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 突き刺さる視線に気づかないふりをし参列するルーズ。

 隣国の騎士といえば魔法に長けさらに目見が良いと評判だ。婚約者のいない令嬢に人気が高いとタナーがこっそり教えてくれた。


 貴族は学生のうちに婚約する。つまりここには成人前のご婚約者がまだ決まっていない若い令嬢ばかり。その中に20歳のルーズ。

 周りから見れば明らかな年上が急に来たのだ、びっくりだろう。

 タナーが寄り添ってくれているのが救いだ。



『あのご令嬢はどこの…』 『城のメイドと一緒に…』 『アンティークドレス…』



 小声だが、なんとなく聞こえる少女たちの声。タナーが心配そうにルーズを見たが気にしてないと伝える。

 貴族は囁き声すら上品なのだなと感心するくらいだ。わいわいがやがやとした妹たちの小声のつもりの可愛いおしゃべりを思い出した。村の子たちが懐かしい。



 物思いに耽っていると式典開始の合図が鳴り響いた。



 国王と王妃それから双子の王子王女が壇上に現れ、ボルデティオたち隣国の騎士団が整列した。


 式典は国王が感謝と帰路が平穏であるように祝福を贈り、騎士団は一糸乱れぬ圧巻の先言後礼を披露しそれに応えた。

 インダスパ国の騎士団は剣を掲げ同志たちの無事の帰還を祈った。


 厳格に定まった言辞と動作が作り出す様式美は舞台を見ているようで息を呑むほどの高揚感に包まれた。




 国王が手を挙げると、参列していた貴族たちが二手に分かれ道が作られる。

 ルーズは真ん中にいたため道を最前列に見られる位置となった。


 閉会の合図が鳴り、魔法士団長のイリアが前出ると開けられた道に芸術的な氷柱の装飾を作り上げ歓声と拍手が広間に広がった。



 扉が開かれるとインダスパの騎士団が剣を立て整列しているのが見える。


 ボルデティオを先頭に騎士団が退出するようだ。


 貴族は頭を下げて、騎士団が通るのを待った。

 ボルデティオが前を通り過ぎると貴族たちは頭を上げ、騎士たちに敬意を表示手に胸を当て見送る。


 後列の子女たちはそわそわしながら前を通るのを今か今かと待っていた。近づいてくると音にならないざわめきが微かに広がった。

 殿下が通り過ぎるとすかさず顔をあげ、中には騎士に手を振る令嬢も。


 ルーズはその様子を眺めながら師匠を探し、最後尾にやっとその姿を見つけた。


師匠だ!

あ、後ろから国王たちも。一緒に外に向かうのね


 もう一度頭を下げようとした時、師匠がルーズの前に来た。


『行くよ』


え、どこに?


 タナーを見るとうっすら頷いた。


 師匠にエスコートされ何故か一緒に列を歩くことになってしまったルーズ。

 ちらりと国王を見るとこちらもうっすら頷いた。大丈夫のようだ。

もっと後ろのルディアシスとサフィールが似たような顔で軽く引いていたが気づくことはなかった。王妃は楽しそうに笑っていた。



『あの師匠、なぜ私も歩いて?』


『見送りが遠くなりそうだったから』


なるほど?


タナーは一緒には来れず心細い。誰だお前…の視線が濃い気がする。

師匠のエスコートで下は向けない…何も見えない誰もいない。平常心…



 やっとの思いで馬車に辿り着くと、馬車の周りには煌びやかな貴族が集まっていた。


 先ほど部屋にいたのは城の関係者だけで、馬車の近くは権力でここに来たものたちだと後ろからサフィールが声を届けてくれた。


サフィール殿下すごい親切…!いい人では…

なんで注意リストに??



 後ろを向き目礼で感謝を表すと、かっこ良さそうな笑顔が帰ってきた。大変可愛らしい。

 そのまま王族方は馬車の先頭へと向かっていった。



『人が多いな…

では、ルーズまたすぐこちらに来る。これを』


 そう言って一粒の石がついたシンプルなブレスレットを渡された。

 ブレスレットに魔力を流すと触れたものを師匠のところまで飛ばせる魔法具で手紙や荷物、生き物以外なら転送可能らしい。便利。


『ありがとうございます。手紙書きますね!』


『ああ、こちらも届ける。

弟子が一人前になり師匠として喜ばしい。これからも無理をせず』


 はい、はい!と何度も頷いた。

 馬車に乗り込んだ師匠に大きく手を振り最後まで見送ることができた。師匠のおかげだ。


 また会えると思うと寂しさより頑張ろうと前向きな気持ちで帰ろうと踵を返すと『お待ちください』と声がかかった。



『ルーズ・ベクタールさんでいらっしゃいますよね?

