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『では、私が不具合を見つけていた魔法具は全て回収されたのですね…良かった』


『はい。ルーズ様のおかげで助かりました。ありがとうございます。こちらが報告書です』


 ボルデティオたちが帰国した日から数日後の今日、色々片付いたということで関係者であるルーズは報告のため城に呼ばれていた。


 すでにボヤ騒ぎがあった魔法具やまだ流通していない魔法具も魔法士団が迅速に動き、全て回収し終わったとのことだ。新たな被害もなく済んだのはルーズの功績だ。

 今後はギルドの検品作業も安全面に配慮しながら行う方針にしたとギルド長より連絡がありこれからは様子見だが大丈夫だろうと言うことだった。


『今ギルドは不良の魔法具を流通させたとして後始末に追われているそうですね。

自業自得なので一切同情はしませんが、ギルド所属の魔法士たちがあまりにお粗末だと魔法士団の方達が鍛え直すと派遣されてるとか。

今回の放火事件で犯人を捕まえろ、と方々を走らされたので似たような事件がなくなるとうちとしては助かります』


『ええ。魔法士の資格を取るためだけ頑張ったて奴らが多くて…魔法士になってからが本番だと教えに何人かが行っています。

少しはマシになると思いますよ。色々』


 文官や警ら隊、魔法士団の人たちから話を聞くに、ギルドは外からの介入により少しは良くなるようだ。

 いいことだと思う反面ルーズは、それを他人事のように聞いていた。


『それと、アメリ様の件ですが理解できない主張ばかりでした。処罰は魔法士資格の剥奪とギルドからの除名処分、キーラ公爵家からアメリ様の生家伯爵家への当主直筆の抗議文が送られております』


 あの日シヴァンが迅速に父親のキーラ宰相にルーズが攻撃を受けたことを報告し、その場で怒りながらキーラは丁寧に抗議文を書き上げ、特急速達で相手方に届けさせた。

 伯爵家から急ぎの謝罪文が即日に公爵家とルーズの元に送られてくるあたり相当強い抗議文だったのだろう。

 しかし肝心のアメリからの謝罪は一切なくルーズはなんの感情も持てないまま伯爵家からの手紙の文字を見るだけだった。



『…アメリ様に会うことは可能ですか?』


 深く考えて出てきた言葉ではなかった。

 ただふと思ってしまった、私はあのギルドで何だったのかアメリなら教えてくれるかもしれないと。


『可能ではありますが……本当に?』


 ルーズが頷くと、文官は難しい顔をしながら確認してまいりますと言い残し席を立った。


 20分ほどで準備が整ったというので、貴人牢に向かうと何故かルディアシスが扉の前にいた。


『やぁ私も話を聞きたくて同席させてもらう』


 仕方なく了承し中に入ると、部屋の中は丸みを帯びた家具が置かれ窓にはおしゃれな意匠の鉄格子。ここが牢だと言われなければ良い暮らしをしている庶民の家のようだった。

 質素なワンピースを着たアメリはやつれてはいたが貴族の品は損なわれてはいなかった。静かに椅子に座りこちらが来るのを待っていた。


 さすがにルディアシスが来るのは予想外だったのか目を丸くし、急ぎ礼をするが大きく音を立ててしまっていた。


『…!失礼いたしましたっ殿下がいらっしゃるとは…』

『いやいい。私は後ろにいる』


 殿下はルーズを座らせると、自分は扉の横に立ったまま背もたれそこから動かなくなった。そのまま話を聞くらしい。

 アメリは一息つくと、冷静さを取り戻したのか真っ直ぐルーズを見た。

 

『…私は。私はあなたのことが嫌いでした。

…でも、それがあなたを攻撃していい理由にはならなかった。


私アメリ・トータルスはルーズ・ベクタール、あなたへ心からの謝罪申し上げます。身勝手な理由により魔法を使いあなたを攻撃しようとしたこと誠に申し訳ありませんでした。


聞きたいことがあれば質問に答えます』


 アメリは頭を下げて謝罪した。形だけでないことは目の前で見ていて伝わった。

 伝わったからこそ、まさかの行動に受ける準備が出来ていないルーズは慌ててしまった。


『許す…かどうかは、まだ決められませんが謝罪は受け取ります。顔をあげてください』


 なぜ急に謝罪する気になったのか不思議に思っていると、虚なようなすっきりしたような曖昧な瞳に見つめられた。

 

