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 ぐっすりよく寝たルーズが起きた時、ポストに手紙が入っていることに気がついた。


あ、師匠からだ…えっと"昼に行きます"?


 昼……時計を見ると正午を示していた。


え、もう昼!?


 買ってきた本を少しだけ読もうと手をつけたのが悪かった。気づけば食事も忘れて、窓の外は勝手に暗くなり勝手に明るさが戻っていた。


 顔を出し始めた朝日をぼんやり眺めながら、寝ようと決意したのは何時だったのか。



早くお風呂と、食事…ああ家に来るって掃除も!



 素早く魔法でお湯を作り出し、体を洗いその間に風で部屋のゴミをまとめて屑籠に放り投げる。

 お風呂の後は温風で体と髪を乾かし、食事を作る。


 細かい魔力コントロールが出来るようになって1番ありがたいのが生活が楽になることだとルーズは一人暮らしを始めてから強く実感していた。


 あっという間にボサボサだった髪は落ち着き、埃が消えた部屋を見てこれもそれも師匠のおかげだと感謝した。

 食事を終え、片付けをしようと立ち上がったとき来客を知らせるチャイムが鳴った。



『師匠いらっしゃいま…せ?』



 師匠が来たと思ったら、師匠と見知らぬ男性の2人組が玄関の前に立っていた。






『えっとこれはどういう…?』


 急なことに戸惑いが隠せないルーズは目の前の男性たちに質問した。


『急にすまない。私はアシェルの仕事仲間のボルデティオだ。

彼とは長い付き合いでね、弟子に会いに行くと言うから無理やり着いてきてしまったんだ。』



『ルーズすまなかった。1人で来るつもりだったんだが、男が1人で女性の家に行くのは外聞が悪いと叱られてしまって着いて来てもらうことになった』


 平民なら問題ない行為だが、貴族はそうはいかない。男女2人で密室にいることははしたない行為だということらしい。


 そういえば、ライザックと食事する時は必ず大衆食堂で、仕事中も絶対に人を間に入れて会話していた。

 職場に馴染むように橋渡ししてくれていたと思ったが自己防衛だったのか。

 傍目から見て仕事仲間だと言い逃れできるようにされていたと今更気づいた。


 ルーズの腹の底に溜まっている普段は蓋をしている未だ許せない気持ちが滲み出す。


毎日書類にインクが垂れる呪いにかかりますように…!



『っていや、違う違う。

あの、なんでお二人で来たかではなくて、なんで私は今馬車に乗せられているかってことが聞きたかったです』



 貴族のエスコートは流れるようで気づいたら馬車に座らされていた。窓はカーテンで閉められ今どこに向かっているのか不明。

 座席の座り心地になんとなく身に覚えがあり嫌な予感がしている。


『…これ、お城とかに向かってませんよね?』


 ボルデティオの笑顔が深まり貴族の…いやアリナーデの雰囲気に近い。いや、まさか。一瞬過った考えに恐怖する。



『すまない。昨日話したつもりになっていた。

今城に滞在していて、帰る際に簡単な出国式をすると言うからルーズを迎えにきたんだ』


師匠…出国式ってなんですか。

隣国に帰るだけで、わざわざ城で式典をやるのはもうアレですよ。


 ちらっと師匠の横に座るボルデティオを見る。もうそれにしか見えないから不思議だ。

 もう駄目だ、早めに答え合わせをしてしまおうとルーズは尋ねることにした。



『ボルデティオ、殿下でいらっしゃいますよね?

アリナーデ様の婚約者候補様の…』


 途中まで"おっ気づいたか〜"といい笑顔だったボルデティオが候補と聞いた途端に力なく椅子から落ちていった。

 広い車内で良かった。狭かったら体格のいい彼では怪我をしていただろう。



『ああ。彼はモナーダリ国第二王子ボルデティオ殿下だ。

アリナーデ王女とは仮の婚約なため、確かに候補とも言えなくもない』


『いやいやいや!?

