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79.5

ライザックその後


読まなくても本編には影響なしです。

笑いなしの後味苦め


『ライザックお前は何をしている』



 夜会の後連れて行かれたのは夫婦の家ではなく、妻の実家であるマルス子爵家だった。


 マルス子爵は馬車からライザックを引き摺り降ろし地面に投げ捨てると、使用人に運ばせた。

 雑に運ばれ、床に落とされる。『痛い!』と抗議をするが冷たい目で見下ろされるだけであった。


 そして派手な装飾の椅子に腰掛けているマルス子爵に、ゴミを見るような目で見られながら問われた。

 ギルドのことは何も話してなかった。ただ最近行方不明者が出て忙しい、としか…

 何かバレているのか?いやまだ何も知られていないかもしれないそう思うと迂闊に何も言えない…


 ライザックは錆びついたように動かない頭を振り絞り、逃げ道を必死に探した。

 言葉を、言い訳を探している夫をひどく冷めた目で見ている妻には気づかないまま…

 




 男爵位の四男として生まれたライザック。特に裕福でもなく貧してもいない家。自分で職を見つけなければ平民になると、子どもの頃から理解していた。

 他人より少し賢く、器用で、魔法量があった彼が魔法士を目指すのは当然の流れだった。


 特に問題なくギルドに就職し魔法士になったライザックには婚約者がいなかった。なんの旨みもない男爵位の四男では当たり前だ。

 だが魔法士になったことで女性から誘われることが増えてきた。

 勉強や訓練に努力してきた自分への天からのご褒美だと浮かれ、遊び歩いた。失敗もしたがようやく遊ぶ"コツ"を理解してきた頃に家から結婚するよう通達された。


『マルス子爵家に婿入りしろ』


 遊び相手には伯爵家の令嬢だっている。なのに子爵家なんて受け入れられなかった。だが、領地に起きた崖崩れで多額の借金を負った男爵家が助かるには借入相手のマルス家の言うことを聞くしかなかった。


『お前の遊びのせいで我が家に苦情が入っている。責任を取れ』

 ライザックは良いとも嫌だとも言えずに婿入りさせられた。結婚式もなく、署名を提出し荷物は全て知らない場所に送られた。



『ライザック様お待ちしておりました。

妻になりました、クロスティー・マルスと申します。これからどうぞよろしくお願いします』


 頬を赤らめ出迎えたクロスティーに後ずさった。弾んだ声をしているのに顔が笑っていなかった。気味が悪い…それが初めて会った妻の第一印象だった。


 無理やり結婚した癖に、笑いもせずに迎えた女に腹が立った。俺はもっといい女と結婚できたのに…なぜこんな聞いたこともない家の女と結婚しなければならないんだ。


 だからライザックは家に帰ってきても、無視をした。

 笑いもせずにクロスティーは色々な話をした。楽しそうな声色で。今日会ったことや彼女の好きなこと、それからライザックにも質問したりと交流を持とうとしていた。

 目に入る情報と耳から入ってくる音の違いに目眩がしそうだった。


 鬱陶しいな…妻にうんざりしていたころにまた遊びを始めた。前よりも巧く遊べるようになり調子に乗っていた頃、職場に素直そうな彼女が入ってきた。

 職場に馴染めないその子とは、いつもと違った遊びをしたくなった。男慣れしてなさそうな子を徐々に落とす遊び…だった。



『ライザック様、これを』


 落ち着いた妻の声。差し出されたのはルーズと2人で撮った写真だった。


『私は貴方が何をしようとかまいません。


ですが、これはいけません。マルスのために買った貴方がマルスの邪魔になっては…


まぁお顔が良いのでいいですが』


 はぁ…とため息を吐いたのはマルス子爵だった。『お前は全く…』呆れながらそう言ったがクロスティーが首を振った。


『嫌ですわ。せっかく理想のお顔を手に入れましたのに。

 それにキーラ家にも、王家にも許可をいただきましたライザック様を"生かしても良い"と』


 だから生きていいのですよ?良かったですね、と妻が言う。


 生きても、良い……?

 その意味が分からない。何故俺は、生きる権利を他人に握られている…?


 寒い。体の震えが止まらない。なぜ?なんで…


『意味が分からないなんて、思ったよりお馬鹿さんでしたのね。可愛らしい…』

 くすくすと笑い声が聞こえるが、妻の口角は上がっていない。しかし楽しそうなのは分かる。それが余計に恐ろしく感じる。



『ライザック様は我が家にいればいいと言うことです。それなら理解できますでしょう?


ここにお名前を書いていただきたいのですが、あら…こんなに震えて……効果は大丈夫かしら』



 ライザックの前に置かれた紙には[魔法契約書]と書かれていた。


[ライザック・マルスは生涯クロスティー・マルスのモノになる]




 この魔法契約を結ぶことでライザックは生かされる。もし何かあれば持ち主の責任が問われる。全責任を負う代わりに彼を貰ったのだ。

 それを理解することはないことも知った上でクロスティーは彼を欲しがった。


 クロスティーは事故で顔の筋肉がほとんど動かない。口や目を開けたり閉じたりすることができる程度。そんな自分の顔を鏡で見るのが嫌でたまらない。

 だから目に見えるものは自分の好きなものが良い。


"彼の顔がとっても好みだから、ずっと見ていたいの"


 それだけの理由が彼女にとって最も重要な理由だった。



 ライザックが震える手を押さえつけられながら無理やり名前を書かされているところを眺める。

 喚きながらも、手を取られ一文字一文字書かされていく。


 下を向いているせいでお顔が見えない…

 私が手を支えて一緒に書けばよかったかしら。


 そう言えばルーズ様がギルドで最後に数人がかりで床に押さえつけられたと城から来た役人が言っていた。


 あらあら。同じ格好になってしまって…

 無様なライザック様も素敵ですね。



 クロスティーは大好きなライザックの前で優雅にお茶を飲む。


 


 魔法契約を結んだライザックは、夫婦の家に帰った。もう二度と外に出ることはないだろう。



[蛇足]

クロスティーの表情を読めるのは両親とライザックだけです。

彼女はライザックが表情の変化に気付いていることを知りませんし、もう知ることも出来ません。

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