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『で、ルーズ・ベクタールは君の目から見てどうだった?』


 書類が積まれた机の前に座る第一王子ルディアシス。彼は愉快そうに、座り心地の良い椅子を揺らしながら金バッジを着けた文官に問いかける。


 第一王子専用の執務室には、ルディアシスと王子の幼馴染兼側近と文官1人がいた。

 王子は今日学園をわざわざ休んでいるため他の側近や王子補佐役の文官はそれぞれ学園や別の仕事場にいるため、この場にはいない。



『力に溺れない方ですよ。あの方は大丈夫でしょう。

我々はしっかり見守らせて頂きます』


 王子は文官の答えに満足げに頷いた。側近もほっと肩を撫で下ろす。


『…ただ、お人好しというか流され易そうなのが少し心配されますね。

ルーズさんのご出身の村やリーベの町にいい人が多かったんでしょうね。あと貴族が居なかったのか、貴族に対して嫌悪感とか疑うとか知らなそうな様子でしたよ』


 少し困ったように文官は言った。悪いことではないが心配だと。


 ルーズが貴族を身近に感じた最初の出来事は魔法の専門書を譲ってもらったことだ。

 それから大人になるまでほとんど貴族に関わってはいない。おかげで貴族はえらい、すごいと言う考えがふわっと根付いている。


『ルーズが能力が高いだけの愚か者ではなくて良かったが…お人好し。んー……ああ。

だから宰相が早々に囲い込んだのかもしれない。


その辺は多分大丈夫だと思うが、何かあればフォローを頼む。

ありがとう下がっていいよ』


 文官が下がろうとした、その時。


ドンドン、ドン。

ガチャ


『失礼します!ねー聞いてー最悪ー!

魔商ギルド潰していい?もういいよねぇ!?


あっ文官くん早速上司に報告来てえらいねー』



 入室の許可なく、勝手に入ってきて愚痴をこぼすのは魔法士団副団長デュオだった。


 聞いて聞いてとがなり立てる男にルディアシスは眉間に皺を寄せ文官を手招きする。面倒な仕事に巻き込まれそうな時は、優秀な文官が必要なのだ。


『あーうるさい。

なんだ急に。あそこは…まぁ愚か者が多いが仕事はちゃんとやっているだろう。

なくなると困る。やめてくれ』


 魔商ギルドは、各町にある結界の管理や魔法、魔法具の相談所の役割を果たしている。国民の生活に必要な国が運営している機関のひとつだ。

 なくなれば、魔力に頼り切った生活をしているこの国は大混乱に陥る。



『それを一番よくわかってるのは魔法士団だろう』


魔商ギルドは、国民の生活を守る仕事。

魔法士団は、国を守る仕事。


 大雑把にこのような位置付けだ。片方がなくなれば片方の負担が大きくのしかかるのは明白。


 文官が横で、勢いよく頷く。

 魔商ギルドがなくなれば確実に嫌で面倒な仕事が増えるのは、文官も同じ。それは全力で阻止したい。



『だってー聞いて!?

あいつらールーズちゃんに魔法士の試験受ける資格ないって言ってたんだよー!!


魔法士なんて魔力量と魔力コントロールできればいいだけなのにさー』


 正確には資格なしとは言われておらず微妙に違うが、彼の魔商ギルドに対する心象が悪いため致し方なかった。


 そして魔法士団のデュオは試験を簡単そうに言うが、一般人からしたらかなりの魔力量とかなり厳しいコントロールを追求される。

 普通は魔法は生活のちょっとしたことに使うだけで、便利に扱うことは難しい。そのために魔法具が普及しているのだ。


 自分の好きな量の火を出す、水を出す、風を起こす。一般的にはそれくらいだ。


 魔法士はその火を好きな温度に出すことができる者がなれる。一般人には無理だが、大量の魔力をコントロールが出来る者しか出来ない芸当だ。



 王女の魂をふぅーと一息で救ったルーズの魔力量が少ないわけがない。

 さらにギルドでは魔力コントロールを買われて魔法具の検品係になっている。


そんな人物が魔法士になれないとはどう言うことだ?



『平民に魔法士になる試験あんま受けさせないようにしてる疑惑ー。リーベのギルド支部に魔法士いなかったってルーズちゃん言ってて…あり得なくなーい?


一般のギルド職員と魔法士資格持った職員だと給料違うからその辺どうなってるのかなー』


 王子は文官にギルド本部と支部の会計報告書と職員名簿、直近5年で魔法士試験を受けた名簿を持ってくるように命じた。


 ルーズがギルドを辞めた原因も調べてみれば最悪だったが、まさか有能な人間を使い潰す気でいたとは…本当にあいつらは愚かだ。


『デュオ副団長。

潰すのはギルドじゃない、愚か者たちだけだ』


デュオは、やるやるーと嬉しそう。こっちはいつでも動けるからーと言い残し帰って行った。




『まーた仕事が増えましたね。大丈夫そうですか?』


 今まで黙って見守っていた側近は、王子の眉間の皺が増えて行くことに同情していた。


『学園が面倒でサボる口実にルーズを使っただけなのにこんなことになるとは…天罰はあるんだな。サフィールに馬鹿にされそうだ。


まぁ…私の治世が楽になるよう今から掃除するだけと思えば、仕方ない。やるのが遅いか早いかの違いだろう』


 それに何故かルーズを気に入っている節があるキーラ宰相に話を通せば幾分か楽にことは進むだろう。





『そういえば、なんで宰相はルーズを気にかけてるか何か言ってたか?』


 白リボンを留めるエメラルドが輝く側近は、宰相の息子であるシヴァン・キーラ。彼は王子より年上で学園を既に2年前に卒業し文官として働いている。


『それが、まだ不確かな情報だから言えぬの一点張りでして。

なにかありそうですが、優秀な人材は元から好きですからね父は。

私も姉上が出来て嬉しいですよ』


 そっちも調べてみるかと、ふと頭を過ったがこれ以上抱え込むのは得策ではないと判断した。


 まずは、書類の上に重ねられた先ほど頼んだギルドの資料の確認作業だ。




一枚ずつ丁寧に。一つの間違いも見落とさぬように。


 静寂の中聞こえるのは紙が擦れる音だけだった。

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