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まさかアリナーデ様が魔法士になりたいなんて…

私で本当に指南役務まるのかしら


 初日から壁にぶち当たってしまったルーズは、1人反省会を開きながら城から帰宅しようとしていた。

 今日は正面から入ったため帰りも正面から。門の前で兵士にリボンを見せると『お勤めご苦労様でした』と声をかけてくれた。



 門が開く間にリボンを外してカバンにしまい込んでいると、背後から肩を叩かれた。


『ルーズさんお疲れ様。

今帰り?俺もなんだけど一緒に帰ろうよ。送るからさ』


 そこにいたのは、キーラのところまで案内をしてくれた騎士団所属のラズールだった。

 馬車留めを指差しながら、変わらない爽やかな笑顔。


 人懐っこそうな雰囲気に昔馴染みのような安心感が漂い程よい距離感の友人のような感覚に危うく勘違いしそうになるが、なんと今日知り合ったばかりだ。

 知り合いにも少し足りないような間柄の貴族の馬車に乗るのは流石に…ルーズは丁寧に辞退する。


 彼は身分の下のものからの断りに気を悪くするでもなく『じゃあまた今度ねー』と変わらない笑顔のまま去っていった。


ラズール様といい、貴族って優しい人も多いな。



 城に来てから目まぐるしい変化の日々について行くのがやっとだが、なんとかなっているのは周囲の人たちのおかげだとルーズは思っている。


 人に恵まれたことに感謝しながら、門をくぐると綺麗な夕暮れが広がっていた。





 城前の道は馬車の往来が多く、まばらに歩く人がいるだけだった。ルーズは端によって静かに歩きながら、有名店やおしゃれなお店の外観を楽しむ。

 いくつかの店を通り過ぎ、人が多くなってきたところで道を曲がりメイン通りから外れ脇道に入った。


 人が少なく歩きやすい脇道は、高級な雰囲気が漂うが落ち着く不思議な場所だった。

 どこからかいい香りが漂い、釣られるようにふらふら歩いていると道を塞ぐように二人連れの女性がルーズの前に立ちはだかった。



『ねぇ、あなたギルドにいたルーズよね?

噂は本当だったのね…ライザック様目当てにこんな場違いなところにいるなんて』


 やだわぁ、本当にとくすくす笑い合う見た覚えのない、いかにも貴族といった服装に赤い紅を引いた女性たち。



ああ…こういう感じの貴族もいるのか。

むしろこっちが普通?城にいる人たちもほんの一部しか会ってないしなぁ



 話の内容から察するに、同じギルドで働いていたのだろうが、職場では貴族も制服か動きやすい服を着用しており今目の前にいるようなヒラヒラしたドレス姿と濃いめの化粧になってしまうと誰か見当もつかない。


 彼女らはルーズにとって知らない人に近い。どう答えるべきか悩んだ。

 そしてわざわざ不愉快な他人に名乗ることも弁明することもひどく面倒だった。



『すみません、どなたでしょうか?

用事があり、その帰りで通っただけですので失礼致します』


 話をさっさと切り上げ逃げるが勝ち作戦に出てみたが『待ちなさいよ!逃げる気!?』と大声を出され手を掴まれる。そうですよ、逃げさせてくださいよ…


 貴族相手に無理やり振り解くことも出来ず、困っていたが、ああこう言う時に使えばいいのかと閃いた。


『すみません、失礼致します』断りを入れてから、ふぅーっと魔法を吹きかける。すると女性たちの周りに暗闇がばさっと降りて包み込んだ。

突然目の前が暗くなったことに驚き、手を離す。その隙にルーズは5歩ほど下がって様子を見た。


 手をかざし魔力を散らせ暗闇を払うと、霧が晴れるように消えていった。

 暗くなったと思った次の瞬間に明るさを取り戻し何が何だか呆気に取られる2人の無事を確認した後、さっさっと全速力で逃げた。


 背後から女性の叫び声が聞こえたが、元気そうなのでそのまま全速力で逃げていく。




『ルーズさんやっさしー…!』


 その様子を見ていたルーズの護衛を命じられている影は、目を輝かせ思わず呟いた。




 一等区の入り口あたりまで一気に走り抜けた。

 はぁ、はぁ、と息を切らし立ち止まる。ここまでくれば大丈夫だろう、とルーズは息を整え乱れた髪を手櫛で直す。


ギルドには貴族が多く働いてたんだから、一等区で鉢合わせてもおかしくないのね。油断してたわ…


 ギルド本部の近くさえ通らなければ平気だろうと思い込んでいたが、彼らも同じ街に住んでいるのだ当たり前だった。




 誰にも邪魔をされずに無事に脇道を歩き続けギルドを通り過ぎることができたので、夜ご飯を買うためそろそろメイン通りへ戻りたい。こそこそ辺りを見まわし安全確認をして通りへ出た。

 今度は大丈夫そうだ。



どれにしようかなー。

疲れたからガリックとジャガイ揚げとパン買っていこうかな…焼き鳥、串肉、あー悩むなぁ


 並んだ路面店の商品を見てまわっていくつかの店の前を通り過ぎた時、周囲の音の多さに気づいた。

 今朝の移動する音がよく聞こえるほどの静かさが嘘のように、雑多な音が入り混じる生きた街の音が聞こえる。

 音は活気付きルーズの気持ちも明るくさせた。


『やー今日はみんな元気だねぇ』

『いらっしゃい!そうなんだよおかげで昨日あんなに売れたガリックが残っちまってるよ!』


 隣の会話も楽しげに聞こえてきて、ついつい串肉とガッリク揚げ両方買ってしまった。一人暮らしには量が多いが今日なら食べられそうだ。



『お嬢さんまいどありー!今日はガリック売れ残ってたからおまけに多めに入れといたよ!気をつけて帰んな』

 親指を立てながら袋を渡してくれたオヤジさんに、一瞬笑顔が引き攣りそうになったがどうにか耐えながらお礼を言って受け取った。食べられるだろう…多分。



『えーおまけくれるんすかー?

じゃガリック揚げ俺にもちょーだい!余ったら明日のスープに入れるからさ』


 別の客がおまけのガリックに釣られてきたらしい。オヤジさんは嬉しそうに『まいどー』と言ってどっさり入った袋を渡していた。本当に沢山残っていたよう。


そっか、余ったら明日スープにすればいっか。


 食べ切れるか不安だったガリックだったが見知らぬお兄さんのおかげで無駄にせずにすみそうだった。

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