ちゃんと婚約者だ。誰だ候補なんて言ったやつは…』


 ボルデティオはきちんと座り直すと、顔をきりりとさせて何処に隠してたのか王子様のオーラを纏いルーズを見た。


『身分を告げずに失礼した。

私はモナーダリ国第二王子ボルデティオ・モーナリ。アリナーデ王女の婚約者だ。


彼女の教師を勤めているという貴方に一目会いたくて来たんだ。貴方の人柄を知れて来た甲斐があった』


 広い車内だと思ったが、成人王族と対峙するにはこの馬車は狭すぎた。オーラを放った王族の近さにルーズは圧倒され、うまく言葉が出て来ず手を胸に当て黙礼するのがやっとだった。


『ルーズ。殿下のことは気にしなくていい』


 殿下の隣に座る師匠が呑気に言い出したおかげで殿下がオーラを仕舞ってくれた。ありがた、い…が、第二王子にこんなことを言える師匠は何者なのか。

 


『えーっとー、あの…師匠てなんなんですか?』


『?魔法士だが』

『雑すぎる…アシェルは我が国の筆頭魔法士だ。王族と対等のような扱いになっている』


『!?!』

 叫び声を上げなかった私を褒めて欲しい…王族と筆頭魔法士と同じ馬車にいる。なんだこのおかしな状況は。


 筆頭魔法士は隣国の魔法士の中で一番魔力量があり技術のあるものがなる、アレ。師匠が、アレ…


『いや………受け止めきれません』


『最近なったばかりの新米筆頭魔法士だ。気にするな』


 筆頭が新米。そんなことあるのだろうか。ルーズの頭の中の混乱に混乱が加わる。

 

『師匠が師匠じゃなくて筆頭魔法士様…師匠なんて呼べない…』

『ルーズはインダスパの人間だあまり気にするな』


『あーアシェルがすでに、こちらの国王と四大当主とかにルーズが弟子だと紹介済みだから師匠で大丈夫だ』


 なんだそれいつの間に?!全然大丈夫じゃありませんが??


 王族は笑って、筆頭魔法士は頷き、ルーズに大丈夫だと繰り返した。そんな事をしているうちに馬車の速度が遅くなり目的地に着いたことを知らせた。




 馬車から降りるとキーラ宰相たちが待っていた。

 ルーズを担当しているメイドのタナーもおり、支度をするよう伝えられ式典には普段着では出席できないため着替えが必要だと言う。


 ドレスがないことを言えば、キーラ公爵の奥様が着ていたドレスを準備してあるので大丈夫です、とタナーは答えた。皆が安心できない大丈夫をルーズに言うことに頭の許容量が破裂しそうである。




『あら〜ルーズちゃん!

やっぱりそのドレス似合うわ、思った通りよ』


 急いでタナーと城のメイドに着付けてもらったドレスは、黄色いカタバミの刺繍があしらわれた淑やかな美しさがあり優しい雰囲気のルーズに誂えられたかのように似合っていた。


 サイズは少し直してもらったが、奥様が20歳くらいのときの宰相と結婚する前に着ていたドレスだという。

 王妃様のお気に入りで、このドレスを着た奥様と王妃、宰相に当時はまだ王太子であった現国王と4人でお茶をしていた、と懐かしそうに話してくれた。



『またこのドレスが見れて嬉しいわ、ありがとう』



 そんな大切なドレスを私なんかが着ていいのか話を聞けば聞くほど、絶対に汚せない宝物に手足に力が入っていった。


転んで汚れないようにしておこ…




『ルーズ様、そろそろ移動いたします』


 王妃が退出してからしばらくした後、ルーズに声がかかった。式典には後列での参加となると説明された。


 師匠と弟子の関係をまだ一部の人間しか知られていないため前列に行けば、誰だお前…の状態になり注目を集めてしまうことが予想される。

 それはルーズが嫌がるだろうとの配慮で後列で参加ししっかり見送れるようにしたのだという。



 ひっそり後ろで師匠を見送ろう!と意気込み行けば、後列にはすでに10代と見られる貴族子女が押し寄せなんとか前に行こうと小さな争いが起きていたのだった。




 タナーに連れられルーズのために開けられた後列前方の位置につけば、周りからの目は完全に“誰だお前…"であった。


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