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147.5

アダンテの娘の話


おまけの話です

『私は!!私は父の罪を知っていました!だから、お願いです。どうか、どうか私も…んっ!?んーーんーー!!』


 同じところへ行かせて欲しい。言いたかった言葉は遮られ、口を塞がれた。



『お前は!何も知らなかっただろう!?こんな屋敷の奥に閉じ込められ、友人もほぼおらずただ1人で!』


『んー!!』

 聞き捨てならない。確かに体が弱く部屋にいる時間は長かったが友人くらいはいた!なんてことを言うのだこの王女は。


『分かっている、シャール。古い本を読むのが好きだからな。気の合う友など作れなかったものな』

 サフィールは可哀想な目でシャールを見つめた。


 シャールと呼ばれた彼女はアダンテ公爵家の一人娘シャール・アダンテ。

 体が弱く、魔力も弱い。病弱故に学校に通うこともできず、父親のアダンテが人を家に招くことを嫌い家庭教師を呼ぶこともできず高位貴族だというのに勉強はあまりできない。

 そんな訳で確かにシャールはサフィールの言う通りあまり友人と呼べるような人が周りにはいなかった。認めたくはないが。


 シャールの唯一の趣味は読書だった。時間だけはあったためアダンテ公爵家が所有していた膨大な本を読むうちにハマってしまった。

 絵本から始まり恐ろしい速さでどんどん本を読み、あっという間に全ての本を読み切った。すると父親が持っていた古代の本や外国の本を読ませてくれるようになった。

 どうせ理解できないと思われていたのかもしれないし文字なら何でもいいと思ったのかもしれない。何故か分からないが貴重な文献すらもアダンテはシャールに渡したのだった。

 その結果、シャールは今使われていない言語や知らない言葉を読み解く事ができるようになっていた。

 話し相手は本たちと言っても過言ではないだろう。

『……』

 返す言葉があるはずなのに口から出すべき言葉が見つからない。よく知っている言語なのに上手く使えないとは悲しい事である。


 シャールは王女がほんっきでシャールを哀れみ、悪気なく可哀想だと思っていることを知っている。

 抵抗することをやめたが、むかついたので睨みつけるが王女は可哀想な目を辞めない。思わず半目になる。


『シャール。私はそんなお前を死なせたくない。お前に罪はない』


 なんて残酷なのだろう。

 私は知っている。父が何をしていたのかを。


 それでも、優しかった父をいまだ愛していることは罪ではないと言えるのだろうか。


 私が知っているのは、母が死に泣いてばかりの私に寄り添ってくれた父。

 学校にも行けない何もできない私にそのままでいいと言ってくれた父。


 いつも優しく微笑む父。


 家に閉じこもっていても辛くなかったのはそんな父がいたからだ。


 だけど父が犯した罪を知っても"嘘だ"とは思わなかった。


 この家の蔵書全てを読んだ私は、父がしたことを知り納得してしまったのだ。


 そして、そのやり方しか思いつかなかった父が可哀想だと思ってしまった。


 償いきれない罪を背負った父を神は許さなかった。

 神すら許さぬ父を許す私に罪がないわけがない。


 私は私の罪を知っている。


 王女が父の元へ行かせてくれないのならどうか…


『神の意志を受け入れさせてください』


 サフィールに願う。彼女ならそれができると知っているから。王女の顔が僅かに歪んだのが見えて気分が良かった。

 他人の苦痛な顔が嬉しいなんてそんな性格の悪い自分に友人などできるはずがないなと気付いた。だからなんだという話だけど全て仕方なかったのだと最期に分かって気持ちが晴々しい。


『……分かった。シャール。


"神 の 意 思 を 受 け よ"』


 やっと解放される嬉しさにシャールは笑った。


『ありがとう。サフィ』


 お腹の奥が熱い。燃えるような熱さに息苦しさが襲う。やっと、やっとだ。

 

 手足に熱が広がり、全身が燃えるように熱い。炎に灼かれるのが神の意思なのだと理解し悲鳴の一つもあげないように堪えた。

 熱さに慣れ始め更なる苦しみを待っていると、熱は心地よさに変わっていった。体がぽかぽかとあたたかい。


『……え?』


 戸惑っているうちに熱は引き、体が落ち着いた。ぐーぱーと手を閉じて開ける。異変はない、どころかこれは…

『体が…軽い?』


『よし、神の意思を受け取ったようだな。では私は帰る』


 ちょっと待って、と立ち上がると勢いがつきすぎて体がよろけた。

 あ、と思ったが床に倒れず立ったまま。いつもならふらつくと体が重く転んでしまうのに。


 なんだ、これ?


『それが神の意思なのだろう。じゃあまたな、シャル』


 サフィールたちは呆然と立ちすくむシャールを一人残し部屋から出ていった。



 その後、病弱だったシャールは嘘のように健康になり遠い遠い国へ嫁いで行った。





『サフィールさまー寂しいですねー』

『たった一人のお友達でしたのに』

『元気出してくださいね』


『うるさい。一人ではない。もう少しいる!

それに…生きていればそれでいい』


 サフィールは王家の魔法を強く受け継いだ。昔魔力制御が苦手だった彼女は意図せずに魔法を使ってしまい問題を多々起こした。

 元より剣術を好み騎士に憧れた彼女はあまり多くは語らない子どもだったが、魔法の影響で益々話すことが苦手になっていった。


 人と話すより本を読むのが好きなシャールと話し下手なサフィール。二人がおしゃべりに花を咲かせることはなかったが同じ空間で互いに好き勝手過ごす時間が心地よかった。


『そうですねー』

『いつかまた会いに行きましょうね』

『その時はお供いたします』


『ああ、その時はよろしくな』


 剣を振りながらサフィールは近くで揺れる三つの影に笑いかけた。




おまけのおまけ


サフィールの剣の練習は影が三方向から石を投げてくるのを避けながら行われる。


王女の型にはまらない剣の秘訣。

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