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『こちらです』
通されたのは、城の奥めった場所にある部屋だった。
中には、見知らぬ老人と数人の文官などがいた。
机には多数の書類が整然と置かれ、一枚だけ皺が寄っており一度丸めて広げたようだった。
『君がルーズ・キーラ、旧姓はルーズ・ベクタールか?突然の呼び出しすまないな。かけたまえ』
老人はにこりともせず淡々とルーズを確認すると、一枚の書類を見せる。
『私は魔商ギルドの前ギルド長のパドス・ドレイアだ。君には数点確認したいことがある。
まずはこれを読んでなにかおかしな点があれば言うように』
もう二度と関わりたくないギルドとなぜこんなに縁付いているのかとげんなりだ。前ギルド長は悪くないが。
言われた通り手元の書類を見ていくと、よく分かない箇所が多い。
魔法具の検品報告書と書かれた書類。
ルーズが不可とした魔法具2点が可になっており、検品者の名前がライザックになっていた。…やり直したのかな?
ルーズが不可にした他の検品も最近可とされ出荷されたものがあった。そして何故か、未提出と書かれている欄の中にいくつかルーズが検品し問題なかったため可にして検品済みと報告したものもあった。
『すみません…おかしな点といいますか、分からない箇所が何点か』
不可にしたものが可にされ、この未提出分の中に自分が可にしたものがあると説明した。
これにはそばで聞いていた文官も首を傾げた。
『君が不可にしたものは、どれだ。理由を覚えているか?』
急に言われても全ては思い出せないが、一つだけ記憶に残っているものがあった。
『全部は分からないですが、これなら…
これは、同じ魔力量を注ぐ分には問題ないのですが、同日にバラバラの魔力量を何回も注ぐとヒートしてしまって危険だと判断しました』
公共に置く案内表示最新魔法具。
使用頻度が高く、色々な人が使うと想定されるためルーズは1日に少ない魔力や多めの魔力、やや少なめなど様々なパターンで使用し試していたところ魔法具が熱を持ち、煙が出た。
別日に同じ魔力量で何度も試したが問題はなく、頻度や回数ではなく魔力量の違いによる故障だと結論づけた。
『そのため不可としたと記憶しております』
ギルドが火事になると焦ってしまったからよく覚えています。と付け加えた。
『これがそうか…。先週のボヤ騒ぎの原因が分かりそうで良かったな警ら隊と文官たちよ』
警ら隊の1人が書類を持って退出していったのを見届け、パドスはさて、とここからが本番だと話し始めた。
『君には嫌なことを聞くが、上級魔法士のライザック・マークス…についてだ。
彼は君に一方的に付き纏われたと訴えた、が君は本当にそんなことをしたのか?』
カッとなった。
相手が高位貴族だと理解していたが、思い出したくない記憶を、塞がりかけていた傷を、もう一度開けるような話を今更…!
呼吸が乱れ、息を吐くたびに漏れる黒い闇。
限界だった。
パドスが立ち上がったのが見える。なんだ、なんなんだ。
詰られ、職を失い、親に心配をかけ、言いがかりをつけられ!分かりにくく優しくしてくれるキーラの奥様の、あんなに慕ってくれるシヴァンの母の、大切なドレスを汚されそうにまでなった。
私が何をした?
