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 ルーズは言われた言葉を飲み込めず、酷使し続けた頭をさらに動かした。


『あーと、えーーとですね、私がアリナーデ様を助けた、というは?ちょっと記憶にないのですが…』


 今朝からの最悪な記憶を掘り起こしながら遡るが、最悪な記憶しか詰まってはいなかった。

 どうにか、記憶の辿り着いた先に答えを見出す。


『あーもしかして、私がニンジャみたいに走ったから風が起きて川まで運んだ…とかですか?』


 もうそれくらいしかない。ルーズは泣きながら街中を走った。あれでアリーナを運び川まで連れていくことができたのだとしたら、人に邪魔そうにされながらも走った甲斐があるというものだ。


 アリナーデは、ルーズの質問には答えず貴族の笑顔を作り何を考えているのか感情すら読めない表情で紅茶を飲んだ。


 貴族のことはあまり知らないルーズだが、アリナーデが伝えたいことが分かった。


"そんなわけないだろう"


すごい。なぜか伝わる。貴族すごい…

…いや、王族だった



『あの時、川に魔法をかけていたでしょう?』


 ルーズの質問はなかったことになったようだ。なるほど。

 だが、言われた言葉にルーズは身に覚えはなく眉間に皺を寄せて視線を天井に移した。あ、天井にも花の絵が描かれていて綺麗だ。


あの時。

ルーズは川に涙を垂れ流していただけで、魔法を使った記憶がない。


 泣きながら走りついた橋の上、早く帰りたくて、そこから見えたゆったり流れる川、びしょびしょに汚した橋の欄干、人の往来の音、キラキラ反射した水面…


あ。


思い出した。

川に暗闇を吹きかけた。


キラキラした川が綺麗で、少しだけ悲しくて。

暗闇で隠してしまいたかった…


『あれは、魔法を使ったと言うほどではなかったと思うのですが…』


 眉間に皺を寄せたままに天井から視線を戻すと、ルーズが思い出したことに気づいたらしいアリナーデは、優しく微笑んでいた。


『あれは立派な魔法だったわ。貴女の魔法が本来どう使うかは知らないけれど、貴女が吹きかけた先にいた私を包んで形を作ってくれたの』


 おかげで消滅せずにすんだ、と真剣な目で語るアリナーデ。

 アリーナの時は上品なワンピースだったが、今は王女に相応しいドレス姿だ。華奢な首に似合う控えめに輝くパールネックレス、膨らんだパフスリーブから伸びる細長い手には白く輝くレースのショートグローブ。


 王女たる姿のアリナーデはシャラっと軽やかな音をさせて立ち上がるとルーズの横に移動した。


『ルーズ、貴女にその気がなかったのだとしても、貴女が使った魔法で私の魂は助かったのです。

本当にありがとう。この恩は一生忘れません』


 ドレスの裾を取り足を引き、頭を下げるアリナーデ。その様子を、ぽかんと口を開けて見下ろすルーズ。

 王女は、いつまで経っても顔を上げる気配がない。


 くるんとした後毛が肩から滑り落ち、前に垂れ下がったのが見えた。細長い腕が伸び、ドレスの裾を広げ、裾に縫い付けられたビジューが、たっぷりの日差しを浴び七色に揺らめき輝くのを眺めてから、はっと正気に戻ったルーズは慌ててソファーから立ち上がり叫んだ。


『あ、アリナーデ様!お顔をお顔をどうか!』


 半泣きである。

 上げてください、とは言えない。王族が自分の意思で下げた頭を上げさせることは、ルーズがアデリーナの顔を上げることを許可した形になってしまう。許しができるのは身分が上の者がすることだ。

 ルーズには願い乞うことしか出来ない。無力である。



 王族は国で一番尊い身分ゆえ頭を下げる相手が居ない。傲慢にも思えるが、王族にそれだけの身分を国民全てが認めている。有事の際に差し出される首に納得できる価値を。

 それまでは国で一番価値あるべきとされる。それが我が国の王族。



 ルーズが本格的に泣き出すぎりぎり一歩手前で、アリナーデはようやく顔を上げた。

 その顔は晴れやかで、王女がこの部屋で望んでいたことをやり遂げたのだと察せた。


 どこの誰ともしれぬ平民と王女アリナーデを2人きりで残し、お茶を入れたらそそくさと部屋から退出したメイドや本来ならいるはずの護衛が部屋の外にいることの不自然さに、ルーズはこの時初めて認識した。


 自分の首の価値を知っていてなお、ルーズに最大限の感謝を表した王女。

 本当にあの時死にかけていたのだと、それをルーズが救ったことが真である、と理解させられた。



 足先から力が抜けるようにソファーに沈みこむ。


もし、あの場に私が居なければ、

私が魔法を使わなければ、

王女が死んでいた…?


 その事実に手が冷たくなっていく感覚がする。

 対面のソファーに座り直したアリナーデは困った顔だ。


『怖がらせるつもりではなかったのだけれど…

私は貴方のお陰で助かった。それで良いのよ』


 良くはない。決して良くないが、ルーズが言えるのは一言だ。


『……もう、危ないことはしないでくださいね…』


 アリナーデは、アリーナのように笑って『ええ、約束するわ』と答えてくれた。



 その返事を聞いて少し心が軽くなる。胸につかえたモノと一緒に息を大きく吐き出しスッキリしたが、ただそこで疑問が湧く。


 暗くするだけの私の魔法がなぜ…?

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