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『…ケーキ、食べます。


あの……師匠なんでこんなところに?』



 専門書を片手に木の影からこちらを除き、休憩してるとわかるや否や走ってきた子ども。


『あの…今いいですか?』


 心底困ってます!という顔をされ断れず色々教えた。あまりのしつこさにちょっとだけ後悔したが、楽しかったあの日々を思い出す。

 あの時と全く同じ顔だな。


『ぷ…』


『師匠が笑った…』


なにびっくりしてる?そりゃ笑うだろう。

弟子に会ったんだ。なんて…まぁ言わないが。



『…仕事でこっちに来た。明日には帰るが、ルーズが中央都市にいるならまた来る』


『本当ですか?嬉しいです。

仕事って、あ!じゃあ商団長さんたちも一緒ですか!?』



 そういえばあの時は商団の護衛をしていたことを思い出す。今は別の仕事できていることや今あの商団長たちは国で店を構えて忙しくしていることを伝えた。


『そうなんですか。みんな元気そうで安心しました。

…隣国いつか行きたいな』



 懐かしそうに目を細め笑うルーズの姿は思い出の形と違っていて成長を感じさせた。

 よく見れば、町娘にしては上質な服に小指に光る指輪は庶民ではなさそうな身なり。



『貴族になったのか?』


 お互い質問ばかりだな、と話し下手な自分に嫌になるが仕方ない。



『あー…色々ありまして、養女になりました』



 ずば抜けた魔力を持ち、周囲を暗闇で包む本人は気づいていないが光も音すらも遮断する特異な魔法を出す警戒すべき対象の子ども。


 商団はすぐに隣国に戻る予定だった。

 だが黒い闇に包まれた空を見て偵察のために村に留まるように指示が出た。


 様子を見て危険はなさそうだと報告すると、本を譲るよう持ち主からの連絡があった。

 あの本は昔の人間が個人で収集した資料の複製品。世界に三冊もないだろう。貴重と言うかマニアックすぎる本だ。


『欲しそうなら適当な理由であげて。その子の魔法も載ってるから』


 まぁ、気づくかは分からないけど。と言われ商団長と首を捻った。


『かなり特別な魔法と言うことですかねぇ…見付かればあの子を欲しがる人間は多そうですね』


 心配だなぁと商団長が言ったのをふーんと聞き流した。

 だが、その監視対象の子どもと話せば話すほど、この子が不幸になることは嫌だと感じてしまった。自分で守れる力を与えたかった。無理をさせたし無理をしたことは反省しているが後悔はなかった。




『大丈夫か?』


無理矢理じゃないか?嫌な思いはしていないか?


 ルーズに対して過保護になっている自覚はある。でも仕方ない。たった1人の弟子だから。



『…はい。まだ籍に入ったばかりで、貴族の自覚はないんですが。家族が増えた感じで、よくしていただいてます』


がちゃん。


『結婚…した、のか?』


『??いえ、養女になっただけですよ?』


 なんだろう師匠の様子がおかしい。

 顔が赤くなって青くなって百面相のようだ。体調不良だろうか?『師匠…?』と声をかけようとすると、突然真顔になった。あ、いつもの師匠だ。



『養女は籍に入るとは言わない。籍を追加すると言うんだ』



 ああなるほど。生家の欄が増えていたし"追加"という表現になるのか。豆知識。


『あーだから結婚て勘違いされたんですね。すみません紛らわしい言い方して』


次から気をつけよう。

…あ、そういえば。



『師匠って、


なんて名前なんですか?』



聞いたことなかったな。

うっわ…私が魔法の相殺に失敗して辺りを水浸しにしたときと同じ顔してる。怒ってらっしゃる…えぇ?


『………アシェル・マドル』


『へぇーアシェル様…て言うんですね』


ほー貴族ぽい。というか今更だがお貴族様だよね。

て、えーなんかすごい嫌そうな顔してる。名前呼ばれるの嫌なのかな。


『なんか嫌そうなので、これからも師匠って呼ばせていただきますね?』


師匠が頷いた。

師匠はこれからも師匠で良いみたいだ。

嬉しい…私の師匠。



ケーキは最後の一口まで美味しかった。




『師匠ご馳走様でした。

会えて嬉しかったです。明日帰る時見送り行きますからね!』



 師匠はこれからまだ仕事があるらしく、家まで送ってくれると言ってくれたが断りここでお別れだ。

 でも、明日隣国に帰る前に会う約束をしたから寂しくはない。


『またな』


 はい!とあの頃みたいな返事が出た。師匠の前だと気が緩む。

 師匠の背中を見つめながら、私も師匠みたいになれるよう頑張ろうと気合いを入れる。


 よしっ!と両手に力を込めたところで、本を買い忘れたことを思い出した。


 慌てて本屋に行き、魔法基礎学、魔力操作力学など数点購入することが出来た。教育書だけあって安く少し買いすぎたが満足のいく買い物になった。



よし帰ろう!



 揺れる花の刺繍のリボンをアシェルは遠くから見守った。重そうな荷物に声を掛けようか迷い、そこまでしたら引かれるかもしれないと考えてやめた。


『…面倒だ仕事行きたくない。はぁ』







 ルーズが一等区の鍛冶屋を通り過ぎた時、不意に声をかけられた。


『あれ?もしかしてルーズさん?』



 目の前に騎士団のラズールが私服に騎士団のリボンをつけて立っていたのだった。


『今帰りですか?』



 ラズールは仕事帰りに預けていた剣を取りに来たらしい。丁度帰るところだからと馬車で送ってもらうことになった。


『すみません、遠回りさせてしまって…でも本が重くて助かりました』



 申し訳なかったが背に腹は変えられない。ラズールに会えて運が良かった。


『全然。騎士団は帰宅ついでに見回りもするよう言われてるから気にしないでね』




 だから騎士団のリボンをつけたままなのかと納得だ。

 騎士団がいるだけで治安維持になり、帰宅中にも賃金が発生するため団員たちも嬉々として見回りに行っているようだ。



『いつもご苦労様です』


 烏滸がましいかもしれないが、みんなの代わりに労いの言葉を送る。いつもありがとうございます、と。


 ラズールはいつも以上に人懐っこそうな顔で笑った。

 『いえいえこれも仕事ですから』最後はきりっとして騎士の礼をするので、今度はルーズが笑った。



 世間話をぽつぽつしていると、あっという間に自宅に着いた。


『ありがとうございました』



 じゃあねーとラズールは手を振って帰って行った。馬車はすぐに見えなくなってルーズは家に入る。



 家には本がすでに届けられており、本棚に収納しながらつい笑顔が溢れた。

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