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 城で婚約騒ぎがあった頃、ルーズは一等区のメイン通りを歩いていた。



 キーラたちとお茶をしていたら、慌ただしく入ってきた騎士の伝言を聞いたペイルに帰宅を促されたのだ。


『隣国の王族に会いたければ、このままお待ちください』

 キーラもペイルも真顔だった。言葉とは裏腹に帰れ、というか、逃げてだったように思う。




『この指輪があれば買い物出来るから持っていけ』


 帰りますと伝えると、小ぶりのエメラルドが付いた指輪を渡された。

 突然キーラから渡され困惑していると、ペイルから『こちらは魔宝具で支払機能付きの指輪です。仕事に必要な買い物に毎月30000ギルと城の使用人は30000ギル休憩手当が支給されていますのでお使いください』と説明された。


おおさすが城!手厚い…




 『ただし、所謂ツケ払いの形になりますので一等区のみ利用できます。ご注意ください』とのことで、普段来ない一等区の買い物にやってきたのである。



シヴァンくんと行ったお店のワンピース着てきてよかった!帽子も要らないと思ったけどあって良かった…



 花の刺繍のリボンを揺らしながら帽子を深く被り堂々とメイン通りを歩く。

 帽子があれば会いたくない人間からバレにくい。



そして、目指すは魔法書店!


 アリナーデに魔法指南するにあたりもっと基礎知識を勉強するために本が買いたかったが、庶民の店には生活魔法の応用知識や児童書のようなものが多く勉強に必要なものは置いていなかった。


 一等区には来れないと諦めていたが、タナーが買い物に行くならと簡単な化粧で貴族のお嬢様みたいに仕上げてくれたのだった。

 ぱっと見ではルーズとは気づかない上に帽子まであり完璧な装備を手に入れて晴れて一等区デビューである。気分はうっきうきだ。




 少し歩いたメイン通りでも人通りが特に多い場所に目的の店はあった。


 本を痛めないようにだろうか窓などがなく店の中の様子は一切伺えず、なんとなく怪しい雰囲気。

 看板に[東西魔法書店]となければ入るのに躊躇する店構えだ。

 黒いドアを恐る恐る開けると、外観よりも広い室内にぎっしりと本が詰まった棚が整然と並んでいた。



店全体が魔法具…!



『すごい…』


 室内は魔宝具による効果だろう。室温や湿度も保たれているようで外より涼しく紙とインクの匂いが充満していた。


 最新の魔法書や隣国の本や見たことのない字で書かれた本を見るに"東西"という看板に偽りはなさそうだ。

 前後左右が宝物で埋め尽くされた店内をルーズは目を輝かせながら歩き回った。…目的を忘れて。



 ふらふら吸い寄せられ一冊また一冊と手に取っていくルーズ。ギリギリ理性を保ち値段は確認している。

 両手の重さに気づいたあたりで書店のおじさんに声をかけられた。


『お嬢さん、このカゴを使いなさい。

帽子があると邪魔じゃないかい?良かったら預かるよ』


 ありがたく受け取るとカゴに入れた本が消えていった。自動で店員さんのところに送られるらしい。便利だ。

 帽子もお店で預かってくれると言うので甘えてカゴに入れた。重さがなくなり視界が広がる。


 さらに本を入れていき、正気に戻る。

 指南書の本を買っていない。



休憩手当ては、本を買ってもいいのだろうか…



 いや、もしダメなら貯金で買おう。そうしよう。

 慌てて目当ての本を探すがそれらしいものが見つからず、おじさんに尋ねると別のお店を紹介された。



『あー教育書の専門店になるんですね、ありがとうございます。

じゃあお会計はコレでお願いします』


 ルーズは右手の指輪を見せた。


 おじさんは『ああ分かった』と言い小指のエメラルドに魔法具をかざした。

 浮かび上がるのは"キーラ公爵家・♾️(無制限)"の文字。


『…はい。支払い終わったよ。

はい帽子と、品物は家に届けておくから。またおいで』



 ルーズが店を出ると、おじさんは『キーラのやつ養女をもらったとか言ってたが随分と甘やかしてるねぇ』

 いいこった、と笑っていた。





 おじさんが教えてくれたのはメイン通りから脇道を入ったあまり人が来ないようなお店だった。

 専門的な本を扱っていてあまり人は来ないらしい。


『えーっと、このあたり…』


 少し先に[本屋]としか書かれていない店があった。


 入り口にはドアもなく表にも本が並べられており、一等区の雰囲気には合わないはずが何故か馴染んでいた。


 表の本はどれも面白そうなものばかり。

 どんな本かルーズが手を伸ばそうとした時、強い風が一瞬通り抜けた。



『あ…』


 本に夢中で反応が遅れた。

 帽子が飛ばされていき、風の先を目で追うと誰かが捕まえてくれたようだ。


 慌てて追いかけ近寄ると、どことなく知ったような男性が帽子を持っていた。



『…あ、すみません。帽子を飛ばされてしまいましてありがとうございます』


 男性は帽子を持って動かなくなってしまった。

 『あの?』声をかけたが固まったまま。ルーズはどうしようかと困惑していると、男性は息を呑みこんでから話し出した。



『……違ったら、すまない。




ルーズ…か?』



 名前を呼ばれ男性の顔をじっと見る。

 徐々に男性と思い出が重なっていく。




『…し、しょう……?』



師匠…


師匠だ…



『師匠!』


 思い出が現実を覆い尽くした瞬間、ルーズは11歳に戻り溢れ出る思いが言葉にならず涙となって零れ落ちた。


 男性もルーズを大人の女性ではなく11歳の愛弟子を優しく抱きしめた。



『頑張ったんだな』



会いたかった。


一人前になったところを見せたかった。



…なのに結局まだ半人前。








『で、落ち着いたか?』


 感動の再会を道端で子どものように号泣という情けなさにルーズは泣きそうなのを我慢し頷いた。


 無言で頷き、ミルクティーを飲む。


 道の真ん中で話も出来ない状態のルーズを師匠が落ち着いたカフェに連れてきてくれていた。

 静かな個室に2人きりになり冷静さを取り戻したルーズは羞恥により話せない状態だ。


……



 ちらっと師匠を見るとあの頃と変わらない仏頂面だが昔はひょろっとしていたが、今は騎士と言われても頷く体つきのように見える。


師匠の方が立派に成長している気がする…

それに比べて自分はなんて進歩のない人間なんだろうか



 どんどん落ち込むルーズを見かねた師匠は『……ケーキ食べるか?』と明らかに子どもをあやす大人のようだった。



 師匠が変わらず優しい…また涙が出そうである。



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