154.5
アリナーデ散歩中の城での話
読み飛ばしても問題ありません
『おい!どういうことだ。お前たち、アリナーデは夜の散歩に行ったと報告しただろう?!』
ルディアシスは、きょとんとした様子の2人の影たちに怒鳴りつけた。
アリナーデが部屋から消えた後に確かに『アリナーデ様が夜の散歩に行っちゃいましたー』と軽いノリで報告していたのだ。それが蓋を開ければアリナーデは魂だけの夜の散歩ではなくただの家出だった。
『ベッドに寝ているのが器の方だとお前は知っていたな!?ならば夜の散歩ではないだろうが!』
キレ散らかす殿下に影たちはしくしくと泣き真似を始める。顔が見えない分、大袈裟な仕草で感情を表現してくるため鬱陶しいことこの上なかった。
『えーだってぇーぐすん。アリナーデさまがあ。ぐすんぐすん』
『そうっすよ。えーんえーん。アリナーデ様が自分でこれから"夜の散歩に行ってくるわ"って言ってたっすーえーん』
アリナーデが夜の散歩に行くと言ったから影はそれを報告しただけ。自分達は悪くない。
ルディアシスがいつもの散歩か聞かなかったせいだ。それからベッド上の器を見てすぐに気付かなかった方が悪いとも思っている。
『くそ!…それで、今はルーズがアリナーデのそばにいるんだな?影はひとりついているか?』
『そうでーす。ルーズさんが来たので私は帰ってきましたー』
『もう一人が残って楽しんで、じゃなかった。見守ってるっす!』
ルディアシスは頭が痛くなってきた。味方なのにあんまり味方のような気がしない影たち。言ったことはそのまま遂行し聞かなければ答えない。
彼らの扱い方を分かっているのはアリナーデの方が上だったようだ。悔しいが。
『分かった。もういい。引き続きモッちゃんたちの動きを見張ってくれ。
…それと。足の具合はどうだ?』
『わっかりましたー。えー足ですか?問題ないでーす』
『お前じゃない。そっちだ。以前より足が動かしにくいのではないか?』
『…そっすね、以前よりは』
『そうか。では引き続き頼んだ。何かあれば知らせろ』
二人の影は元気よく返事をすると瞬時に姿を消した。
『ボルデティオ殿下も向かったと言うし…そのうち帰ってくるだろう』
アリナーデは常にいい子で生きてきた。
たまにはこんなことがあってもいいか…
大きなため息をついてルディアシスはもう一度眠りについた。
外では月の明かりから逃げるように二つの影が動いていた。
『モッちゃーん!あっそびましょー』
『モッモッ』
『モッちゃん2号ー!こっちすよー』
『モー!モッモッモッ!』
夜行性のモッちゃんたちは夜な夜な影たちと遊ぶのが日課だった。
『モーモー』
『今日もふわっふわのもっふもふっすね』
よーしよしと撫でては投げ飛ばし、走らせる。自分で飛べない高さを浮遊するのがお気に入りらしくモッちゃんたちは投げ飛ばされに影たちを追いかけるのだ。
任務中は邪魔なためそれから逃げるために始まった鬼ごっこも定番の遊びとなった。
夜だけの日常のおかげでモッちゃんたちはアリナーデを超スピードで運ぶことが出来る脚力と体力が培わられた。
もし王女家出事件に加担した者たちがいるとすれば、それは紛れもなく影たちだ。誰もその事に気付かず影とモッちゃんたちの遊びは続いていった。
『モ…』
『どうしたー?元気ないー?』
『モー…』
『みんながいなくて寂しいんすかねぇ?』
『『モー…』』
そうなんだーと影たちは白い塊二つを撫でて慰めた。わしゃわしゃと撫でてやると腹を出して転がる塊は少し元気が出て来たようで機嫌良く『『モ!』』と鳴いた。
『きっとみんな帰ってくるっすよ。大丈夫っす!』
2人と2匹は北の空、遠く輝く星たちを眺めた。
待ち人が無事に帰ってくることを祈りながら。