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 と言うわけで、先日私はルーズ・ベクタール改めルーズ・キーラになりました。


 なんとなく言いづらいというか、締まりがない気がするが、仕方ないだろう。慣れだ慣れ。




『ルーズ・キーラ…言いづらいわ。ルーズ・ルチルの方が良くなくて?』


 私とお揃いだし、ね?と可愛らしくいうアリナーデ様。本日は2回目の魔法指南それから夜に器ができる可能性が高い日でもある。


 今日の挨拶を交わした後すぐに言われた王族ジョークは威力が強かった。ルチルは王族の名。

 王女の言葉を拒否することも頷いてもいけない。そういった類のジョークはダメだと誰かこの愛らしいお姫様に教えるべきだと思ったがルーズは笑顔に隠した。


『ふふ…じゃあ今日もよろしくお願いいたします。ルーズ先生』




 アリナーデが苦手なのは魔力の出力量の調整と維持。今までは徐々に出力量を弱めたり、強めたりしていき必要な魔力量になるようにしていたらしい。

 そうすると、余計な魔力を使ってしまって勿体無い上に時間がかかってしまうのだとか。


 普段の生活に問題ないとはいえ確かに不便ではあるな、とルーズは王女がなぜ指南役を探していたのか納得だった。



 前回は王女の魔力量の確認や話を聞いて終わったので今日は実際に魔力をぶつけてみようの回だ。




『私は指で丸を書いて魔力を出すんですが、この丸の大きさに比例して魔力量を増減するイメージでやっています。

イメージと魔力量を繋げると調整しやすいかな、と思うんですがどうですか…?』



 ルーズは小さい丸を書き、小さい魔力の塊を浮かせた。次にその隣に大きな丸に先ほどより大きな魔力を浮かせた。


『まずはイメージは、魔力を指や手に通すんじゃなくて持ってくる感じ、で』



 アリナーデは持ってくる?と少し考え、やってみます。と答えた。

 ルーズが書いた小さな丸くらいの魔力を体内から持ってくるイメージを固めて、手のひらに魔力を出す。



 それを掴むと、えーいっ!と投げた。




 すると、アリナーデの魔力が浮いた大きな魔力をすり抜けた。これが的当てなら100点満点の投球コントロールだったが、ルーズの魔力は漂う形のない煙のようなもの。

 実体のない的の後ろにぽーんぽーんと転がる王女の魔力。



『あの…魔力でボール、作りました?』



 王女が投げたのは魔力ではなく魔力で作られた物体。アリナーデ自身もよく分からないのか、投げた物体を拾い上げ繁々と眺めていた。



『魔力を持ってくるイメージをしたら、出てきたのがコレだったの。ボール…なのかしらね?』



 魔力を通すように手のひらに集めると、次は物体ではなくちゃんとただの魔力が現れた。


??どう言った理屈だろうか。


 ルーズとアリナーデは、うーんと2人並んで頭を傾ける。




『でも、魔力の出し方のイメージで変化するというのが分かって良かったわ!魔法って面白いのね。

さすがルーズ先生だわ』



 アリナーデは魔力を持ってくるのがお気に召したようで自在にボールを出せるようになった。

 魔力量のコントロールはまだまだだがちょっとだけ何かのレベルが上がった王女だった。





『じゃあ今日はこれでおしまいにしましょう。

アリナーデ様お疲れ様でございます』



 晴々とした顔のアリナーデに終わりを告げると、満足に遊んだ子どものように『はいっ!』と良い返事が返ってきた。

 ついルーズは、また頭をなでなでしていた。


 一瞬近くのメイドの肩が動いたが、アリナーデが手で"大丈夫"とそっと制止したためルーズは咎められることはなかった。王女の嬉しそうな顔にその場にいた者は、見なかったことにし微笑んだ。






『ルーズ様、こちらにお部屋をご用意しましたのでどうぞお使いください。時間になりましたら、お呼びいたします』



 ルーズ付きになったメイドのタナーが、案内してくれた部屋はアリナーデの私室の隣だった。

 今王女は別の授業を受けている。その後は貴族たちの話を聞いたり空いた時間に自習とのこと。王族忙しい。



 ルーズの仕事は夜のため、今から昼寝をして備えるのが良いと夜勤慣れしたキーラ宰相から助言されていた。夜は長い、と重い言葉だった。


 さすが王女の隣の部屋だけあって日当たりがよく、広さもルーズの家が丸ごと入りそうなほど。部屋の空気さえも高級な気がしてくるから不思議なものだった。




 ひとまず恐る恐る1人がけソファに腰掛けるとあまりの座り心地の良さに『うっわあ…』と声が出た。さらに肘掛けに宝石らしきものを見つけ『うっわあ…』と声が出た。触れない肘掛けだ。



 ベットサイドを見るとサンドウィッチや果物、キッシュ、ケーキが一口サイズになっていて5段のスタンドに可愛らしく置かれていた。


 相変わらずの至れり尽くせりに感謝や恐怖が入り混じる。また王族とご飯だったらどうしようかと戦々恐々としていたが今日は1人らしいと気付き安心した。よかった本当に良かった!




 ソファの前のテーブルにはアリナーデの趣味なのか可愛らしいティーセットが置かれている。ポットの中身はお湯のようだったがカップに注ぐと、りんごの香りがする紅茶が注がれた。

 仕組みは全く分からないが、身体がほぐれる優しい甘さを有り難く堪能させていただいた。



 紅茶に睡眠作用があったのか少し眠くなってきたルーズはそのままベッドに行き横になる。ちょっとだけ…






『失礼します、ルーズ様お時間でございます』


 タナーに優しく起こされた。時計を見ると夜中の二時頃。


『んー…ありがとう、ございます。こんな時間なんですね…』



 まだ時間があるようで、軽く食事を勧められた。ルーズはスタンドにあった美味しそうなフルーツのサンドウィッチを摘んだ。生クリームがほんのりチーズの味で甘さと塩気が絶妙なバランスだった。寝起きでもさっぱり美味しい。


 今回もタナーが支度を手伝ってくれたおかげで、ぼさぼさだった髪が瞬時に整えられる。

 街歩きしやすい丈夫そうな服が用意された。布地は硬いのに着心地が良い。魔物絹…ではと考えかけていや怖い、それ以上考えるのは辞めておいた。




『では参りましょう』


 部屋を出るとキーラ宰相といつか見た護衛2人が待っていた。

『アリナーデ様が起きたので一緒に散歩してきて欲しい、頼んだぞ』



 胡散臭さが2割り増しの笑顔が引っかかるが頷き、王女の部屋に静かに入室した。


『失礼しまーす』






 そこで見たのは、ベッドの上ですやすや眠るアリナーデとその上でふわふわ飛ぶ妖精だった。


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