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 ルーズは聞き取りを終えた後、アリナーデに連れられ第二王女宮にやってきた。

 沢山の人が行き来する城と違い、柔らかい空気に包まれ居るだけで気持ちが軽くなってくるような不思議な空間。

 足を踏み入れた瞬間ルーズはなんとなく帰ってきた、そう思えた。


『ルーズ様、あちらでお着替えを…』


 タナーに声をかけられて、転んだ時に宰相の大切なドレスを汚してしまったかもしれないことを思い出した。

 事前に魔法で防汚したつもりだが破けなどは防げない。確かめてもいなかったことに気づき青褪めた。


『私、どうしよう。大切なドレスなのに…』


 目に見えて沈んでいくルーズにタナーは大丈夫です、もし破損などあっても城の針子が総動員で直しますと微笑みかけ不安を少しでも取り除こうとした。


『タナーさんありがとう。後で宰相に謝りに行くわ』


 タナーは優しく微笑み甘い香りの紅茶を入れてくれた。甘い香りを吸い込むと黒い靄はルーズの中から消え温かい気持ちに満たされていく。

 第二王女宮のメイドにも着替えを手伝ってもらうと、いつもより華やかな髪型と化粧を施されていた。

 編み込まれた髪に小さな花飾りが咲き、強めに引かれた目元の化粧とちょうどいい塩梅の強弱がルーズの魅力をさり気なく引き出していた。


 鏡を見て普段と違った色味に戸惑っていると不意に視線に気づき思わず笑ってしまった。後ろでドヤ顔で居並ぶメイドたちと目が合ったのだ。

 そのうちの1人が、今日は気合を入れて仕上げましたと頭を下げた。これが彼女たちの励まし方なのだと知り、せっかくの化粧が流れそうになり慌てて上を向いた。

 それすらもドヤ顔で見つめてくるメイド達におかしくなって声を出して笑ってしまった。


『可愛い…ありがとうございます』

 ルーズがお礼を言うと満足そうにメイドたちは何度も頷き、ルーズ様可愛い可愛いと褒めに褒めた。

 ルーズは笑みを深くしもう一度お礼を言った。穏やかな時間に皆で笑い合った。

 




『ルーズお待たせ』


 落ち着いたシックなドレスに包まれたお姫様。髪を結いあげ知的な雰囲気を前面に出したアリナーデは一段と大人びて見え綺麗だった。


『これからキーラ宰相のとこに行くのでしょう?私も行くわ。行きましょう』


 城の中を並んで歩く。

 当たり前だが、アリナーデが歩くと皆が道を開け音が消える。今日はなんだか可愛らしい雰囲気を消し王族のオーラが強く出ており、ルーズは横にいることすら緊張してしまう。

 キーラと歩いた時よりも頭を深く下げている道の端にいる使用人や貴族に逃げ出してしまいたくなった。


 これを毎日か、と思うとアリナーデ様すごいな…



 アリナーデは宰相室の扉を叩くとすぐに返事があった。中に入室すると、シヴァンと文官が書類に囲まれていた。


『申し訳ありません、今宰相は席を外しておりまして…どうかなさいましたか?アリナーデ殿下にルーズ義姉さん』


『まだ報告が来てないのね…呆れるわ。

ルーズが伯爵令嬢に魔法で攻撃された上に突き飛ばされたの。今イリアが相手の聴取をしているわけ。

ルーズはパドスに話を聞かれて帰ってきたところよ』


『は?ルーズ義姉さん大丈夫!?

誰か知っているか?』

 シヴァンはルーズの無事を確認すると後ろを振り返り文官や護衛騎士に尋ねるが首を振るばかり、どこかで情報が消されたらしい。隣国の王子の出国の最中だったせいもあるかも知れないが、宰相の娘が攻撃されたのだ通常ではあり得ない。

 元平民のルーズに対して勘違いしている輩が城にはいるようだ。


『なんで…あぁパドス様ということはギルドか。もう潰せばいいだろ。

くそっ…早く義姉さんのお披露目会しないと。父に相談します。義姉さんそれでいい?』


『は、はい。お披露目会は必要であれば…あのそれよりシヴァンくんごめんなさい。私お母様の大切なドレス汚してしまって…宰相様にも後でちゃんと謝罪します』


 綺麗なカタバミのドレス。繊細な刺繍が朝露に濡れたようにビーズが刺され静かに煌めきは、着ていた故人の淑やかな美しさを表したようなドレス。

 ルーズに過失はなくともきっかけを作ってしまったのは自分だ。無関係というほど鈍感にはなれなかった。


『義姉さんが謝ることはないです。

それにドレスってどんなのでした?…ああ。あれなら大丈夫ですよ。あのドレスもう20年近く経っているのに綺麗だったでしょう?たしか父がまだやるのかというほど防御の魔法かけてたはずですので、例えナイフで切られても大丈夫ですよ』


 再度シヴァンは大丈夫と言ってくれてルーズは足の力が抜ける気がした。ドレスが無事で良かった…

 それでも地面につけてしまった事実は悲しい。


『ちょっと転んだくらいでは無傷です、が転ばされたんですね…本当に大丈夫でした?医師には診てもらいました??まぁ大丈夫ならいいですど、へぇぇ』


 シヴァンは何かあったらすぐ私が父に言ってください、とルーズに伝えた。迫力ある笑顔にルーズは『はい、かしこまりました』とうっかり敬語が出た。


『私たちはこれから城を練り歩いて、ルーズが王族と親しい仲だと知らしめるからそのつもりでいて』


 突然何を言い出すこのお姫様は…。


『ええ…ぇ?それはちょっと……その順序と言いますか、アリナーデ様それは、ね』

『嫌です』


 シヴァンが一応抗議してたようだが、負けた。

 何か不都合があるのか分からないが、本気で止めないところを見ると、大丈夫だろうとルーズはやりとりを眺めていた。


『では、行きましょう』

『シヴァンくん、急に来てごめんね。宰相様によろしくお伝えください。行ってきます』


 練り歩くというから何かと思ったが、ただの移動だった。見たことがない廊下を歩いてはいるが、向かう場所は第二王女宮のようだ。


『ルーズ今日は城に泊まっていくのはどうかしら?』

『いえ、またすぐ泊まる日になってしまいますし、今日は帰ります』

『あら、そう?いつでも泊まっていいからね』


 たわいない会話をしながらゆっくり大回りの移動は、多くの人の目についた。

 会話の内容、アリナーデとの距離感、それはただの生徒と魔法教師ではないとすぐに察せられた。

 元平民でどこからかキーラが連れてきた魔法士でもない怪しさ満点の娘というのが今のルーズの立ち位置。


 城の廊下を仲良さげに歩く2人の姿を見たものは、認識を改め、すぐに同僚や家族、派閥の人間に伝え噂はじわじわと中央都市に広がるだろう。


 アリナーデは歩きながら、貴族や使用人が頭を下げる前に一瞬2人の様子を見て驚く顔を確認し、ご満悦で自分の離宮に戻った。


『では、アリナーデ様今日はありがとうございました。また次の夜のお散歩の時によろしくお願いします』


『ええ、またね』


 今日は正面から王族の馬車を借りてることに気づかず自宅に帰ったルーズ。自宅に戻り、泥のように眠ったのだった。


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