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平民嫌いの貴族は割といるということをルーズは中央都市に来てから知った。嫌な顔をされたり、露骨に無視されるだけで特に害はなかったので気にはしてないが。
最初から相手に嫌われてると分かるリストは大変ありがたい。書いてある通り近づかなければいいのだ。
近くを通ってしまった時は深く頭を下げればあちらもわざわざ突っかかってはこないと学んだ。無駄な時間を嫌う貴族の習性はこういった時に有難い。
ざっと見たところ、第二王女宮所属はいなそうだ。特に困ることはなさそうで安心だった。
サフィール王女といえば、16歳になられたはず。噂では可愛らしい見た目とは裏腹に騎士向きの性格…脳筋の噂をギルドで聞いたことがある。よく魔法具を壊してしまうとか忌々しいあの男がこぼしていた気がする。
勇敢なサフィール王女に聡明なアリナーデ王女。
2人の王女を合わせたような、まだ学校通う学生という立場でありながら国王の政務を手伝い、騎士団の訓練にも参加するというサフィールの双子の兄で継承権第一位のルディアシス王子。
王子王女3人は仲が良く、この国の未来も安泰だと飲み屋のおじさんたちが乾杯の合図のようにあちこちで同じ話を繰り返していた。
サフィール王女が、ねぇ。
ちょっと意外ではあるが、そういった噂が街に広がらないというのは公務などではちゃんとしているということ。
仕事をきちんと出来るのは好印象である。近づかなければ尊敬したままでいられるはず。
リストの後は第二王女宮について書いてあった。侍女長や執事長の名前や魔法を使う際のルールなど。
ふむふむと読み進め、パラっと最後のページをめくると、簡易魔法陣が書かれていた。
魔力を流すと一度だけ使える便利なものだが、魔法陣は古代文字で描かれ読みづらくすぐにどんな効果があるのかは分からない。
なんの文字だろ…転移?させる。
あっちがう転送、、召喚??こっわなにを
指定の座標はおそらく城からになっていて、城から何かを召喚できるらしい。何かは書いていない。
えぇ困る!
こわいこわい!と資料を持ったまま両手を上下にバタつかせ暴れていると、中に挟まっていた紙がひらりと落ちてきた。
[ルーズ殿
今日は誠に感謝申し上げる。アリナーデ様を失うことは国の宝を失うことだ。本当にありがとう。
其方の働きは他言できぬため十分な褒美を出せぬが、きっと我らが国王より近々なにか褒美の品が贈られるはずだ。気をしっかり持つように。大変だが…頑張って欲しい。
今日は疲れただろうこの魔法陣は城の保存機に繋がっている。使用人の賄いですまないがよければこれでも食べて早く寝なさい。
キーラ]
キーラ宰相様あああぁ涙で前が見えなくなりそうです…
貴族のトップ公爵家当主でもあるキーラは有能な人間なら誰でも取り入れる。そのため平民と接することも多く、そして身分差などの多大な心労で潰れる平民も数多く見てきた。
ルーズの状況も過去の部下たちに重なって見え、心配だった。
まぁ彼が平民を採用していた理由が身分差をなくしたいとか平民にもチャンスをとかではなく、自分の仕事を早く終わらせるために使えるものを使うという合理性からなので過去の部下たち同様直接助けはしないが。
彼は忙しいのだ。仕方がない…。
下賜とか…ブローチで十分ですって言っても多分無理なんですよね、宰相様…
それでも事前に知れて良かった、ありがとうございます!知らないで下賜なんて言われた日にはぶっ倒れるところでした!!
ありがとうございます!今はいない人物に向けて何度も手を組み深々頭を下げる。
ルーズは神に手を差し伸べられたのだ。
『神様、キーラ様ありがとうございますぅぅ』
魔法陣を机に置いて魔力を注ぐと陣に淡く光が巡る。淡く弱い光だが今のルーズには希望の光に見えている。
ぽんっと音と共に、湯気立つ二枚貝のスープ、オレンジのフレッシュチーズサラダ、焼きたてのパン、肉を細かくし野菜と合わせ焼いたステーキがジュウジュウ音を立て現れた。机いっぱいに広がるご馳走にもう一度神とキーラに感謝を捧げた。
美味しい。
人の温かさご馳走の温かさに泣きながら食べた。
お金がなかったり実りが少ない時にお腹いっぱい食べれないこともあり空腹で過ごした経験は何度もある。だが恋人も職も失い気づけば城にいた1日を過ごした精神状態での空腹は流石のルーズにもクるものがあった。
窓の外の陽は上り、人々が起き出す朝になっていた。
外から街の音が聞こえ始めると、日常に戻った安心感と腹が満たされたことでまた眠気がやってきた。
何時に城に来いとは言われてないが、まだ時間に余裕があるはず、あと三時間くらいなら。起きたら支度しよう、今は、寝る。
『三時間後起こして…』時計に魔力を注ぎ目覚ましをかけ、今度はちゃんとベットに入り気分よく眠った。
コンコン。
ルーズが寝てからきっかり三時間後にドアが叩かれた。
『ルーズ様お迎えに参りました』
……
ルーズは鳴り響いていた目覚ましを止めた。考える。
たまたま目覚ましをかけた時間とお迎えの時間がぴったり重なったのか。たまたま…
考えながらドアを開けた。開けた後で何の支度をしていないことを思い出す。
あ、やば。寝起き!
うわっお風呂も入ってない!!
迎えにきたのは、昨日案内役をしてくれたメイドだった。目が合うと、彼女はこちらを気にせずに『失礼致します』一礼をし部屋に入ってきた。
『私は第二王女宮のメイドをしております、タナーでございます。今後のルーズ様のお世話をさせていただく予定ですのでよろしくお願いいたします。
まずは本日のお支度をお手伝いさせていただきます』
至れり尽くせりが終わらない…!




