら読んでいたが、次に[魔石を探している途中に巨大な魔物を見つけた]とあった。


 今はまだ寝ているが、いつ起きるか不明。すぐに手出しができる場所におらず今後どう対応するか両国で協議中である、と。



 最後は[俺がちゃんと仕留める。ルーズは笑って過ごして欲しい]と締められていた。


 最初何のことだか分からなかった。

 仕留めるということは害ある魔物なのだろう。師匠頑張れっと呑気に考えていたが巨大な魔物について書かれた本を思い出した。



 巨大な魔物…確か何か特別な言い方があった気がする。巨大な……まさか。100年に一度の…?前回はいつだった……?

 調べなきゃ。公爵家の図書室にあったはず。


 ルーズは、メイドにも告げずに図書室に向かい一心不乱に歴史書を探した。貴族の成り立ちの歴史や天候の記録があったが、それらしい物がない。

 


 ……貴族名簿なら。きっと


 貴族名簿には各家の出生記録や除籍記録、それから死亡記録が記載されている。


 ぱらぱらと捲ると、約100年に一度に大勢亡くなっている時期がある。直近では90年前に貴族が大勢亡くなっている。年齢はわからないが、公爵家から男爵家まで関係なく死亡記録が残されていた。


 90年前…10年の誤差は貴族図鑑でも見られた。

 きっちり100年ではないところが警戒がしづらい要因だった。

 

 師匠は、隣国は今100年に一度の天災と戦っている…?

一気に血の気が引く。だって貴族図鑑の死亡者の数は10や20じゃない。魔法の名門の当主の名前さえあった。戦いに出たもの全てが死んだのではないかと思わせるような数の犠牲者。

 手が震える。本を戻さなきゃ……うまく掴めず机から落ちかける。


『ルーズ大丈夫か?これは……。


アシェル殿から連絡が来たのだな…大丈夫だ』

 キーラが本が落ちる寸前に掴み、表紙を見てルーズが何を調べていたのか理解した。


『大丈夫だ。魔物はまだ眠っている。アシェル殿は無事だ。忙しくしているとは思うが…。


それに我々は強く賢くなった。


犠牲者は以前より減らせると見込んでいる。学者たちが今対処を考え、お前の友人のアンナ嬢も新しい魔法具の開発に尽力している。だから、大丈夫だ』


 キーラの励ましにルーズは声を殺して泣いた。大丈夫と繰り返しキーラはルーズを抱きしめた。


『早く終わらせて帰ってくる』

 だから泣くな。アシェルにもすぐ会えるから今日はもう寝なさい。そう言ってルーズを自室まで送り届けてくれた。

 恥ずかしさからぎこちない笑顔でお休みを言えば『気にするな父親だ』と言って去っていった。


 本当にいい父親だ。


 落ち着いて気を取り直し手紙をもう一度読んだ。

 まだ寝ている状態で先に見つけたのならきっと運が良い。手が出せない場所というのは分からないが、それまでに準備ができるはず。

 義父が言うようにきっと大丈夫。


 ルーズの生まれ故郷の村は国境付近だが魔石が取れる場所からは反対側に位置する場所にある。

 巨大な魔物の移動の仕方次第だが、一先ずは安心してよさそう。


 今はまだ何も起こっていない。

 

 明日は調べなきゃいけないことが沢山できた。何が出来るかは知らなければ分からない。


 まずは知ること。


 ルーズは、知らないで後悔しないと決めて眠りについた。

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