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 アリナーデ様の夜のお散歩は、週に一度。


 王女のベッドに魔力検知の魔法具が置かれおり、深夜に器が現れたらどこかに知らされ宰相に連絡が来る仕組みだという。


 なぜ毎回宰相自らが足を運ぶのか尋ねれば『王族だぞ、当たり前だ』と訳が分からない返答であった為、意味が分からなかった。いや、ないのかもしれない。不明だった。




 器の形は、その日見た夢に出てきたモノになるため部屋に行くまでどんなカタチかは分からないそうだ。当たり外れが大きいとのこと。妖精は大当たりだったそうだ。

 ああ確かに。綺麗だから納得。


 深夜一時から三時に器が出現。それから散歩に一時間ほど出掛ける。片道30分までの道のりまで大丈夫ということだ。



 白い鳥なら川まで行けるだろうと飛んだところ、真っ直ぐに飛べず時間がかかって器が消えてしまったようだ、と説明された。




ふんふん、なるほどー

さくさく、さく、さく…

うっわこのクッキー美味しさがとんでもないな

さくさく…




 今ルーズは城の一室で、上質な紅茶と軽い口当たりのクッキーでもてなされている。珍しく穏やかな空気が流れるティータイム中である。




 1回目のお散歩を無事に終え、本日は3回目の魔力指南日の予定だったが、アリナーデの都合により日程が変更されたのだった。


 急遽空いた時間に、宰相と金バッジの文官からお散歩についての報告がてら説明を受けているところだ。




『無事に1回目の特別夜間護衛業務お疲れ様でございました。

黒い衣のおかげで、魔力の摩耗が少なくなり通常より長い時間器を維持できたと観察していた魔法具の記録と第二王女殿下からもお伺いしております。

これで、ルーズ様の有用性を客観的に証明することができました』


 王女がマントにする前に黒い魔法が纏った瞬間にアリナーデの魔力が漏れ出なくなったのが確認できたためちゃんとルーズの魔法が役に立ったらしい。




 良かったのだが、それより気になることがある。


『ルーズ、様って呼び方変えられませんか…?』


 金バッチの文官もといペイルさん。今日は目の下のクマがなく優しげな目元がはっきり見えている。

 眠れているようで安心なのだが、そんな苦労人で優秀な文官である彼に様付けされるのは居心地が悪い。





『そうは言いましても、こればっかりは…申し訳ありません』


 全然申し訳なさそうな顔はしていないペイルは諦めてくださいとやんわりと言葉に乗せる。慣れるしかない、ということだろう。



 気持ちも生まれも平民なルーズ。

 しかしペインさん達のように自ら金バッチを手に入れた優秀な平民とも違い、たまたま王族に有用な魔法が使えた人間である。価値と待遇が合っていない。



『貴重な魔法は、それだけで国の宝だ。平民のままでは悪用されかねない。

それを跳ね除ける事ができる地位をルーズに持たせた。諦めるのだな』




 キーラ宰相が襟元のエメラルドを輝かせてルーズを諭す。現状を受け入れ、この力は王に国のために使えと。


 国や王族のために使うことは良いが、現状については…渋々だが受け入れる方向で頑張ることにする。



『ああ、そういえば。シヴァンに会ったそうだな、姉ができたと喜んでおったわ。


無事に養子縁組の登録が全て終わったが、住まいは今のままと公爵家の屋敷どちらが良い?』



 明日のご飯何が良いか?くらいの軽い空気でついでとばかりに話し出した宰相。ペイルさんは聞こえていないらしく書類をトントン揃えている。ずっと。




『キーラ宰相のご子息に姉上と呼んでいただけて光栄でした。それに洋服や靴などありがとうございました。

今の家から今後も城に通いますのでお気になさらずに〜』



 さらっと聞いてきたのだ。サラッと返すのが正解だろう。ふふふふ〜と柔らかく笑顔で紅茶を飲む。



『……まあ、良いか。服は我が公爵家の娘になったのだ遠慮するな。必要があれば買うように。それに、


私のことは、義父上でもお義父さんでも良いからな』




思わず紅茶が口から出た。無理だ。無理だろう。

なんだこのおやじ何言っている。




 思わず宰相を見ると、胡散臭そうに笑っていたがどことなく楽しそうで、揶揄われたのだと知った。

 が、実際なんて呼べばいいのか分からずペイルさんにすがるが、目が合わない。



困ったら金バッジて言ってたじゃないですか!?

今ですよ、今!!




『あ、の宰相様ご冗談を…宰相様は宰相様、です』



 いや、これしかないだろう。なのにペイルさんの口から空気が漏れ出た音がした。聞こえてるじゃないですか…心なしか肩が震えている気がする。むしろ大丈夫だろうか。


 キーラ宰相はなぜかつまらなそうな顔だが、何を期待されていたのか分かりかねる。




こうなれば話題を変えるしかない!




『あの!そういえばっ!

アリナーデ様の急遽の用事ってなんだったんですか?』



 無理やり捻り出した質問だったが、城についてから急に予定変更を知らされここに通された。

 王族の予定のため、あまり詮索するものでもないと思って聞かなかったがちょっとだけ気にはなっていたのだ。



 面白くない顔のままのキーラは、ペイルに目配せすると『あーそれはですね』と簡単に教えてくれた。



『えっアリナーデ様の婚約者候補の方がですか?』




 なんと王女殿下の婚約者(仮)が急に城に来たため予定が変わったとのこと。

 なんでも婚約者(仮)は隣国の王族で、すでに成人を迎えているらしい。


 公務が忙しく、たまに空いた時間にふらっと遊びに来ることがあり、今回は魔物退治の公務中たまたまこちらの国近くまで追いかけてきたので、ついでに寄ったのだと。



 まだ幼いアリナーデに合わせて、婚約者(仮)がこちらにきて時折りお茶をするような付き合いをしているそうだ。微笑ましい。





『隣国は王族でも魔物退治の前線に立つので危険と隣り合わせなのです。

婚約は内定していますが、いつどうなるか分からないということのために婚姻を結ぶまでは(仮)の婚約のままなのですよ』



生きていたら結婚。

死んだら無関係。

アリナーデの経歴に何一つの無駄な染みを残さないということ。


 それは当たり前なことなのか平民のルーズには判断がつかなかった。





 美味しいクッキーのおかわりを頂きながらルーズは話を聞く。11歳で婚約者がいるという感覚にいまいち実感が湧いてこない。

 自分と生き方が違いすぎた。


 そして、そんな婚約者(仮)がきたなら全ての予定を変え最優先するのも納得だ。





 アリナーデが楽しい時間を過ごしていることを願った。

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