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『アリナーデの姉としてボルデティオ殿下にお目通し願いたい!』
『今殿下は少々立て込んでおりまして…どうか、その』
ペイルが、2階来賓フロアに辿り着くとサフィールはきりりと騎士のように直立しながら、ドア前の隣国の護衛兵に直訴していたところだった。
護衛兵は、困ったように目線を動かし助けを求めていた。正直逃げたい、彼の思いがペイルには伝わった。
そして護衛兵の彼は目線の先に救いを見つけてしまった。この国の文官を。
目線で文官に訴える"王女どうしたらいい!?"
目が合ってしまったペイルは申し訳ないと身振りで示し"回収します"と頭を下げた。
『サフィール殿下、ご用があれば我らをお使いください。尊き貴方様がわざわざ動かれませぬよう我らはいるのです。
さぁ殿下あちらに参りましょう。我らは殿下の手足になりましょう。さぁさぁさぁさぁさあ!』
『出たな邪魔な平民!
お前が来ると話がおかしくなる!
控えよ 』
サフィールはきりりとした目元を作るが、アリナーデの姉であり血筋を感じる顔立ちだ。そんな姉姫が怒った姿は威嚇している猫に似ていた。
しゃーしゃー怒るサフィールにペイルは仕事これは仕事と脳内で繰り返した。
『まあまあ。そんな悲しいことをおっしゃらないで下さい。
あーそういえば。アリナーデ様が新しい魔法を使えるようになったとか!
見に行きませんか?』
アリナーデの名前を出した途端に怒った猫の尻尾がくにゃりと曲がり、ふりふりしだした(ように見えた)。
やれやれ落ち着いた、では行きましょうかとサフィールを連行しようとした。
『それは本当か!?』
扉の中から興奮気味のボルデティオが飛び出してきた。
標的を見つけたサフィールの尻尾がまた上がり、ボルデティオは威嚇されていることに気にせずペイルに詰め寄った。
『私も行く。いいな?』
『…』
圧がすごい。
断ってもいいが、断ってサフィールと対戦させるのとどちらが良いか判断に悩む。
ペイルは瞬時に悩み抜き隣国の成人した王族の圧に負け頷いた。
近くに待機していた金バッジ仲間のメイドに目配せをし、キーラや第二王女宮に知らせるよう頼んだ。
向こうに行けば誰か一緒に道連れにできるだろう。
『ええ、では参りましょうか』
3人は黙って第二王女宮に向かう。
騎士団からの援軍が間に合うようにゆっくりとペイルは歩いた。意味はなかったが。
『ようこそいらっしゃいました。アリナーデ王女殿下がお部屋でお待ちです。どうぞ。
ペイル様、騎士団より"対応不可"と言付けを預かりました』
来訪の知らせに即座に対応した離宮の使用人は、騎士団に走った。そこで済まなそうにごめん、無理と言われたそうだ。
ペイルは優しい顔のまま騎士団の王族警護費を減らそうと心に決めた。
アリナーデは私室にて3人を待っていた。
姉が暴走しないか心配していたが、どうにか阻止されたようで心底安心していた。婚約者がついてきたのは予想外だったがしょうがない。末姫は我慢できる子である。
『みなさん先ほどぶりでございますね。ペイルご苦労さま下がって大丈夫よ』
とは言われたが、流石にいい大人が子どもに責任を負わせてはならぬと退出はせずにそっと壁に下がった。
『それで、お二方私の魔法が見たいと…そんなに面白いものでもありませんよ?』
アリナーデは、柔らかい魔力ボールを手のひらに出した。
メイド達と一緒にボール投げに使ったりしたため触っても安全ということが分かっているので、目を丸くしているサフィールに手渡した。
無言でボールを触り、握ったり、突いたりを繰り返し『なんだ、これは?』とアリナーデに困惑しながら聞いていた。
何と言われても…ボール?だろうか。
ペイルも報告で聞いていたが実際にボールが現れるところや実物を見たのが初めてで面白そうに眺めていた。
そんな中ボルデティオだけが腕を組みじっとボールを見つめ何かを考えているようだった。
サフィールが外で魔力ボールを投げたいと言うので一行は外に出た。
壁に向かって投げると、ほよん。と情けない音をさせて落ちていくボール。壁にもボールにも傷はなかった。
『このボールは硬さを変えられるのか?』
ボルデティオの問いにアリナーデは頷いた。
彼はボールを拾って手のひらに魔力を送ったり何やら試していた。
『へぇー…面白いねこれ。うちの魔法士に見せたいよ。
これはなんで出来るようになったか分かるか?』
横でサフィールも頷いている。
アリナーデは、少し考えて『今来ていただいてる魔法の先生のおかげです』と素直に答えた。
ボルデティオがペイルを見た。先生とやらの素性が知りたいらしい。
『あー…アリナーデ様の魔法訓練の教師を勤めていただいているお方は、キーラ公爵家のお嬢様です』
キーラ公爵家にお嬢様と呼べる人間がいないのは周知の事実。シヴァンがいるから再婚せぬを突き通した宰相の話は隣国でも有名だ。
そんな公爵家の娘ということは何かの訳アリ、しかし公爵家を名乗らせても問題はない人物だということが正しく伝わった。
『キーラ公爵の…ふーん。そうか。
では、先生も晩餐会にお呼びできるのかな?』
それについては是と言えない。宰相の許可が必要になる。返事を濁そうとペイルが口を動かす前にサフィールが動いた。
『それは無理でしょう。
平民に晩餐会に来る資格はありません』
『平民…?』
『ええ。ルーズは元は平民。
公爵家の娘に書類上はなったとはいえマナーもまだ学んでおらず、そんな娘を晩餐会に呼んでは恥をかくだけ。
守るべき民を嫌な目には合わせることを私は許可できない』
サフィールはペイルを筆頭に金バッジたちからあれこれ邪魔されるため城にいる平民を心底嫌がるが、それはそれとして民を守るべきものとして考える若き王族。
サフィールは金バッチを嫌うが、金バッチたちはサフィールを嫌いではない。面倒なので近づかないように注意リスト入りだが。
『なるほど。
ではまたの機会に会えるのを楽しみにしてましょう』
『ええ。いずれはご紹介いたします』
だから、勝手に会おうとするなよ?とアリナーデがすかさず牽制した。ボルデティオは肩をすくめ『分かりました』と引き下がった。
『ではボルデディオ殿下!
アリナーデとの婚約破棄を賭け決闘を申し込む!』
なにが、では、だ。
安心しきっていたペイルは油断していた。やられた…!
『だーかーらー!!
勝手なことしないでくださいといつも言っているでしょう!?』
ペイルの嘆きが離宮にこだまする。
『 黙れ 』
『いーえ!黙りません!!いつもいつも面倒ごとを起こしていい加減大人しくしてください!』
『あーー!なんで金バッチには効かない!?くそっ』
ボルデティオは姉姫と文官のやり取りそっちのけでアリナーデに『婚約破棄しないからね!?』と念押しし普段穏やかな時間が流れる離宮は、子守り部屋のような状態になっていた。




