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ギルドの過去から現在

『なんかリーベの"村"からすごい優秀な子が来るらしいわよ』


『リーベ…てどこ?』『さぁ?田舎でしょ』『それに平民だって…』『…それだけ優秀ってこと?すごいわね』


 魔商ギルド本部では、田舎から女性が異動してくると噂が広がった。本部は忙しく、大きな街のギルド支部からしか異動がないため誰も知らない町からやってくる人物に注目が集まったのだ。



『リーベの支部から来ましたルーズ・ベクタールです。よろしくお願いします』


 にっこり歯を見せて笑う彼女は、美人でもないのに人を寄せ付けるような不思議な魅力を持っていた。

 ギルド本部にいる平民は爵位こそないが家柄がよく貴族教育を受けたものばかり。相談にやってくる庶民はギルドの人間が貴族やそれに近いと知っているために無闇に笑いかけたりしない。


 異色の人物の仲間入りは、ギルド本部の見えない色味に混ざり、元の色を少しずつ少しずつ変えて行った。


『すみません、これは見たことがないので分からないです。どう扱うものか教えて頂けますでしょうか?』


 初日に新入りは、この街でよく使われている魔法具を"分からない"と言って教えを乞いながら仕事をしていた。

 そんなことも分からないなんてことがあるのだろうか。分からない、知らない出来ないから教えて欲しいまるで幼子だった。

 あり得ないと皆んなで話した。


『優秀って最初に言ったの誰よ!?分からない知らないばっかりじゃない。5歳の子だって言わないわよそんなこと』

『ええ、本当に。分からないなんて、馬鹿にしてくださいって言ってるのと同じだわ。一緒に仕事なんかできない』

『私、部長に評価下げるように言ってきます』


 口々に言いたいことが飛び出し、新入りの不出来を上げていった。無知に仕事が遅い、言葉遣いもなっていない、お茶の飲み方も汚いなど全てが目についた。

 だが多分一番気に食わなかったのは、自然だったこと。一挙一動に気にかけず自然体でありのままに生きていたこと。それに彼女らは気づかないふりをした。


『まあまあ田舎の娘さんらしいし、俺が話聞いてみるよ。今暇だし』


 そう名乗りを上げたのは上級魔法士のライザック。魔法の実力があるが資料を作れば誤字ばかり字が汚く、回せる仕事が少なく暇を持て余していた。


 次の日からライザックは新入りといるようになった。



 新入りは、少しずつ分からないということが減っていった。ライザックのおかげもあり、一生懸命なことだけは伝わったため手を貸すものもちらほら出始めた。


 ある日、新入りが観たこともない魔法具を持ち込んだ。ライザックが聞いたところ誤字が分かるらしい。


 新入りが席を外した隙に、ちょっと使ってみたら、一瞬で書類の不備が浮き上がった。新入りのくせに楽しやがってと思ったが、魔法具がなくなると困るためみんなに教えてこっそり使った。

 新入りの悪口を言いながら。


 ライザックなんか私物のように使い始め、そのおかげで仕事が回ってくるようになったようだ。めっきり忙しそう。

 ギルド長が、ノルマを増やしたことも忙しさに拍車をかけていたが。


『新入りは1日5件こなしているな。他の者たちも同じようにやるように、いいな』



 新入りは仕事が早い、見たところ手順や書類に不備はないがどこか適当にやってさっさと終わらせているに違いない。じゃなければ、おかしいとみんなで話した。

 それに合わせろだなんて自分たちは理不尽な目に合っている。間違っているのはギルド長と新入りだ。我々は間違っていない。絶対に。おかしいのはあいつだ。


 それから雑な新人が仕事終わりに誰かを外で待っているのをよく見かけるようになった。誰も気にも留めなかったが。

 

 