まだ、まだ…お前らは私を、そんなにも踏み躙りたいのか
全てを思いきり吐き出そうと、深く息を吸い込もうとした。
『ルーズ…!!』
背後の扉から飛び出し抱きしめてくれたのは、アリナーデだった。
『アリナー、デさ…ま?』
驚きに黒い闇がどこかに消えていく。
『パドス!聞き方がよろしくなくてよ。
ルーズ、彼はただ本当のことを聞きたいだけなの。今ギルドの不正を洗い出すのに前任のギルド長だったパドスが指揮をとってるわ。
貴女について解雇の正式な書類がなかったそうなの。もう一度関係者から話を聞き事実確認と問題を正しく解決することになっている。
大丈夫。
貴方を不当に扱わない。絶対に。だから安心して。
それから、つい先ほど城にてルーズがギルド職員に襲われました。その件はすでにイリアが対応しております』
『なっ!?なぜそんなことを…』
力が抜けていく。
アリナーデの手が微かに震えているのに気づき、自分が何をしようとしたのか思い出しゾッとした。
村を暗くするだけでも怪我をする人がいた、今の魔力量で城全体を暗闇に包めばどれだけの被害が出るのか想像がつかない。
『アリナーデ、さま申し訳あり、ません。
パドス様大変、大変失礼を、いたしました』
恐怖に口がうまく回らない。それをアリナーデが大丈夫だからと励ましてくれた。
『いや私こそ配慮に欠けていた。すまない。
職員からの暴行についても元ギルド長として謝罪する。
それから私は君が付き纏いをしたと思っていない。だが、ギルドにはライザックの証言のみが残されている。
君から話を聞き訂正をしなければならない。
協力願えるか?』
ルーズは頷いた。
自分視点での出来事、相手に言われたこと、感じたことを少しずつ話した。付き纏いについては、何を指しているのか分からないことも。
『ルーズ君辛いことを思い出させてすまんかった。君の証言を無駄にはせん。
あと、これは蛇足だが…
君はギルドで古代魔法具を使っておったか?』
『えっと……あぁ、骨董市で見つけた魔法具のことでしたら。大分古いのを使用してましたが古代魔法具かどうかはちょっと…。辞めた時にギルドに置いていきましたので今はありません』
パドスと書記をしている文官の動きが止まった。
『君はあれが何か知らず使っていたのか…?』
古代魔法具とは、魔力量が今より数倍あったとされる古代人が使用していたもので現代人では魔力量が足りず起動が難しいとされる。
『やたら魔力を持っていかれるとは思いました。なので1週間くらいかけて魔力をちょっとずつ入れつつ使用時は節力してました』
濃い魔力を薄く伸ばし使うと言うが、パドスと文官それにアリナーデでは理解ができなかった。
ルーズも感覚でやっているため説明ができずで終わった。その辺は仕方がない。
『まぁそこは良い。
古代魔法具をギルドの奴らはルーズが不在時に使用していたらしいのだ。その恩恵が切れて仕事ができなくなったと報告にあってな、何に使ってた?』
『えーだからたまにごっそり魔力無くなってたんですか?あー…。
あ、元は何の魔法具か分からなかったのですが、起動してみたら書類の誤字を見つけてくれるので重宝してました。便利ですよーあれ』
文官が羨ましそうに見てきたので、頷いておいた。あれは現代魔法具で普及させた方が絶対いい。
『誤字……。
あれはそうか、使用者もしくは魔力の持ち主の知識に反映されるのかもしれん。ああ、だから大量の魔力が必要なのか…いや分からんか。
ああすまん。君、勉強好きか?…いやなんとなくだ。
魔法具研究のやつらはあの魔法具は古代の医者が人体の不具合を見つけるのに使用していた物に似ていると言っていた。それを、まさか誤字を見つけるのに使うとは…』
と言われても、人体の不具合よりもルーズには誤字を見つける方がありがたかったのでどう返していいか分からなかった。
一瞬で誤字を見つけてくれるのは、本当に助かるのだ。文官も人体の不具合か誤字どちらを瞬時に見つけたいかと言われたら、それは難しい問題だと悩ませた。
『この件をギルドに持っていき調査する。
結果が出るまで気持ちが良くないだろうが、王族と四大公爵家、魔法士団騎士団各団長が君を信じていることを覚えておくんだ。
あーあと調査で下町の人間たちはルーズ君が悪いことをするはずないと言っていたと。自信を持ちしばし待て』
震える声でルーズは『よろしくおねがいします』と頭を下げた。
『ルーズ大丈夫だから、ね。』
アリナーデの笑顔を見てすっと心が落ち着いていくのを感じた。




