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『ルーズ様明日のお披露目会に備え今日はくれぐれも絶対に夜更かしませんように。寝る前にこのお飲み物を飲んでください。分かりましたか?それではお休みなさいませ』


 ルーズは明日のお披露目会に備え、城の仮眠室を使わせてもらった。今タナーによる美容のための全身マッサージが終わり今日は眠るだけ。


 ベッドに腰掛け息をついた。目を瞑ると自分の中の焦りや不安が見えそうになり、慌てて目を開けた。

 今日までやれることはやった、と…思う。頑張ったと言える。それでも不安は残る。


 キーラ宰相に相談したが、いればいいという雑なアドバイスをもらい、シヴァンくんには何かあれば私が対処しますと笑っていた。

 ペイルさん曰く『キーラ公爵家なので大体は許されます』という言葉をもらった。近しい人間の助言を思い出す。助言かは怪しいが。


 マリアドに指摘されていた指先は潤い、髪は艶やかになった。見た目だけなら令嬢であるはず。


 みんなが大丈夫だと言った。信じよう。みんなをそれから自分を。

 

 タナーが入れたお茶は酸っぱくて驚いたが気合いが入るようなそんな味だった。


 溜まった疲れから直前までの心配とは裏腹にルーズは、横に入ってすぐに眠りについた。

 




 


『おはようございます!』


 それでは始めましょうか、の合図に全身隈なく全て、全てを磨かれ塗られ香りづけが始まった。

 数人がかりで揉まれている間ルーズは料理の工程みたいだなと思った。痛覚がない肉片にやるやつだな、と。


 痛いと叫べば、危ないので叫ばないよう言われ黙って耐え、気づいたら全身もちもち爪はぴかぴかしていた。


 やっと終わった…


 その後は軽食をとりながら、メイク、髪結をし最後に宰相から贈られた清楚な七分袖のロングドレスに着替える。

 襟が詰まっていて窮屈に見えるが、素材が柔らかく通気性が高いため着心地が良い。歩くたびに揺れるレースもとても素敵だ。

 

 メイドたちの技術とドレスのおかげで『もはや別人では…?』疑問が口を出た。


『それがルーズ様本来の美しさです』


 タナーがすかさず言い切ってくれた。前向きな言葉に惚れてしまいそうになる。『タナー、いつもありがとう』そう言うと2人で笑い合った。


 貴族が馬鹿にされたら家族だけじゃない、こうやって支えてくれている人も馬鹿にされてしまう。頑張る理由をまた一つ見つけた。

 

 


『ルーズ様会議が終わりますので移動をお願いします』

 いよいよだ。

 一度ルーズ・キーラとして名乗れば、ただのルーズではなく"公爵令嬢の"ルーズになる。知らなかった分からないが通用しない世界に踏み出す怖さに手が震えた。

 『大丈夫です』タナーはそう言ってルーズの襟元に馴染んだエメラルドのブローチを真っ直ぐに直した。


『いってらっしゃいませ』



 城の使用人に連れられた先の控室にはシヴァンが待っていた。知っている顔に緊張が和らぎ自然と力が抜けていく。

 お披露目会は城の庭を使用したガーデンパーティー。参加者の貴族が揃ってから義弟のエスコートで登場することになっている。


『義姉上そのドレスも似合ってる。緊張してる?心配しないであんなに頑張ったんだ大丈夫。それに私がいます』


 さぁ、行きましょうと言ってシヴァンは手を差し出した。ルーズは息を吐き出しその手を取った。

 一瞬力強く握られ戸惑って顔を見上げると前を向きながら義弟は『私たちは誰になんと言われようと姉弟です』隣にいる義姉だけに聞こえるように呟き、一歩足を踏み出した。




 国花でもある白い百合が咲き誇る庭に幾つも並べられたテーブル。菫の刺繍が施されたクロスに彩られたその周りを囲んでいる紳士や貴婦人たち。

 同じ第一王子派の家が集められていると聞いているが、だからと言って全員がルーズを認めるとは限らない。それでも義弟の横で微笑み立つ。


 庭に降り立った瞬間に集まった視線は、刺さるような痛さがあった。予想通り問題ない。勝負はここからだ。


 シヴァンの手を離れ一歩前に進み宰相の横につく。

 アリナーデを手本にした微笑みで、サフィールのような眼差しで、ルディアシスに習った立ち姿で。

 シヴァンに真似た柔らかい声を意識しながら貴族としての初めの一歩を踏み出す。


『皆様、お初目にかかります。ルーズ・キーラです』


 イリアとアリアにみっちり扱かれたカーテシーを披露する。隣で宰相が小さく頷いた気配がした。

 出来た。顔をあげ前を見る。大丈夫。


 視界の端でアリアが頷いたのが見え、安堵で気が抜け僅かに崩れそうになった体制をさり気なくキーラが支え『我が公爵家の娘になったルーズをどうぞよろしく』と言葉を繋いだ。

 一瞬のグラつきは目ざとい人間には気付かれたが、聡い人間ならそれを瞬時にフォローに回った宰相のルーズへの扱いに気付いただろう。

 

 まばらに拍手があがり、やがて大きな拍手となった。



 最初に挨拶にやってきたのはアリア夫人とタスペル公爵だった。

 4大公爵家はそれぞれ王を支えるが付かず離れずの距離であまり互いに干渉しないらしい。冠婚葬祭などは参列し祝い悲しむ。遠い親戚のような付き合い方だと説明された。実際どこかしらで血のつながりはあるため遠い親戚らしい。

 

 『ルーズさん、堂々とした立ち振る舞い良かったわ。最後はご愛嬌ね』

 

 挨拶の去り際にアリアに褒められた。思わず自然の笑みを返してしまい、夫人からにこやかな注意を視線でもらった。手厳しい。


 残りの二つの公爵家は当主が一緒に挨拶に訪れた。

 2人はキーラに形式的な祝いの言葉とルーズに『大変だが頑張りなさい』と教師のような眼差しを向け去っていった。

 いい人たちのようだがキーラ家とは仲が悪いのかと疑問に思っていたところ、シヴァンが『父上とあのお二方は幼馴染で、ただの悪友です』と教えてくれた。ついでにアリア夫人も幼馴染のようなものらしい。

 公式の場であまり仲良くするのは勘繰られたり面倒なためこういった場ではあまり話さないようにしてるとのことだった。


 お披露目会は私的な集まりに近いとルーズは聞いていたが貴族が集まれば公的なものになるのだと、増えた知識を頭に入れた。



 『あとは適当にあしらって良い』

 

 ここからは、ルーズが格上になる。負けるなということだ。アリア夫人を思い出しながら背筋を伸ばし、笑みを強める。



 ルーズたちの前の列を見た時、これ全員と話すのか…と内心急拵えした貴族の心構えが折れそうになるのだった。

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