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『アリナーデ様!どこですか!?もう中に入りましたかあああ?』
泣きながら誰かを探す中年の男性と鎧をつけた兵士が2人、門を全開にし外をきょろきょろ見回している。
なに、この人たち。
…危ないことはなさそう、か?
ルーズは城から出てきた人たちの様子から危険はなさそうだと一旦警戒を解いた。ただあの慌てた様子では中に入ることは難しそうに思え、どうしようかアリーナに聞こうと振り向く。
『アリー…『あり、あり、ああ、アリナーデさまああ!?!?!、わ、わ、、えぇえぇ…?!!』
よく見ると立派な仕立ての服を着た先程まで泣いていた中年男性が、ルーズを遮り悲鳴のように叫んだ。
混乱した男性の声に驚き、そちらを見ると目を見開きルーズの後ろ、アリーナを見て固まっていた。一緒にいた兵士も同じ場所を見て固まっている。
年上の貴族男性が取り乱す姿を間近で見せられたルーズも困惑の極みであった。
アリナーデといえばこの国の第二王女である。今年11歳になる大層美しく賢姫と噂される人物だ。
王族は12歳で国民にお披露目を行う。その後に公務が始まるため、今はまだその姿は一部の貴族にしか知られていない。
とはいえ、普通の平民が王族を見る機会なんぞ一生に何度もあるわけではない。さらに田舎にいれば会わずに一生を終えるのも普通だ。
ルーズも生まれてこの方、一度も王族をひと目として見たことはない。
アリナーデ、様??
彼らは第二王女を探しにきたようだ。慌てようから何かがあったことは明白だが、彼らが目をかっぴらき動かなくなった理由がまるで不明であった。
ただ、迷子の貴族を届けにきただけでこれ以上巻き込まれなくないルーズ。
なぜか王女の名前を叫んで動かなくなった目の前の男性と驚愕の顔をした兵士を見つめる。
よく分からない状況ではあるが、門は開いたままのため勝手に入ってもいいのか思案中だ。
『キーラ宰相出迎えありがとう。只今戻りましたわ。
中に入ってもよろしくて?』
ルーズの後方から可愛らしいアリーナの声が聞こえる。
『それから、こちらはルーズ。私をここまで連れてきてくれたの。
私の恩人で、お客様だからよろしくお願いね』
何故かアリーナは、急に叫んで固まった男性らに特に気にするでもなく声をかけた。
するとアリーナを凝視していた男性がゆっくり視線だけを動かしルーズを横目で見やった。
男性と目が合ったルーズは、今このチグハグした状況を頭の中で整理する、が全くもって理解ができなかった。
恐らく、男性たちも理解できないのだろう。双方動かない。動けない。
この状況でアリーナだけが、ふんわり笑い『さあ行きましょう』とルーズの手を引き動いた。
男性たちの横を通り過ぎようとした時、兵士の1人が遅れて動き出す。
『お、お待ちください!
えっと…念の為、確認させていただきますが、
あなたは、第二王女殿下であらせられる、アリナーデさ、までいらっしゃい、ます…か?』
5歳くらいに見えるアリーナに兵士は、11年前に生まれた王女アリナーデかと尋ねた。
何を言っている。
どういう意味だ、とルーズが答えようとしたがアリーナが先に答えた。
『ええ、そうよ。
何故か今はこんな姿になってしまったけれど、本物よ?ちゃんと水晶で知らせたでしょう』
『あ、いや、もちろん。水晶にはアリナーデ様のご帰還を知らせる光が出ましたので、分かったのですけど。
さすがに…確認せざるをえなく、申し訳ございません』
『まぁしょうがないわ。
急にこの姿で現れたら…大丈夫、気にしないで頂戴』
ありがとうございます!お帰りなさいませ、ありなーでさま!とアリーナに敬礼する兵士2人をルーズはただただ見ていた。
小さな悪戯が成功したような得意顔のアリーナはとても可愛らしかった、がどういうことだ。目の前のやりとりに頭が頭痛で軽く吐き気がし始めた。
全てを理解しかけたところで、全てに気付いてしまったら後には戻れないことに気付き、発熱しそうな頭と恐怖で冷えた体の温度差にくらくらする。
アリーナ様が、ありなーでさま。
ありなーで様
アリナーデ、様。
違った意味で涙が出そうである。いや、まだまだ分からない。一縷の望みをルーズは掛ける。
『アリナーデ様、とりあえずは分かりました。
ではそちらのルーズ様も、中にお願いします』
先ほどアリーナからキーラ宰相と呼ばれた男性は、落ち着きを取り戻したらしい。
さっき泣いてたやつはどこ行ったのかと戸惑うほど知的そうな顔つきでアリーナとルーズを城へと招き入れてくれた。
アリーナのことを誰もアリーナと呼ばない事実を見ないふりをして、招かれるままに足を動かす。
今日一日情報量の多い出来事続きでルーズは、実はまだ自宅で寝ていて全部が夢ではないのか、と半ば本気で思い始めた。
夢なら今ここで終わらせて欲しいと切に願った。




