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 メイドは部屋に入り挨拶を終えると、ルーズの全身、頭から爪先までをサッと目で確認した後に鞄から箱型の魔法具を取り出した。


 何かな、と考える隙もなく起動。するとルーズの周りに大量のミストがゆっくり現れ、全身を覆った。

 突然現れた霧に驚くが部屋に清潔な香りが漂い、サラサラしたミストの粒子の肌触りに不快さは少ない。


確かこれは、病気怪我の時やお風呂がない戦場で使う洗水魔法具…

使ったことなかったけどミストに包まれてあったかい。気持ちいい、ハーブの香りが落ち着く〜

…買うものリストに書いておこう


 目に見えないほどの粒子の水が箱の穴から吹き出し、ミストを作る。対象者の体の表面についた汚れを粒子が包むようにこそぎ取り、吸収する魔法具だ。

 この魔法具のすごいところは細かい粒子が毛穴の中にも入り込み根こそぎ汚れを持っていく。柔らかい毛先で撫でられている感覚でくすぐったさはあるが、さっとひと撫でで全身ピカピカだ。


 汚れたミストはまた穴から魔法具の中に戻り濾過される。その後使用した水を外に捨て、新しい水を入れたら何度でも使える便利品。

 欠点は皮膚の表面を削りすぎてしまうことがあり、扱いが難しく常用するには肌ケアをできる人間に限られる。金持ちか非常事態時に使うのが一般的だ。


 全身つるんと剥けたルーズは、タナーが魔法鞄から取り出した寝台に寝かされた。

 ミストで失った水分を肌に染み込ませ保湿剤を塗り込むためだ。ついでに張った肩や浮腫んだ足を丁寧にほぐしていく。


極楽だあ…


 ルーズは、メイドの中の最高峰王宮メイドによる誰もが一度は受けてみたいと憧れる全身マッサージを受けていた。

 王妃や王女の美しさを引き出す王宮メイドのみが扱える特別な香やオイルに門外不出と言われる匠の技に、全身とろける。


三時間前に神様に出会い、今は極楽にいる。

城ではないお迎えも来そうである。



王宮メイドのマッサージさいっこう〜…



『では、仰向けにお願いします』


ヘッドマッサージ、やばい言葉忘れる…

寝そう……



『次は小顔まっさー…いた…ね…


 タナーの優しい声が遠くに聞こえる。身を任せ全てを委ねるルーズは、何も分からないが微笑んで頷いた。安らぎを与え続けるタナーの手がルーズの頬に伸び優しい手つきで、


押した。



!?!?!?!?


[次は小顔マッサージをしますので痛いですが、我慢してくださいね]


 極楽浄土からタナーの手で地獄に落とされた瞬間だった。

 頬から耳にかけて、ぐりぐり押される度に悲鳴が出た。骨割ろうとしてる?え?

 目の窪みを目玉を取り出す勢いで抉られ、頭を両手でかち割られかけた。首がしまるスレスレをぐいーっと横から押されトドメに全体重を顔にかけ首の骨を折られかける。


痛すぎて悲鳴すら上げられない。何が起こった。

血、出てない?顔ある??え


 極楽比べ地獄の時間が長い。がルーズはなんとか耐え切った。


『貴族の女性に今流行っている小顔マッサージいかがですか?目の開き具合や顔の形がすっきりになったかと?こちらご確認ください』


この地獄が貴族の流行り…修行でもしてる???


 極楽急降下地獄のマッサージに納得がいかないルーズは渋々タナーが用意した鏡を見る。


あーあーなるほど?


 顔を横に向けたり上を向いたり色々な角度で確認する。目の開きが普段の1.5倍増し…の気がする。体感開きやすくなっている。瞳が大きい。

 顔も細くなったような、なるほど。悪くない、な。


 目の疲れもすっきりしており、顔も小さくなった気がする。地獄の痛みの回避と見た目のレベルアップどちらを取るか、選択するには非常に難しい問題のようだ。

 目見良くすることも仕事のような貴族に流行ることに納得がいく仕上がりだった。

 


『軽食をどうぞ』


 寝台を魔法陣に片付けると、別の魔法陣が書かれた紙をを取り出した。朝方に見た陣と同じようだった。


 ルーズの予想通り、新たな魔法陣から出てきたのは、ティーセットと一口ほどのサクサクのパンだった。


 タナーが入れてくれたお茶は、甘い香りの中に癖のある刺激的な香りが混じっていた。恐々と口をつけるとはちみつの甘さと独特な爽快さが合わさり、悪くなかった。二口目に美味しく感じる不思議なハーブティー。


『ストレス緩和に効くハーブティでございます』


 ありがたい。本当にありがたい。

 カシシェクリームつけて食べるサクサクパンも美味しい。

 ルーズは食べながら、絶対逃げられないよなぁとこれからのことを考えた。昨日あった頭痛も吐き気もなく意外と落ち着いている自分に思い至る。


 1日で王族に会うことに多少慣れ始めたらしい。繊細なつもりもないがこんなに図太い神経をしていたことに驚く。


アリナーデ様に会うのは楽しいし、ね


 最後の一口を味わいながら頂いた。

 タナーはルーズが味わい終わるのを待ち、次の支度に取り掛かった。


 上質なワンピースに背中は腰より少し上に結び形作る。お化粧は控えめに、髪型は今流行りの前髪を編み込み後ろに流しくるっとまとめそこからリボンレースを垂らす。

 貴族のようにドレスの裾を靡かせず、レースをヒラヒラさせるのが金持ちの平民や若い貴族女性の中で流行っているらしい。


 全身鏡で確認すると、タナーの腕のおかげで髪型も服も着せられてる感なく可愛らしく似合っていた。

 安心して、肩の力を抜くと胸元につけられた緑輝くブローチが目に入る。なんとく誇らしげに存在を主張しているように見えた。

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