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イリアはどこかを冷たく睨みつけるように遠くを見つめ口にした。
『魔法士は確かに実務経験があれば合格しやすい、とは言われている。でも必ず実務経験はいらないの。
どうなってるのかしら、ね』
表情を消し去った顔で、淡々と話すイリアは最後はデュオに同意を求めるように話しかけた。
それも世間で言われる実務経験は、入所試験が必要な魔商ギルドではなく一般で魔力を使う仕事の話であると教えてくれた。
塔内部の室温が下がっている気がするルーズは、自分が知っている話と乖離があることになんて言ったらいいのか困惑であった。何を言っても気温が下がり続ける気配しかしない。
『ちょーっと話聞いてきまーす』
デュオは笑顔を取り戻した、と思ったが不穏な空気漂う笑顔のままどこかに行った。
ルーズは、幼い頃は魔力コントロールができるようになることを目標に。それが達成した後は、師匠や商団のみんなに立派な姿を見せられるようにが新たな目標だった。
魔法士になりたいと思わなくもなかったが目指すべき目標としてなかったため試験についてはあまり考えてはいなかった。時期がくれば受けてみよう、くらいのノリだ。
魔商ギルドの支部でみんなから、魔法士になるには実務経験が数年あれば試験を受けられるようになるみたいよ!ルーズは魔力量が多いからきっと受かるね、なんてリーベの町では言われていた。
確かリーベには魔法士はいなかったから、試験を受けたことがなくて知らなかったような気がしないでもない。うーん、と悩むルーズ。
『まぁ、何でそうなったのかはデュオ副団長が調べるわ。
魔法士試験を受けたかったらいつでも言って』
優しげな雰囲気が戻ったイリアのおかげで寒さが和らいだ。
『もうすぐ、訓練場よ』
廊下を歩き続けた突き当たりの部屋が訓練場になっていた。鉄の扉を開けると、そこは殺風景な広い倉庫のようだった。
よく見ると四方の壁には魔法具が埋め込まれ、常に起動している気配があり、ただの倉庫ではないことがわかった。
『それじゃ、魔法士団の初級訓練をやってもらおうかしら。
難しいけど実力を測るのにちょうどいいから。頑張って』
初級とは言っても上級魔法士以上の実力があるものだけが行う訓練だ。
ルーズは実力テストの内容に驚きはしたが、やれるだけやるだけだと冷静に気合を入れた。
『向こうに的が出てくるから、好きな魔法で撃ち抜いて。
当てるだけじゃダメ、魔物だと思ってやってちょうだい。いい?』
試験は単純なようで安心したが、魔物のつもりと言われ集中力を高める。魔物は魔力を持った動物が進化したもので、種類によって様々だが魔力に覆われているため普通の動物より魔法が効きにくい。
壁は魔力を吸収するから絶対に壊れないから外しても大丈夫とのことだ。絶対と言い切れるあたり流石である。
田舎には小さい魔物がいっぱいいて倒したり追い払ったりしたこともあったので大丈夫だと思うが、どんな魔物を想定した的なのかによって難易度が違ってくる。
正直不安だが心を落ち着かせる。
位置につき構えるルーズ。それを見てイリアは、よーい、スタートの掛け声と同時に装置を起動させた。
一つ目の的は天井から落ちてきた。
落ち着いて
真っ直ぐ水を飛ばすイメージで…
素早く人差し指で小さく円を描き、出来た水を弾き飛ばす。
カランッ
的に当たったはいいが威力が足りず撃ち抜くことはできなかった。的は床に虚しく落ちただけだった。
田舎に出た魔物なら倒せた魔法が通用しなかった。もっと強い魔物ということ。
今求められているのは的が落ちる前に、素早く水を作り出し軌道を整え、あれを撃ち抜くほどの威力を出す。
頭で理解してても、難しいなコレは…
ルーズはもう一度頭の中を落ち着かせ、的を撃ち抜くイメージを固める。
水を作ったら、水の形を変える?それとも風を追加して速さを増す?あれこれ考えているうちに二枚目の的が床から起き上がった。
指をまっすぐ的へ向け、円を描く。今度は水を細く速く、より速く射抜くように願いを込めて。水が飛び出す瞬間にルーズの髪が舞い上がった。
弓矢のような水が空中を走り抜け、シュッと小さな音を立てる。
的は起き上がったまま小さな穴を開けた。
右から、上から次々に的は出てくる。ひとつひとつ指を向け射抜く。的が出てくる速さと枚数に限界を感じ始めた時にピィーッと終了の合図がなった。
音が聞こえた瞬間ルーズははぁーっと息を出し切る。魔力が思った以上に消耗され、息が上がっていた。
的が回収され、一枚ずつ確認していく。
的を射抜くほどの水は壁にも当たったが、傷ひとつなく綺麗なままだった。
『30枚中16枚が貫通。5枚が、惜しいわ、撃ち抜く手前ね。6枚は当たっただけで、3枚はハズレ。
ほんと惜しいわねぇ、訓練は25枚撃ち抜いたら合格ラインよ』
魔法士にもなっていない人間の成績としては大成功だが、ルーズは合格ラインに届かず悔しがった。
弱い魔物なら水か火で包んで一瞬だから、的を狙うの難しかったな…
コツを掴み切る前に終了してしまい落ち込むルーズ。あと少しで出来そうだったのに、と。
『細かい魔力操作が得意なのね…こんな小さな穴を空けたのを見たのは初めてだわ。すごいわね……全部同じ大きさ。うん、これなら問題なしよ!!魔法士試験もぜっっったいに受かるわ。
あら、指南が不安なのかしら?そちらも大丈夫よ!
王女殿下は、魔力が多くてコントロールが難しいって言ってたから操作指南をお願いね』
イリアはすごいすごい、とルーズを褒めた。
王女の指南役としても魔法を扱うものとしても合格を魔法士団長であるイリアにもらえたことにルーズは、ほっとした。
自分が幼い頃にやっていた魔力操作の訓練を教えれば大丈夫そうだ。良かった…
当時の師匠との訓練や独り訓練した数々のことを頭に思い起こす。
自分がやってきたことは、無駄じゃなかった。
師匠が居なくなってから誰にも教えてもらうことができず1人練習した日々。ギルドをクビになりソレは無駄だったと突きつけられたようで、幼かった頃の自分が否定されたようでひどく傷ついた。
くだらない言い分で奪われるようなちっぽけな努力の成果だと突き付けられたようで…空っぽになりそうだった。
今ソレが無駄じゃなかったと救われた気がした。
鼻の奥がツーンとする。
でもまだ何も成し遂げてはない。
だから、まだ泣かない。