『そうね、なんで急にと思うわね。

最初はあなたへの恨みばかりで他のことを考えられなくなってしまったの。けれどギルドの除名と魔法士資格の剥奪を聞いて、全部馬鹿らしくなった…

そうしたら、私何やってるのかしらってようやく考えられるようになったから、かしらね。


私があなたを攻撃したのは逆恨み。

でも嫌いな理由は、ギルドを引っ掻き回したから。まぁそれも私が平民だからと距離を置かずに助けていれば防げていたかと思うと結局は逆恨みだわ、自分が嫌になる…』


『…私、ギルドで何かしましたか?』


『何かしたわけじゃないけれど、あなたが関わってる』


 これには、ルーズだけでなくルディアシスも頭を捻った。その様子にアメリは愉快そうに笑った。


『本当は…あなたが悪いわけではないの。ただ最初に近づいたのがアレだったのが運が悪かった。


そもそもあなた何故本部に呼ばれたか知っていらっしゃって?』


『いや分からないです急な異動だったんで…アレ、とはライザック様のことでしょうか?』



『ライザック?なんで…ああ付き合ってたんでしたっけ??あの口だけ男は既婚者だからやめときなさい。


違うわ。魔法具管理部部長のディル部長よ』


『ディル?』


 ルディアシスが思わず呟いた。ルーズは話が見えず理解が追いつかない。

 近づかれた記憶がない。ただ最初から嫌われていて…そう言えばなぜ最初から?


『ルーズさんの本部推薦が特殊だったの。優秀だからと特別に地方の支部から異例の昇格扱いだったわ。

皆んなどれだけ優秀な人間が来るかと浮き足だったもの。

最近ギルド全体が魔力不足だったし魔法士の質が下がったって言われてたから尚更ね。


それが、まぁ使えなかったわね。びっくりしたわ』


 ルーズもびっくりである。

 そんなに期待値を勝手に上げられては居た堪れない。魔力量が豊富なだけで知識はないと試験の結果でも出ていたはず、なんでそんな話に…


『でもそれも仕方なかったのね。田舎の魔法具が数世代も遅れているとは知らなかった…。

リーベ出身の警ら隊員に聞いて初めてあなたを理解したわ。…そんな設備でよく生活できたわね。

私たちも田舎を知らなすぎた…無知はお互い様だった。


それでそんなあなたを本部に推薦したのが、ディル部長だったの。大変優秀な平民が来る、と噂を流したのもね』


 ますます意味がわからない。わざわざ呼んだのに小さい嫌がらせを浴びせてきたのか?

『私、部長に嫌われてたと思うんですが』


『そうね…私はあなたが使えなくて部長が嫌ってると思ってた。

私の友人は事務員だったんだけど、部長が書いたあなたの推薦状を2枚見つけたと相談されたの。一枚は、優秀な魔法士候補としてもう一枚は、魔力源として…だったそうよ。

昇格理由はどちらだったのか他の人には分からない。本人も知らないならおかしな話ね。


それを友人が先日のギルド会議で提出したら、部長は俺は知らないの一点張りで…怒鳴られた上に友人は参考人として城に連行された』


 通常推薦状は一枚。原紙をギルドが保管し複製紙を本人に渡す決まりがある。が、ルーズはそんな規則は知らない。

 推薦状は渡されていないことも推薦状が二枚あることもおかしな話なのだと言う。



『ねぇ、貴女なんなの?』


 アメリは静かに問う。

 ルーズが目を合わせると、すっきりしたようにも感じた赤胴の瞳が光の加減のせいか深い黒に見えた。


 怒りも嘆きもなく感情の見えない色。

 なぜかその色を見ていると罪を責められるような暴かれるような少しの息苦しさを感じさせる。




 彼女は謝罪はしても憎悪がなくなったわけではないのだと、ルーズは思い知った。


『私には……分かりません』


『そう。やっぱり"分からない"のね』


 

 想像していた以上の後味の悪さを残し、ルーズは貴人牢を後にした。

 

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