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『義姉上お疲れ様』


 シヴァンに渡された果実水は、氷が入れられていた。冬以外に飲食できる氷があることにさすが公爵家だなとルーズはお礼を言いながら感心していた。


 お披露目会が終わったあと、ルーズはキーラ公爵家に来ていた。今日は公爵家に泊まり、シヴァンと共に夜会に行くことになっている。

 

『挨拶もその後の社交も公爵令嬢として立派だった。それにルディアシス殿下も義姉上のことを褒めてましたよ』


 タナーも後ろで頷く。

 キーラ邸には成人女性の世話役ができるメイドがいないため城から数名来てもらった。

 書類上ルーズの実家になるキーラ邸に本日初めて来ることができた。普段宰相もシヴァンも城にいて休みもバラバラで訪れる機会がなかった。


 城で何度も豪華な部屋に泊まって慣れているとはいえ、貴族の豪邸で我が家のように寛ぐことは難しい。

 タナーたちが一緒でなければ初めての社交後にさらに気疲れしてしまうところだった。

 

『本当ですか?ルディアシス殿下とはあまりお話できなくて。ちゃんと出来てたように見えてたのなら良かったです』

『実際出来てたよ。あんな(怖そうな)婦人方と笑顔で話せるだけですごいことだから』


『皆さんお優しかったですから。気を遣っていただきました』

 

 シヴァンは知っている。あのご婦人方が気に入らない人間を排除することは蟻を払うのと同等でやることを。

 アリナーデのお気に入りだろうと彼女らならやる。誰にもばれず優しい笑顔で気付いたら輪から外されるのだ。王族と公爵家がついているのもあるかもしれないが、ルーズ本人が気に入られたのだろう。

 


『そうですか。それなら良かった。それではまたディナーで』


 ルーズは笑顔でシヴァンを見送る。


 たった数ヶ月ほどで平民から貴族になり認められるまでになった義姉のこの先が明るい未来であることをシヴァンは願った。

 



『ふぁ…』

『ルーズ様、まだ時間もありますし少し眠りになりますか?』

 欠伸をするルーズにタナーは声かけた。シヴァンが退室してから気が抜けて急に眠気が出てきた。

 ルーズは頷きメイドに挨拶をしてベッドに入り込んだ。城のベッドより広いベッドはスルスルした肌触りのシーツが心地よい。

 手で感触を楽しんでいるといつの間にか眠っていた。





 ルーズが眠ってから一時間ほど経った頃キーラ邸に来訪者が現れた。


『旦那様は会わせないと言っておいでです。どうぞお帰りを』

 招かざる客を執事が追い返そうとするが、迷惑なことに帰ろうとしない。相手がそこそこな身分なため力づくというのも躊躇う。キーラならやりそうだが。

 さて、どうしようか悩ませていたところにシヴァンがやってきた。


『何してるんですか。父に会うなと言われたのですよね?また怒られますよ、父と国王に』


 目の前の勝手に来た客の男は小さな声で分かっていると呟くが一向に帰る気配がない。シヴァンが屋敷の警備に目配せし追い出そうとすると、男は膝をつき懇願し始めた。


『一度ルーズ嬢に謝罪がしたい』


 頼む…とプライドを投げ捨て年下に頭を下げるのは、魔商ギルドの現ギルド長だ。何を今更、とシヴァンは舌打ちしそうになったが思いとどまる。

 

『…父に連絡をします。それまでお待ちください』

 大変不本意だがシヴァンはギルド長を邸に招き入れた。一番格の低い部屋に連れて行くように指示を出し父親に連絡をとった。

 明日の準備で忙しい宰相の返事が来たのは30分ほど後だった。



『お待たせしました。父から連絡がきました。会わせることはできませんが"伝言なら伝える"と』


 最初から返事が分かっていたようで、ギルド長は懐から手紙を出しシヴァンに手渡した。

 だったら最初からこれをよこせ、と苛立ち見たが彼は気にしない様子だった。


『ちゃんと私の口から説明するのが一番だと思ったんだ、すまなかった。手紙は君が検めてからルーズ嬢に渡してもらって構わない』


 父親から、ギルド長は周りに流されない強さがあるため無理やり巻き込むしかないと微妙に褒めているような愚痴を聞いていた。シヴァンは直接ギルド長関わったことがなかったが、たったの小一時間で父の苦労を垣間見た気がした。