『え、あの新入り長期休みとったの?』

『そうみたい。仕事も適当に終わらせて早く帰ってる上にお休みだなんていい身分だわ』

『本当ね。あ、あの魔法具の魔力ちゃんと入れてくれるかしら。あの子はいらないけどあれは必要だわ』


 新入りは、魔力を補充せずに休暇に入ったらしい。これにはみんなが困った。あれは"アレ"がいないと使えない。


『なぁライザック。いつ新入りは帰ってくるんだ?』

『え?なんで俺が…知ってるんだよ』

『いやだって、プライベートでよく2人で一緒にいただろう?』


 室内がわずかにざわついた。ライザックは貴族の既婚者だ。女性と2人でなんてあり得ない。

 ライザックに質問した男は平民出の独身者、貴族特有のルールを深く理解していなかった。男女が2人きりでいることが不貞行為に見なされることを知らなかった。


『ちが…!あれは勝手にあれが!帰ろうとすると出口にいたんだ』


 ライザックは咄嗟に言った。言うしかなかった。

 そしてその話が巡り巡り新入りが上級魔法士の付き纏いをしていたと広がった。


 何も知らずに休暇を終えた新入りは、解雇されギルドは元の色に戻るはずだった。


『ねぇ!この魔法具使えなくなってる!』

『やだ、こっちのマニュアルもバラバラ、せっかくつかってやってたのに!』


 急に仕事がやりにくくなるわ最近体がだるい。ギルド全体に淀んだ空気が漂った。



 ある日突然ギルド長が怒鳴りながら各部署を歩き回り、魔法士を集めていた。

 次の日もまたギルド長は来て今度は悲鳴をあげた。魔法士団が来るからと片付けたりお茶出ししたりと忙しくあまり記憶にない。



 その数日後、魔法士団副団長がやってきてからギルド長は変わった。


 役職者を集めて長時間にわたり会議をしていた。時折怒鳴り声が聞こえてきて誰と誰が怒られたらしいとギルド内で噂が回った。他にも事務員が殴られた挙句に城に連れて行かれたとか。何やったか分からんが可哀想に。

 会議の後すぐに魔法士団がやってきて新入りの机をそのまま運び出し、あの魔法具も持ってかれてしまった。


 魔法具に頼り切ってたみんなは部長にあれだけは返してもらえるように頼んで欲しいと懇願した。

 後日、部長が不機嫌そうに出社して教えてくれたのは魔法具は新入りの私物だから返却不可と追い返されたとのことだ。

 それに返したところで古代魔法具を使えるほどの魔力があるのか?と鼻で笑われたらしい。


 古代魔法具?それこそ新入りに使えるわけがない。

 何を言っているんだと皆不思議がったが、返ってこないなら仕方ないと諦める他なかった。魔法士団には逆らえない。


 部長が個人の仕事部屋に入ると、大きな物音と共に『こんなはずじゃなかったんだ!!こんなはずじゃ!!』と叫ぶ声が聞こえ、皆で聞こえないふりをした。

 それから暫く魔法士団が出入りするようになって色々持ってかれていた。


 ギルド長が毎日出社するようになり怒鳴り声にも慣れてきた頃、部長と次にライザックがギルド長室に呼ばれた。


 中にいたのは短い時間だったはずが、2人は死んだような顔をして出てきてぎょっとした。何があったのか。

 部長はふらふらとした足取りで何かぶつぶつ言っていて姿があまりにも怖く皆が避けた。

 ライザックはひどく落ち込んでいて席についても動かず、誰も近づけなかった。


 

 ギルド長は、ギルドが検品した魔法具の不具合により火事が起きたこと、他にも欠陥品が流通した可能性があることを職員全体に情報を共有した。

 役職者と昔からいるギルド職員を集めて対策を取ると発表し、今やっている仕事について今後は2人体制、もしくはチームを組んで取り組むように通達された。


 今まで効率を優先してすまない、間違っていた。安全を優先するように、とのことだ。



 なにが起きたのかしばらく理解ができなかった。


 人は急にあんなに変わるのかと感動よりも戦慄した。絶対なんかあっただろうと。

 そういえばギルド長が先日騎士団により自宅から城に連行されたらしいと噂があったのを思い出し全職員は崖に立たされたのだと知った。


 この日から職員たちはやたらと視線を感じるようになった。勘違いだと思うが常に誰かに見られている気がするというストレスがじわじわと体を侵食していく。

 仕事は前より進むが、息を吸うたび靄を吸いこむように体が重みを増し思考が黒く濁る。


 我々は何を間違えたか、過ちに気づくのはもう少し後になってからだった。


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