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 夜会の目的を果たしたルーズはシヴァンと共に先に帰ることにした。宰相は最後まで残り、その後城で仕事をするそう。一緒に帰りたそうな顔をするキーラにシヴァンは笑った。

 仕事人間が少しは人並みの生活に戻ろうとしている。



 父を尊敬しているし、家になかなかおらず寂しくもあったが放っておかれた訳ではない。会えば言葉少なに『最近どうだ』とシヴァンを気にかけ何かあれば直ぐに対応してくれた。


 そうしていつも平然と無理難題をこなして行く後ろ姿をずっと見てた。だから父自身の寂しさに気付かなかった。もしかすると本人も自覚がなかったのかもしれない。


 義姉上を養女に迎え、何も知らない彼女にあれやこれやと準備しながらいつもより家にいることが増えた父。ある日ぽつりと『こんなに家にいたのはいつぶりだったか…』寂しそうな声が落ちた。

 少し後悔するような悲しむように家を見渡し、長く息を吐き出していた。


『家族が増えるんだな…』

 父が自分で勝手に養女にしたとルディアシスから聞いている。それを今急に聞いた話のように言い出したのに引いた。何言ってんだ…歳か?


『家族の思い出を、な。

シヴァンは今から増やせると思うか?』


 

 ここに宰相の右腕のペイルがいたら笑い飛ばしただろう。『作ればいいでしょう。貴方が』と言ったに違いない。

 だがシヴァンは『一緒に作りましょう』と目を潤ませた。これからは尊敬する父と並んで行きたいそう思った。




 今日の夜会もいい家族の思い出だな。


 シヴァンは父と義姉の顔を見ながら楽しそうに笑う。

 


『師匠、私たちはそろそろ帰りますね。ちゃんと手紙読んで返事出します』


 シヴァンが『あ』言い忘れてたけど…と気不味そうに切り出した。

『アシェル殿とボルデディオ殿下も一緒に帰れと父から言われました…』


 




『えっと、なんで師匠に、ボルデディオ殿下まで同じ馬車に乗ってるんです??』


 当たり前のように2人追加された馬車は少々狭い。ルーズの隣は細身のシヴァンなためゆとりがあるが、筋肉のついた男性2人は窮屈そうな見た目をしている。


『なんでって一緒に帰ると義弟から聞いただろう?』

 何を言っているんだと殿下は笑っている。

 いや、自分たちが乗ってきた馬車があるだろ、それに乗れば?をルーズは丁寧に言い換え伝えた。


『今回は馬車がないんだ』

『舟で下ってきた』


 思わずシヴァンを見た。すごく嫌そうな顔で頭を振った。『本当に勘弁してくださいよ』呟くが殿下は全くもって気にせずに『舟の方が早く来れそうだったから』と宣った。


 舟を使っての長距離移動は危険があり交通手段として確立されていない。水源には多くの魔物や動物が集まる。陸から空から水中からと本当に危ないのだ。

 それを2人でのこのこやって来たらしい。


『アシェルが舟を風で操縦し、私が邪魔なものを排除した。2時間くらいで来れたんだ。すごいだろ』


 通常は整備された安全な道を通り馬車で半日以上かかる。あまりの早さに言葉が出ない。

 すごいな、流石師匠たち…と思いながら気付く。


 川から来たってことは街に入るための検問を受けていないはずだと。それはただの…『密入こ…』く。と言い終わる前にシヴァンにしーっと言われた。


『私たちは何も知らない。いいですね?』

 ルーズは無言で頷く。偉い人たちがどうにかするから私たちは無関係を貫くらしい。

 知らないことが良しとされることもあると知り、複雑な気持ちだ。



『そんな訳で、私たちは城にはいれなくてね。今日はよろしく頼むよ』

 爽やかな笑顔で厄介な頼み事をするボルデディオ。人を使うことに抵抗がない。さすが王族である。



 キーラ邸に戻ると、執事たちが当たり前のように客人を迎え入れた。最初から決まっていたかのような段取りの良さ。感心しているとタナーが早く寝る支度をしましょうと急かされる。


