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 魔商ギルドとは、街の人々の魔法や魔法具について困ったことや相談事を聞いてくれたり解決してくれる機関だ。

 中央にある魔商ギルド本部はそれに加えて民間で日々新しく作られる魔法具が安全かどうかを確かめたり、街や城の結界の維持の仕事もしている。


 国中から優秀な職員が集められるギルド本部は各町や村にある支部の憧れだった。

 能力を認められた実力者がいる一方で、そこそこの実力の貴族も働いていた。

 そういった貴族の職員は知識が豊富で皆に助言を与え、他にも権力者からの無理難題を適切に処理する働き手として十分必要な人材だ。

 双方が持ちつ持たれつやっていた。



 それが崩れ始めたのは前ギルド長のパルドがいなくなってから。

 現ギルド長は、効率主義。無駄なことを嫌い、仕事を早く終わらせることが評価されるようになった。

 すると、実力のない知識ある職員が冷遇されていき、やがて魔法量が多い魔法士たちが大きな顔をするようになっていった。




『これはどういうことだ!?』


 魔商ギルドでは、連日普段滅多に来ないギルド長がやってきては叫ぶ姿が見られるようになった。急にきて怒るので職員たちは何が何だか慌てふためく日々。

 魔法士団の副団長が受付機を持って行った日の翌日からギルドの雰囲気は悪くなる一方だ。


 そして今日は先ほど城から速達で届けられた手紙を読んだ途端に怒鳴り声が加算されていた。


『どう、と言われましても…検査上は問題はなかったと報告されたので…使い方に問題があったのでは?』


『お前が勝手に解雇した職員が検査で不具合が出ていたと証言しているんだぞ!?問題ないとした職員を連れてこい!』




『私がこの魔法具の検品をしましたライザック・マルスです。三日かけ検査し問題なく作動したため可としました』


 ライザックは、自分がなぜここに呼ばれたのか不思議でしょうがなかった。最近はミスなくやれているはずだったからだ。

 


『お前か!じゃあなぜこの魔法具はここ1週間で燃えているんだろうな?!

魔法士団の調査で連続放火事件はこの魔法具の自然発火だと認められた。一体どういうことだ!一つじゃない。数カ所で、だ。説明できるのか?!』


『え、いや、しかし、私が検査した時は問題ありませんでした』


『…その魔法具を検品した前任者は不可としたと調査でわかっている。どういうことだ?』


 ライザックは意味が分からなかった。

 この魔法具に前任の担当者がいたことも、不可になっていたことも部長からは何も聞かされていなかった。ただ早く検品しろと言われた案件だったはずだ。


 なんと言えば良いか思案していると、自分の横で部長が『あいつは無能のはず…』と呟いた。まさかそんなはずはない、と思いたかった。

 部長が毛嫌いしていた人間なんて1人しかいなかった。平民で、無知で、魔力量が豊富なだけの…


『あいつは…あいつは!無能だ!無能の検査なんて信用ならない!だから、だから……』


 部長は必死に訴えたが言葉はぷつっと途切れ、最後まで続かないようだった。


 俺が可にした魔法具の不具合をあいつは見抜いた?なぜそんなことが出来る??


 あいつはなんだ…



『ルーズ・ベクタールはその実力を認められ現在、王宮魔法教師として働いているそうだ。


なぜお前らはルーズを見下せた?なぜだ?ルーズとやらは何か大きなミスでもしたのか?個人評価書は私が見る前に魔法士団が持って行ったが何があったんだ。


…私には分からんよ。


お前らにはルーズの無能さが分かるのか?』



 心臓があり得ない速さで脈打つ。気持ち悪い、暑くもないのに汗がひとつ、またひとつ床に滑り落ちていく。

 ライザックは、自分の心臓の音がうるさく他の音が聞こえない。王宮の魔法教師?なんだそれは。

 お前は俺がいないと何もできないただの平民。無知で、何もできなくて、それで、それで……



『それに解雇理由も職員への付き纏い行為などとあるが、王宮で教師になれるやつがライザック、お前に付き纏いなんかするのか?

教師となれば人格までも問われる。なれた、ということは問題がなかったということ。調査はしたんだろうな?』


 部長の呼吸は浅く顔が血の気がなくなり白い。何かを探すように視線を彷徨わせていたが、やがて何かを見つけたように目を見開いた。

 

『我がギルドの上級魔法士が訴えたのですよ!?調査もしました!皆がルーズが無能だと!』



 この言葉を聞きギルド長は、初めて自分の過ちを悟った。


 何を言っている?付き纏いの調査に個人の能力は関係がない。まさか、本気で言っているのか…?

 私はこんな人間たちを野放しにしたの、か?



 …ああなんてことだ、何故彼らがあんなに冷たい目で私を見ていたのか、ようやく理解した。

 

 コレは私の、罪だ……。




『ライザック。お前は本当に付き纏われたのか?』


『わ、わた、しは……』

 口の中の水分が一滴もない。舌が乾き上手く喋れない。水が欲しい。


 水が……誰、か。




『お邪魔しまーす。あー無能の部長と肩書だけのライザックくんじゃーん!

ギルド長ごめーんさっきの報告に追加ー。ルーズちゃんが、不可にしたのに流通しちゃったやつの不具合箇所思い出してくれたから教えにきたよー』


 魔法師団副団長のデュオが部屋に突然現れた。

 部長とライザックだけが驚いており、ギルド長は慣れているようでまたか、という顔をしていた。


『不具合見逃したお馬鹿さんのリストにしてこっち(城)に送ってねー。魔法具回収もこっちでやっておくから感謝してーじゃーねー』


 魔力を少し残して副団長は消えた。どうやら映像だったようだと気づき、生身と見間違うほどの映像の精度の高さに驚かされる。自分との実力差を見せつけられたようだった。


 肩書きだけのライザックという言葉が突き刺さる。試験を何度も挑戦しやっと受かった上級魔法士という名に誇りを持っていた。行く行くは魔法士団という夢があった、自分ならいつかはなれると…

 自分の軸が揺らぎ足元から消えかけていくようだ。



『はぁ、いつもデュオ殿は一方的で困る…』とぼやきながらギルド長は、部長とライザックに向き直った。



『思い出せ。

ギルドの就職試験は甘かったか?ここは、本当の無能が働ける場所か?


気付け。

ギルドの部長になるまでにどれだけ努力した?

上級魔法士になるまでどれほど年月を掛けた?

それを全て無駄にするか?



もう間違いは許されない。


お前らもそして私も』



 ギルド長は2人を退室させると、息を吐き出した。


『嫌がらせをした相手が公爵令嬢になってて、隣国の筆頭魔法士の唯一の弟子だったてのは流石に言えなかったな。2人が気のど……いたっ!


いや、すみませんね。ただちょっと思っただけです』


 少し2人に同情していたら天井から何かすごい硬いものが投げつけられた。王に忠誠を誓っている影たちも何故だがルーズの肩を持っているらしく彼女にマイナスな事を言うたびに物を投げつけられていた。

 


『はぁ、ちゃんと仕事するか。パドス殿も怖いし…』


 罪を、償わなければならない。


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