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通された部屋は、豪勢とはほど遠く過度な装飾などはなかったが、さり気ない上質さが際立っていた。
部屋の中央の大きなテーブルに一枚の真っ白なテーブルクロスが敷かれているのが目に入る。
そのテーブルに着くのは国王と王妃。こちらが来るのを待っていた様子だった。王たちの対面には何故か2つ空席があった。
ルーズはそんなバカな、と逃げ出したい気持ちで案内役のメイドを見た。が、無常にも『こちらです』と誘導され、椅子を引かれる。
ルーズの横の席はアデリーナが既に着席し、こちらを見ながら愛らしい笑顔を向けていて、その前には優しそうな国王。の横に不自然なほど自然な貴族スマイルの王妃が。
引かれたこの豪華な椅子は、処刑人の最後の椅子だろうか。
悲鳴の一つ挙げてしまえば口から音以外のものが出てきそうで大人しく椅子に座ったルーズ。何も考えられなくなっていた。
『ルーズさん、そんなに緊張しないで。
今は国王や王妃としてではなく、アリナーデの親としてあなたにお礼が言いたくてお招きしたの』
貴族スマイルは健在だが、幾分か親しみが感じらるほどに王妃は優しい声でルーズに語りかけた。
いえ、滅相もございません!と返事をするつもりが、実際は『あ、いえ…ぇゥ?!』と変な音が口から出てきた。
あれ直答して良いの?
いえ、とか謙遜は王族の言葉の否定に、なる?
え、正解は!?
今ここでの正解を誰か教えて欲しい……!
『ルーズよ、今日は娘が本当に世話になった。ありがとう』
優しそうな国王の声は、よく通り心地よく脳に響いた。人を従わせるのに十二分に活躍しそうな声質にルーズは自然と背筋が伸び、何も考えず自然と言葉が出てきた。
『わ、私は、何もしていないのです。
アリナーデ様は、私の魔法のおかげと言いますが、私の魔法はただ暗闇を作るのみでございます。
たまたま、たまたま今日は何かの拍子に偶然アリナーデ様を助けたのかもしれませんが、私の力だけではない……と思いマス』
ルーズは必死に自分が思っていたことを話した。最後の方は自信なく小声になってしまったが、初めて会う王族×3名の前で言葉を発しただけでも頑張った。と思う。
『あぁ、実は一等区に入ったあたりから影の護衛がアリナーデを見つけたのと、それからルーズの魔法がアリナーデの周りを覆っている状態を観測したと報告をしてきたのだ。
何故そうなったかは調べ中だが、アリナーデを助けたのがルーズ、そなたである。
それが王室魔法士団総意で出した結論だ』
だから、王女の命を助けたと胸を張って良いと豪快に笑う国王。
ルーズは何も安心できなかった。引き攣った笑顔がさらに引き攣るのが分かる。
は?一等区から????見つけてた?は??
もし間違った対応をしていたら、ルーズが座る椅子は今大変質の悪いものに変わっていた可能性が非常に高い。
アリーナに従うが最善、というルーズの野生の如き勘は正しかったということだ。
護衛がアリーナを見つけたその場で回収してくれたらこんなことには……!
アリーナの親に会ったら言ってやろうと思った言葉たちも今この場で新たに出た文句も全てルーズの腹の中に押し込める。無理すぎる。
何一つ言えるわけがない。偶然会った幼女の親が国王だった、は想定外が過ぎる。不敬罪が言い渡される前に処されそうだ。
ルーズは今日何度目か分からない諦めで国王と王妃に座ったまま頭を下げた。
『有り難きお言葉アリガトウゴザイマス。
アリナーデオウジョ様がご無事でなによりデす』
国家権力に屈指切ったつもりだったが、多少の理不尽さが口から出てしまいうっかり感情が死にかけた。
『気苦労をかけてすまんかったなぁ。
見つけたはいいが出て行った時の姿と変わっておったから、街中で水晶に触ってもらうわけにも行かず影も本物のアリナーデか確認するのに時間がかかってしまったようだ。
おかげで宰相にアリナーデが小さくなって帰ってくるのを伝え忘れてなぁあやつにも悪いことをしたわ、おっふぉふぉふぉ』
豪快に笑う時ですら上品さを損なわない国王は実に愉快そうであった。
出て行った王女が消えたのも確認していたのだろう、その後幼くなったアデリーナが街に突然現れ、やったー見つかった!と単純な話にはならなかった。
それも仕方がない。見知らぬ女の魔力に全身覆われた状態で見つかってしまったのだ。怪しんでくれと言っているも同然だった。
不確かな情報ゆえに伝達規制がかかっていたのだろう。あの慌てようからすると宰相にさえ知らされずにアリーナの姿は王族と影のみの内聞だったのかもしれない。
実際2人が城まで散歩している間、城内は情報が錯綜し右往左往の大騒ぎをしていたが、城の外の人間が知る術はない。
ルーズは王女捜索中の計り知れない城内の様子を想像し口を噤むことにしたのだった。




