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ちょ、え、え妖精、本物…?
まじまじと初めて出会う妖精を見る。背中から大きな羽を生やした手のひらサイズの女性がルーズの目線の高さに飛んでいた。
花のような形のドレスがひらひら動くたびに幻想的な光が溢れている。
うわー初めて見た!綺麗…目を輝かせ妖精に会えた感動を噛み締めていたルーズの後ろから護衛がひょこっと顔を出す。
『あー姫様今日は妖精ですか?
もうちょっと大きいのじゃだめなんですかね…』
『あら、そんなこと言われても、
夢に見た形になっちゃうんだから仕方ないじゃない』
…ん?
妖精から聞き慣れた声が聞こえ、もう一度凝視すると『私よ、アリナーデよ』と淡い光に包まれた妖精が喋った。
高速で頭を働かせる。サンドウィッチを食べていて助かった。
器…仮の体…器。
勝手にアリナーデそのままの姿を想像していたが、確かに誰も器の形について言ってなかったかもしれない。
"今日は"と言うことは形が変わるのだろう恐らく毎回。だから器としか言えなかったのか、言うと私が断ると思ったのか。どうしても作為的ななにかを感じる。
『前回は綺麗な白い小鳥だった』
宰相が親切にも教えてくれた。あーそうなんですか。
そこでルーズは気づいたことがあった。
『えっ待ってください、じゃあ城にいたら危険て、命が狙われてるとかではなく駆除的なやつ…?』
妖精だけがきょとんとしており、他の面々は"は?そうだが?それ以外になにか?"的な顔をしている。
まさかである。
返して欲しい!
命を狙われた王女を助けたいと思った私の純粋な気持ちを!と思ったところで、それが狙いだったのか!?と膝から崩れそうになった。
『ルーズごめんなさい、宰相が用意してくれる安全な場所に行けばいいのだけれど、鳥籠とか虫籠とかに入らなきゃダメって言うから…』
くっ…なるほど!そりゃ部屋の中に鳥は放てませんもんね!ていうか虫の時もあるんですね?!わんぱくな夢見すぎでは…
は!!まさかだが、みんなが大人になれとアリナーデ様に言うのってまさか…夢の話……?
『今日はおしゃべりがしやすい器で良かったわ。
さぁ行きましょう?』
宰相から気をつけてと声をかけられる。案に早く外に行けというご命令が出たため、釈然としない思いが燻るが仕事としてこの役目を承諾してこの場にいる。
諦めが肝心だ。むしろ危なくないならよかっただろう。前向きに考えよう。
『では、行ってまいります』
アリナーデを鞄に入れて魔法士団のマントを被ったルーズ。城前で挨拶をし門を出る。
妖精のアリナーデとルーズの夜の散歩が始まった。
『まぁ命は狙われているのは本当だがな』
見送りに来た宰相たちはルーズの姿が遠くになった時にぽつり呟いた。
この国はまだ次の王を決めていない。第一王子と第二王女どちらかだろうというのが世間の声。
『愚か者の多いことだ…』もう一度呟き宰相に与えられた城の私室に仮眠しに行く。今日は少しは寝れそうだな。
『あ、アリナーデ様。ちょっと待ってください』
城から離れた場所で鞄を開けると、アリナーデが飛び出した。慌ててルーズが止め、ふぅーと小さな黒い魔法を作り出し妖精に纏わせる。
『これで少しは魔力を温存できると思います』
魔法は、アリナーデを覆うようにきらめいていたが、王女が手を動かすと輪郭のなかった揺らめきが形作られていき、やがて黒いマントになった。
アリナーデは黒いマントの肌触りを確かめるように頬擦りしたり指で撫で付けた。よほど良かったのだろう、笑顔が溢れルーズの頭上を大きく旋回し始めた。
ルーズは黒い魔法を出すだけだったが、王女はそれを形に変えたらしい。
魔力をボールにしたり、器にしたり。不思議な能力だ。
『すごいわ!滑らかな高級な絹のようよ!
それに温かい。ルーズの優しさが詰まった魔法だわ。素敵…ありがとう!』
ルーズの魔法は優しい魔法ね、と淡い光がくるくる舞いながら言う。
暗闇が優しいということにしっくり来ないが、良い使い道が出来たことは嬉しかった。
ルーズはキラキラ輝く黒いマントを靡かせながら嬉しそうに飛ぶアリナーデを見て、ぼんやりと優しい魔法について考えた。
優しい魔法…
ルーズの魔法はただ光を消す魔法ではなかった。
違う使い方が今までもきっとあったはず。それを探さなかったのはルーズ自身。
暗闇が怖いという理由で、何もせずただ消えるのを待つだけだった。何か使えるかもなんて考えもしなかった。
それは魔法が悪かったのではなく自分自身が暗闇を遠ざけたからだ。
人を驚かせたり怖がらせるだけじゃない。
私次第で優しい魔法に、なるんだ。
ずっと共にあった暗闇と今やっと心から向き合えるような気がした。
『今日は公園に行きたいの』
公園とは一等区にあり、国が管理している美しい庭園だ。夜中も魔法具で作られた明かりが灯っていていつでも入れるようになっている。
貴族が多く利用しておりルーズは入ったことがない場所だった。
『分かりました。一緒に飛んでいきますか?』
先を飛んでいたアリナーデが振り向くと、すでにルーズはふわっと地面から浮いていた。
高く飛ぶことは出来るが飛び続けるような魔法を王女は見たことがない。
『人がいると驚かれちゃうのであまりやってないんですけど、夜なので。へへっ…』
ルーズはなぜか恥ずかしそうに言うため、アリナーデはすごくとても驚いたが、どうにか笑顔で『そうなの。じゃあ一緒にいきましょう』と返事ができた。
えらかった。今日は王女が頑張った。
ふわふわ、ひらひら
すいー
『…あの、ルーズはなんで飛べるの?』
『空気を固めてその上に乗って進んでるって感じですかね?あんまよく分かってないんですけど飛べたので使ってます』
そうなのね、としか言いようがなかった。
空気は固まる物なのかとか、何をしようと思ってこうなったのか、気になることがいくつかあったが聞いても分からなそうだなとアリナーデは諦めた。
ルーズの知らぬ間に立場が逆転である。
幾つもの屋敷の高い屋根の上を、2人は楽しそうに飛んで行った。
『ここが公園ですか…』
植物や生き物の種の保存場所にもなっていると言われる国の庭園。
公園全体が魔法具による温度管理がされ様々な季節の花が咲いており、ルーズは飛ぶのをやめ歩いて散策を楽しむことにした。
隣のふわふわひらひら飛ぶアリナーデを見ると、ここに住んでいそうなほど馴染み、一瞬本物の妖精がいるような錯覚に見舞われる。
闇夜を照らす柔らかい光に夜行性の動物達が吸い寄せられたようで、次々とひょこっと顔を出す。
それはまさに、森の妖精と仲間たちの構図だった。
ルーズの視覚は、有名な画家が書いたであろう一枚の素晴らしい絵を映したようだった。
『…これは、私だけが見る景色じゃもったいない気がする』
まぁまぁ理不尽なことがあったが、ルーズは美しい光景を前に、まぁいっか。綺麗なもの見れたしと思い始めた。
なんだかんだで来週もお散歩が楽しみになっていた。