『私か父が確認後、義姉上に渡します』

 そう言うとギルド長は安心したように笑い、宰相によろしくと言い残し帰って行った。



『シヴァン坊ちゃんお疲れ様でした』


 執事が熱いお茶を入れて持ってきてくれた。手紙を読むのにちょうど良い温度に、笑ってしまった。


 『聞いてたのか?』人払いした部屋での会話だった。何も言わず執事は微笑む。どこで聞いていたのやら。

 優秀な我が家の使用人によくお礼を言って下がってもらった。


 さて、何が書いてあるのか…


 手紙は三枚入っていた。一枚目は謝罪。二枚目は聞き取り調査の結果が書かれていた。

 調査の結果、ルーズの付き纏いはなかったと結論づけた、と。仕事の評価が不当だったことはギルド職員の評価側の知識不足によるものと判明したらしい。


 つまらないことしか書いてないな…読み飽きたのを我慢して3枚目を手にした。

 熱かったお茶を口にすると緩く感じたが渋みが増し眠気が飛んだ。よく分かっている執事に腰痛に効く薬をあげようと決めた。


 三枚目は、ルーズがギルド本部に呼ばれた理由についてだった。


[ルーズの上司である部長が推薦状を書いたが、本人が望んで書いたわけではない、書かされたと証言した。だが誰に書かされたかは言えないと。その後部長は行方不明になっている……


…部長の手紙やメモに'闇の魔法"という言葉を複数回見つけた。ルーズの魔法ではないかと推測する。


気ををつけられたし]



 これはルーズ本人ではなく、検分するキーラ宛の手紙のようだ。わざわざ自分でここに届けに来たということは、部長とやらの後ろに誰がどれだけいるか分からないから。

 きつく目を瞑った。心臓の音が早い。



 父に連絡…は安易に取れない。直接会えるのは明日の夜会の後だ。


 本来なら明日の朝に帰宅する予定だったキーラ。だが夜会まで帰れなくなったと先ほどの連絡に併せて伝えられていた。


 シヴァンは何もできない自分に歯痒さを感じた。焦る気持ちを落ち着かせる。

 手紙を私室にある魔法具の金庫にしまい、これからどうすればいいか考えた。



 タナーを呼び、ルーズに何かあればキーラ家にも連絡をくれるように頼む。それから今後さらに身辺に気をつけるように、と。


『かしこまりました。


これよりルーズ様専属のメイド兼護衛を努めさせていただきます』


 シヴァンが驚いていると、アリナーデが以前にルーズの周りが変だと感じたり危なくなったらルーズ専任になるよう言われていたらしい。


『さすが…アリナーデ様』

 すごいね、と感心八割恐怖に二割気味で返事をすると睨まれた。いやいや、11才だぞ…末恐ろしすぎるだろう。


 キーラ邸ではルーズのためにメイドを増やそうとしていたが身元が確かで、ある程度戦えるか身を守れる人物というのがなかなかいなかった。

 さらに元平民に仕えたいという人間が少なく、正直タナーが来てくれるのは本当に渡りに船だった。


『今日来ているメイドはルーズ様専属で働くことに了承したものたちです』


 必要な人数を城からこちらに移籍する、と。


 何人でも欲しいが、父と相談が必要だ。シヴァンは明日以降キーラ邸で働く人間を決めることをタナーに伝えた。



『あと…タナー悪いんだけど、義姉上に明日からここに住むことをそれとなく伝えてくれる?』


 シヴァンからいきなり言われるよりはいいだろう。

そう思ったのだが、一時間後ルーズの絶叫が邸に響き渡った。



 自分で言った方が良かったか…?と少しだけ後悔したが、これからの生活が楽しくなりそうだと鼻歌混じりで廊下を歩いた。


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