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『ルーズちゃんいらっしゃーい』


 出迎えてくれたのは、以前映像で見た副団長のデュオだった。あの時と全く同じ生身の副団長をつい上から下まで見てしまいルーズは改めて、魔力操作の繊細さ正確さに思わず感嘆のため息が漏れた。


『なぁにー僕のこと見つめてー照れちゃうよー。


あ、文官くんはここまででいいよ。ありがとねー。

君んとこの上司によろしくー』



 では、と文官の彼は丁寧に一礼し戻ってしまった。平民仲間が消えてしまい心細さについ後ろ姿を眺めてしまう。



『魔法士団は、身分関係なく実力主義。

ギルド試験での成績見たよー本当に頑張ったね。


魔法士団は頑張り屋のルーズちゃんを歓迎するから』


 歓迎のポーズとばかりにデュオは、ばさっと両手を広げた。すると黒いマントも波を打ち広がる。

 塔内部の程よい暗さの背景と相まって絵本に出てくる吸血鬼のようで、歓迎というより捕食寸前の気分に陥った。


 関係ないとわかっていても、魔商ギルドの親玉のような立ち位置の魔法士団に余計な警戒心があるためでデュオは悪くないのだが。



平民嫌いリストに魔法士団の名前もあったはずだしなぁ…士団以外の平民が嫌いの人がいるとかかな



 何にせよ、ルーズは身分的なものはさておき城勤め人の中で一番新人であることは変わらないわけで偉ぶるつもりはない。

 出会ったとしてもいつも通り頭を下げ横にズレていれば大丈夫だろう、と考えた。




 デュオに、こっちーと連れて行かれたのは塔の階段をいくつか登った先の狭い一室だった。質素な4人掛けの机と椅子だけが置かれていた。


『ちょっとここで待っててー』


 座っているように言われルーズは1人待っていると、デュオが割とすぐに『ただいまー』と戻ってきた。その後ろには黒いリボンに5本のラインが入った女性。


 ルーズは反射で立ち上がり頭を下げる。身分や立場の下のものはそのまま声をかけられるのを待つのがマナーだ。

 2人が机のそばまでやってくる気配を机の木目を見ながら感じていた。


『顔を上げてください。初めまして、私は魔法士団長イリア・タスペル。

ルーズちゃん、よく来てくれたわ』


『ルーズ・ベクタールです。お招きありがとうございます』


 座って、とイリアは微笑んだ。

 彼女はルーズより少し背が高く、黒いマントにかかった銀髪のコントラストが目を惹く美しい女性だった。



 優しそうな笑顔は貴族スマイルに近かったが拒絶は感じられずルーズはひとまずほっとした。

 イリアの襟元に輝くのはエメラルドだ。


『今日来て貰ったのは、ルーズちゃんの魔法に興味があったからと指南役としてどの程度使えるかを見たくて呼んだの』



 ルーズは、自分の魔法についてやアリナーデに聞いた話と実際ルーズから見た視点での話を説明した。


 たまたまルーズの魔法が王女を救った、と。

 ルーズから見たあの時の王女は、ただの体力無尽蔵の5歳児だった。賢いなと思ったが、さすが貴族だと思えば違和感がなくただ迷子を城まで届けたら帰るつもりでいたことを、極力事実のみを話し伝えた。



『んー今ちょっと黒いの出せる?』


 話を聞いたイリアは見てみないと判断できないしなぁと危なくなさそうだからここでお願い、と軽い調子で言った。

 ルーズは黒い魔法がどう周りに影響するか不安だったが何かあれば団長に任せようと決心して、ふぅーっと暗闇を作り出した。


 机の上に漂う黒く広がる闇。所々で光を反射した様は星を散りばめたように見え、綺麗な夜空が出来上がっていた。


『あら、聞いていたより綺麗ね。

レース…て聞いていたけど魔力の篭め方が違ったのかしら。

んー触れないのね。残念だわ』



 橋の上でかけた魔法は出来心だった。だから確かに魔力は少なめに吐き出した気が、する。

 暗闇は薄まって出せるのかとルーズは自分の魔法についてまたひとつ知ることができた。


『あーこれ。裏は真っ黒だー。表面が光吸収してるっぽい!

魔力の密度濃いとこんなふうになるんだねー』


 手で触れることはできないが、魔力を使って風を起こせば暗闇はヒラヒラ宙を舞い裏側が見えた。

 それはルーズがいつも見ていた、あの暗闇。



『多分だけどね、ルーズちゃんが出す魔法は高密度に編み込まれた状態で放出されてるのだと思う。

使い方は、これから研究するけど面白い魔法ね。いいわすごくいい魔法だわ!』



 イリアは懐から瓶の形をした魔法具を取り出し、蓋を開け暗闇に近づけるとルーズの魔法を吸い込んだ。


 半永久的に魔法を保存できる容器らしいが、暗闇は研究に使用するため中身がなくなったらまた補充をお願いね、と頼まれた。


 瓶に入った暗闇はふわふわ漂う埃のようだ、とルーズは思ったが、キラキラしてる部分は少しだけ綺麗だとも思った。




『じゃあ次は、訓練場でバンバン魔法を使って見せてね』


 ほぼ独学のルーズは、魔法士に魔法を使うところを見てもらうのはギルド試験以来となる。しかも王直属の魔法士団長となれば国の魔法士の頂点であり憧れの人物だ。


『そういえば、なんでルーズちゃんは魔法士じゃないの?』


 そう実はルーズは魔法士ではない。


 魔法士は各国が定めた試験に合格した者だけが名乗れれる。魔法士になり経験と新たな試験を経て中級魔法士、次に上級魔法士にランクが上がる。


 魔法師団は上級以上の魔法士がなるためわざわざ肩書きに上級魔法士とは名乗らずに魔法士団と名乗る。上級でもさらに一部の優秀なものだけが魔法士団になるため区別するためでもあった。


『私はまだ魔法士の試験を受ける資格がなくて、あと1年ギルドで実務を経験して受けようかと思ってて、ダメでしたけど』



 へへっと笑ったルーズとは対照的にイリアとデュオは笑顔が固まっていた。


『……魔法士の試験にそんな規則ないわ』



 咄嗟に副団長の方を向いたルーズだったが、デュオも真剣な顔をし、それを肯定するように無言で頷いた。

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