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 ルーズがパドスから話を聞いていた同時刻。

 魔法攻撃を行なったギルド所属の魔法士であるアメリは、城の地下にある尋問室でイリアと検察隊に聴取されていた。


『アメリ、貴女はルーズと接点がなかったと調査報告書にあったはずだけれど、なんであんな事をしたの?

平民が嫌いなら近づかなければ良いでしょう?』


 

 終始不貞腐れたままのアメリにイリアは怒りを通り越し呆れ果てながら腕を組みじっと見つめた。


 中央都市に住む貴族同士さらに歳は違うが同じ魔法学校出身であり、昔からの知り合いのイリアとアメリ。彼女が平民嫌いなのは知っていたが、揉め事を起こしたということは聞いたことがなかった。

 

『全部、あの子のせいだからよ!あの子が来なければ何も問題なかったの。

それなのに!あの子がめちゃくちゃにして、挙げ句に勝手にいなくなったのよ!?』


 勝手に、はギルドの方だろう。小さな町の支部から中央のギルド本部に呼び、言いがかりを付けて解雇。

 あまりの態度にイリアは眉を顰め冷気が広がる。部屋の空気が冷たくなっていく。


『意味が分かりませんね。

ルーズが何をしたと?あなたに何かしましたか?


…ルーズが、何を?』


 目を合わせゆっくり問う。


 アメリは口を振るわせ絞り出すように『あの子、が悪い…』とただ繰り返しやがて気絶した。

 魔法士とはいえただ魔力があるだけの、魔物に出会ったことすらない貴族令嬢、少し漏れ出た"気"に当てられただけで意識を保てなかったようだ。



『は?…魔法士を名乗るくせにこんなものなの?ルーズは平然としていたというのに…よく見下せたものね』


 地位や肩書きがあるが実力や経験がない人間を仕事柄よく"見る"検察隊は苦笑いした。


『田舎の出のものは魔物や野生動物、他にも死と隣り合わせなところがありますから。中央の貴族には難しいですよ。殺気なんて知りませんから』


 殺気が込められてそれが本気かどうか分かるのは、本物を見たことがあるものだけ。ぬくぬくと安全な場所で己の力を磨いたつもりの貴族には、ただの威嚇じみた気でも殺気となり恐怖に思考が止まる。

 力を磨いたからこそ分かってしまう圧倒的な強者から当てられればそれはしょうがないと検察隊は思った。まぁ最初から立場を弁えろ、と言う話であるからこその失笑。

 

『そうなのですか。それは申し訳なかったですね。

検察隊の仕事を邪魔をしました…』


 伯爵令嬢が、公爵家の令嬢であるルーズに危害を加えたのだ大事件である。そのため魔法士団長のイリアが出てきたのだが、アメリはルーズが平民だと思い込んでおり何故イリアが介入してきたのか分からず不満だったろう。

 イリアの本心は魔商ギルド憎しで敵を見つけたので話しをしようと態々来たというのに、残念でならない。


 イリアは医療隊員に運ばれる魔法士を見ながら、ため息を溢した。つまらない…と言葉も一緒に。

 



『失礼します!パドス様よりイリア様にご報告がございます。

先日の連続放火事件についてルーズ様より新たな証言が得られました!』


 連続放火事件は街の至る所で時間を問わず起きていたボヤ騒ぎだ。被害は少ないものの街の至る所で似たようなボヤが数箇所あったため放火を疑われていたのだが…



『魔法具の不具合?』


『はい、ルーズ様がギルドに所属している時に不具合を確認していました。ですが、何らかの理由により別の人間が承認し街で使用されていたと思われます』


『……ではまだ使われているというの!?直ちにその魔法具の回収をせよ!』


 イリアは警ら隊に指示を出し部屋を飛び出す。

 パドスにギルドのことは任せよと王からの命令があったが、これはひどい。自分の目でどういうことか確認しなければ納得ができない。




『パドス様失礼致します。

ああルーズ!さっきは災難だったわね、大丈夫かしら?アメリはなぜか気絶してしまったからなんであんな事をしでかしたのか不明になってしまったわ。ごめんなさいね。

大丈夫?そう、良かったわ。次はないから安心して。


あと、先ほどこちらにも報告がきましたが、ギルドは何をしてるのです?もう全員クビにしましょう?』


 入室するなり怒涛に話し出したイリアに、ルーズたちは困惑気味。

 アメリが気絶?そちらの方が大丈夫なのか心配になる。

 パドスは、書類を見ながら眉間を揉んだ。



『これを見ろ』


 パドスはシワだらけの書類をイリアに差し出す。

 書類の内容を確認していくうちにイリアの目が険しくなっていく。


 書類は"職員評価記録"と書かれルーズ・ベクタールの文字。評価は魔力量が多いだけで仕事はできないとなっていた。

 上司、同僚、後輩からの聞き取りで魔法具を知らなすぎること、検品した魔法具を再度上級魔法士が検査すると問題は見つからなかったことから真面目なだけと書かれていた。彼女が可にした魔法具は再提出の走り書きまで。


『…ギルドはバカしかいないのか?』


『あ、入りたては本当にリーベで使われていない魔法具ばかりでみなさんに教えてもらってたのは本当です…何も分からなくて』


 イリアより先に見せられた評価記録に嘘は書かれていない。こんな評価をされていたことは悲しいが、評価されるような実績がなかったのは事実。

 そう言ったが、イリアもパドスも納得しなかった。


『古代魔法具を難なく使用していた時点で気づくべきだ。有り得ん』

『魔力量が多いだけと言うけど、じゃああのギルド内に同じ量を持つものがいたかしら?彼らバカだわ』


『しかも仕事ができないと評価したルーズが、次々軽々と作業をこなすものだから現ギルド長は、お前らはもっとやれるだろうとノルマを増やした、と』


『バカとバカしかいないのかしら』



 勝手にルーズを無知ゆえに無能扱いし続けた現場職員たち。無能の評価をまるまる信じ、無能より無能はいらないと圧をかけた上層部。

 知識を吸収したルーズが活躍しだした頃に無能扱いをやめれば良かったものを、辞められなかった。田舎の平民だからというだけで。

 焦り始めた時に起こった付き纏い疑惑。さぞ悦に浸れただろう。胸糞が悪い話だ。


 パドスとイリアは見てもいないギルド内の様子が手に取るように見えた。自分で作った蟻地獄にはまっていく奴らの姿が。

 無理やり広げた目の前の書類からは信じていた無能の烙印証明書を手で丸めた誰かの怒りが伝わる。



『こんなはずじゃなかったと負け惜しんだのは誰だったのかしら…』



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