あなたなんでこんなところに…私よ、アメリよ覚えてるかしら。


上級魔法士ライザックに付き纏った上に謝罪もなくギルドに迷惑をかけ逃げて、隣国の方に近づくなどどういうつもりですの?恥を知りなさい』


 アメリはライザックと同じ部署の人間だったはず。

化粧がなくても華やかな美人で、平民とは話さないと一貫しており話したことはない。



 他に数人の女性が集まりルーズの前に壁を作った。

 こんな場所で嫌な名前を聞いたことに前向きな気持ちが後ろに引っ張られていく気がして気分が悪い。



『アメリ様…私には謝罪する理由がございません。失礼致します』



 ルーズが立ち去ろうとするが壁が行手を阻む。

『せめて謝ることもできないの?』 『まさか自分は悪くないとでも?』 『信じられない、平民のくせに』

 壁は妨害だけでなく口撃もするらしい。


そうは言われても…な



『私は謝罪しなければならないことはしていません。もうギルドに近づきませんのでそれで終わりにしてください』


『なっ!あなた!!』


『そもそも事実を確認せず一方的に切り捨てた相手に何の用ですか?

私は知人の見送りに来ただけです。他人に文句を言われる筋合いはありません。失礼します』


 アメリは手を前に伸ばすと『あなたが悪いんじゃない!』と叫び、水球を作り出した。

 瞬く間に大きな水球が出来上がったと同時にルーズに襲いかかるように一直線に飛んで行く。


 甲高い悲鳴が上がり、周りにいた女性が逃げ出す大きさに騎士たちが気付き駆けつけようとしたが、それより早くルーズは反射で指で丸を小さく描き火を飛ばし水球を覆った。

 水は一瞬で蒸発し、火も消え去った。



久々の訓練だ。懐かしい…

ただ、消せてよかった。魔力が少なすぎて子供の時なら相殺できなかった。危なかったぁ…


 突然、巨大な水球が綺麗さっぱりなくなったことに場は騒然となった。何が起きたのか理解出来たものはいない。

 アメリはルーズに被害が及んでないことを知るや否や、勢いよく近づき突き飛ばした。


 ルーズは物理攻撃には弱い。

 あっけなく、ぺたんと尻餅をついた。


…………



『なんで!なんでよ、魔法士でもないあなたが何をしたの!?』


『そこ!何をしているの!』


 魔法士団長イリアが騒ぎを聞き駆けつけた。

 団長を見てなお騒ぎ立てようとするアメリを彼女は冷え切った表情で睨みつけ黙らせた。


『やめなさい。城内での魔法は禁止されているのは魔法士なら知っているだろう!衛兵連れて行け。


ルーズちゃん大丈夫?私は行かねばならぬがメイドすぐ来るはずだから、ほら手を…』



 ルーズも魔法を使ったため連れていかれるかと覚悟をしていたが、防御のための使用だとイリアが認めたためお咎めなしとなった。



 楽しいムードだったはずが一転して騒然とした広場。今も何が起きたのか分からない人間が騒ぐ中、連れて行かれるアメリの後ろ姿をルーズはただ眺めた。

 城の庭に取り残されたような気分だった。


 ドレスは事前に魔法で薄い幕を張り防汚加工してあるから無事ではある、が……胸に靄が作られていく。

 黒い黒い闇のような靄が体内に作られる。



 何だったのかと呆然としているとタナーが『大丈夫ですか!?そばを離れ申し訳ありません!』と慌てて近寄り、ルーズの体に手をかざすと魔力を流し怪我の有無を確認した。


『お怪我は、なさそうですね。

申し訳ありませんでした。次からはおそばにいます。

…こんなことの後で、辛いかもしれませんが先ほど城の使用人より伝言がありました』


 ルーズと話がしたいと待っている人がいると。


『ギルドについて、話があるとのことです』




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