『ルーズ今日は見事だった。ではまた明日に』

 殿下はシヴァンにお礼を言うと執事の後について行った。師匠は頷きながらルーズとシヴァンを見た。

 『早く寝なさい』と保護者のようなことを言い残し行ってしまった。


 残された2人の姉弟は顔を見合わせ笑った。

『今日は疲れたね、言われた通り早く寝よう。おやすみ』


 部屋に戻ったルーズは気が抜けてベッドにそのまま飛び込んだ。一度倒れると手を上げるのも億劫だった。もう無理…

 後ろでタナーの悲鳴が聞こえたが、眠気に負けそのまま夢へと落ちて行く。諦めたメイドたちは寝たルーズを起こさぬように顔を洗い、着替えをさせた。

 帰宅後に飲んで欲しかった美容茶やむくみ取りマッサージもやりたかったが仕方がない。明日はしっかりケアをしようと決心しメイドたちは退出して行った。




 ゲストルームに通された隣国からの密入国者たちはシヴァンを招いての小さな集会を開いていた。


 まだ暑さが残る夜。3人は氷入りのワインで乾杯した。


『それで、今回はなんで急に来られたんですか?』

 シヴァンは2人に聞いた。冷えたワインが眠気を飛ばし湯浴みで熱った体に染み渡る。


『実験中だった。もし"天災"が現れた場合に奴より先周りするための手段があるかどうか』


 100年に一度の天災は隣国モダーナリ国に現れ、破壊を尽くす。多くを破壊し終えるとインダスパ国へ移動すると言われている。

 だがモダーナリの奥地で現れるのかインダスパ側で現れるかはそのとき次第だ。実際モダーナリには来ずに真っ先にインダスパが襲われた時があった。


 モダーナリのどこで現れるかはその時次第。


 記録では、地面から這い出てきた時は、山のようなモグラの魔物。川から出てきた時は、大波のようなアメーバスライムだったと書かれている。


『実験をしていたら、アシェルが弟子から手紙の返事が来ないから行く、と』

 そのままついでに来てみた、と。本当にやめて欲しい。天災の対策をしてもらっておいて申し訳ないが、もう少し考えて欲しかった。


 両国は国交良い、お互い助け合いとても良き隣人だ。昔は同じ国だったそうだが、隣人の自由な気風を見ると何故別れたのかはなんとなく想像できてしまう気がする。


 殿下は気分良さそうにワインを飲み干していた。

 それを見ると、今が良い関係なのでまぁいいか…と考えるのをやめておいた。


『せめて突発な思いつきでも連絡はください』


 あー…とボルデディオは言葉を濁しアシェルを見やった。

『ルーズに、夜会に行くがいいか?と手紙を出した』


 返事が来なかったが…と遠い目をしてアシェルが答えた。ボルデディオも一応聞いたのだ、本当に行くのか?と。だが筆頭魔法士は、弟子に手紙を書いたから大丈夫だ行く言った。

 再会に泣くほど喜んだ弟子が手紙を読んでいないとは思わなかった。返事はただ忙しいのだろうと。


 そう言われたシヴァンは何も言えなくなった。それは可哀想だが、普通は返事を待つだろう…頭が痛い。

 義姉上…自宅に帰ったら寝るか本読んでるとは言っていたが手紙に気づかないなんて…1人で生活できないタイプだな。


『…次からは連絡役は別の者にお願いいたします』

 そう言うのが精一杯だった。隣国の2人も深く頷いていた。


 それから天災について情報交換や近況報告を話し合った。最後にアシェルはライザックがどうなったか分かり次第連絡をするよう頼んだ。生温い生活を送るようなら定期的に送電するそうだ。

 ボルデティオは呆れた顔をしたが義弟は『いいと思います』と大賛成だった。


 そうして、空に月が見える時間に解散した。




 シヴァンはその日の日記に[楽しい夜会だった。ルーズ義姉上に感謝を]と記し、最後に[隣人と付き合うには深く考えないこと]と残し1日を終えた。




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