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 その後も2人の思惑は交差することなく、当たり障りのない会話をのらりくらりとしばらく続けた。


 すると、宮殿の方の使いのものが2人の場に現れた。急ぎの用のようだ。

 なにやら急遽ボルデティオたちの歓迎の晩餐会を開きたいと国王より急だがぜひ参加して欲しいとのことだ。そのまま今日はこちらに滞在し明日帰国をさせたいらしい。


 その話を聞きアリナーデは何かがあったのだろうと推測した。足止めしなければならない何か。

 正面の婚約者を見れば、彼はそうなると知っていたかのように、突然の誘いに驚きもせず笑顔で『ぜひ』と頷いていた。




 ボルデティオは本気とも演技とも取れるような絶妙な顔を作り名残惜しむように『そろそろお時間のようですね』と2人の時間の終わりを告げた。


『ではまた後で。アリナーデ王女』



 ボルデティオはそう言うと隣国式の挨拶をし席を立った。



『…ええ、後ほど』


 婚約破棄できず悔しいが、王女としてアリナーデは上手に微笑み婚約者を見送った。



ルーズには会えないし、婚約破棄も出来ないし

今日はうまく行かない日だわ、はぁ…



 アリナーデは見た目はいつも通り、内心しょんぼりしながら自室へと戻る。

 使用人たちはまさか王女が婚約破棄を狙っていてしかもそれが失敗したなどつゆ知らず、久々の婚約者の来訪に良かった良かったと優しい空気が流れていた。



『アリナーデはいるか?』



 そんな空気をばっさり切るような硬い声が、第二王女宮の中をすっと通り抜けた。

 姿が見えずとも誰が来たか察した使用人たちは気を引き締め、持ち場に不備がないか確認し執事に合図を送る。メイドはアリナーデに知らせに走った。

 迎える準備は大丈夫なようだ。


『サフィール王女殿下お待たせいたしました。アリナーデ王女殿下をお呼びいたしますのでこちらへどうぞ』



 応接室に通されたサフィールは出されたクッキーを食べながら妹を待った。何も言わずともミルクをたっぷりに入れた紅茶が机に置かれていることに満足し、足を崩し寛いでいた。


『サフィールお姉様、お待たせいたしました』




 可愛い妹が、可愛い笑顔で来てくれた。もう今日は何もしたくない。


『やぁアリナーデ急に来てすまなかった。


ん?どうした…あれに嫌な思いをさせられたか?』


 誰にも気づかれなかった小さな憂いに気づいてくれたお姉様。それだけで刺刺した気持ちがふわふわしてくるようだ。


『ふふ…いえ大丈夫です。

婚約破棄をしようとしたのですが、断られてしまいました』


 力なく笑い眉毛をへにょんと下げたアリナーデは大変に可愛らしく、加護欲を駆り立てるのに十分であった。


"婚約破棄"


 国同士の政略結婚でありえないが、こんな可愛らしいアリナーデが望むなら叶えなければならないのではないか?サフィールと壁になっているメイドたちは考えた。


…………いやいやあり得ない。


 あまりの可愛らしさに流されるところだったと思考を戻したのはメイドたちのみ。心の中で息を吐き出した。危なかった。


 だがしかし1人は思考を固めた。



『分かった。私に任せない』



 サフィールは立ち上がり、では失礼すると退出しようとした。慌てて止めたのはアリナーデだった。

 メイドは宰相に伝えに走った。婚約破棄もだが、サフィールが動いたら大惨事になりかねない。国の危機。


『お、お姉様、お待ちくださいな!

私は大丈夫です。簡単に破棄できると思っていた自分の考えの浅さに少し落ち込んだだけなのです』


『そうか…だが破棄したい相手なのだろう?

なら大丈夫だ。


破棄させるまで!』


 おねえさま!の声が虚しく第二王女宮に響き渡る。

 サフィールは風を纏い優雅に歩きながら最速で敵の元へ向かった。彼女自慢の一つ括りの髪が不規則になびく姿は、見たものに不安を募らせた。





 知らせを聞いた時キーラは、急遽来訪した隣国の騎士団一行の諸々の手配に忙しくしていて少し疲れていた。

 アリナーデ様が嫌ならば破棄しようの思いが高速で頭をよぎった。……頭を振り邪念を消す。


『報告ご苦労。破棄については後にアリナーデ様からお伺いしよう。


サフィール様は…はぁ。騎士団に連絡を。

こちらからは…


ペイル頼んだ』


 宝石が輝く白いリボンを持つ他の文官は可哀想な目で、他の金バッジの文官は申し訳なさそうな目でペイルを見た。貴族では、王女を止められないのだ。



 民を守る王は民を傷つけてはならないの理論で王族に金バッジをぶつける事を考えたキーラは鬼だと思う文官一同。

 その被害の筆頭がペイル。



『…………承知いたしました』


 普段キーラの言葉に即答する彼は小さな抵抗を見せる。ペイルだって面倒臭い。


 言葉にすれば不敬すれすれなため目線のみで応援する仲間たちを尻目に彼は金バッチを輝かせ戦地に向かった。

 哀愁漂う背中が部屋を出て行った後、残されたものたちは下を向くしかなかった。

 正面には苛立ちが笑顔に表れた上司がいたから…






『こちらが着くより先に騎士団が止めてくれていたら楽なのだが…』


 足に、行きたくないと書かれた錘を引きずりながらも早めに歩くペイル。

 騎士団は今隣国からの来賓の護衛や晩餐会の警護の打ち合わせ、他面倒ごとで人手が足りていないためおそらく間に合わない。理解しているが希望は僅かでもあった方が良い。


 文官も同じ理由で人手が足りていないが、丁度良く空いた時間に嫌な報告が来てしまった。



いっそ知らなければ……いやいや、後の方が面倒だ。


 これで良かった、と思い込むことで足を動かした。

 行きたくないが、急がねば。相反する気持ちで来賓が滞在する城の一室に向かったが、いつもより歩みが遅くなったせいか間に合わなかったらしい。



『失礼する!

私はインダスパ国王女サフィール・アティザスパ。ボルデティオ王子殿下にお目通し願いたい』


無駄にいい声とメイドや使用人たちの慌ただしい音が階段の上から聞こえてきた。


 手すりに捕まり、深呼吸。

 これからどうするか頭の中に計画を巡らせるが、走馬灯が見えているような気がしてならないペイル。

 流れる映像は白黒だ。



『はぁ……誰か道連れにすれば良かった』


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