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 少し立ち止まり、頬に手を添えて下を向くアリーナ。これは彼女が考え事をする時の定番のポーズらしかった。

 じっと地面でもないどこかを見つめ、トントンと頬を数回叩き浅く息を吐き出す。


 彼女の周りは時間が止まったように空気の流れが消え、雑踏の中から1人別の場所にいってしまったみたいに見えた。ルーズは目の前にいるアリーナがひどく遠く感じた。




 やがて顔を上げると『ルーズありがとう』とお礼を言った。その顔は憂いが消えたような清々しさが表れていた。


 何かが解決したらしい。


『これから私がしなければならないことが分かったわ。きっと変えてみせる』


 遠くを強く見つめたアリーナ。その頬を穏やかな風が撫でる。

 ただの独り言のようでもあり、まるでルーズを証人にした誓いの言葉のようでもあった。



 何がどうしてお礼を言われたのかルーズにはさっぱりだったが、彼女の中でいい方に変化が起きたのなら良かったと深く考えることはせず受け入れた。

 頑張っている子は可愛いなえらいえらい、と妹たちにしてきたようにアリーナの頭を撫でた。


 急に頭に温かな重みを感じたアリーナは、何をされたのか理解するのに時間がかかった。


『家族以外に頭を撫でられたの…初めてだわ』



 目を丸くして言うアリーナに、ルーズは青ざめた。無意識のうちに妹のように扱ってしまっていたからだ。


『あぁすみません!つい妹にするようにしてしまいました』


 平民が貴族の頭を勝手に触れることは大罪である。

 不敬罪まっしぐらが過ぎる行いであったことに気づいた。瞬時に両手を上げ他意はないことを示す。



『いえ、嫌だったのではないの。

ごめんなさいね、勘違いさせて。

驚いたけれど、嬉しかったのよ』


 最近は勉強が本格的になり、みんながアリーナに早く大人になれ、と急かすのだと。

 誰も子供扱いをしなくなったのだという。

 軽んじて欲しいわけではない、子供だからと出来ないことを受け入れて欲しいわけでもない、ただたまには子供にするように褒めて欲しかった、と少し苦い笑顔でそう話す。


 大人びたアリーナも可愛らしかったが、眉毛が下がりしょんぼり顔のアリーナはさらに可愛かった。

 貴族は教育が早いというが、まだまだ甘えたい年頃で当たり前だ。こんな小さな子にそこまでの教育をしているとは。


ほんっっとうにお貴族様大変すぎる…


 田舎は一歩間違えれば死んでしまうので厳しく育てるが、子どもは宝だ。

 基本は甘やかしてなんぼである。村中総出で叱り、良いことをすればみんなで褒める。そういうものだった。

 こんなに可愛く賢いアリーナを褒めない甘やかさない環境にルーズは悲しんだし、不敬罪ついでに親に会ったら文句をつけてやる、と意気込んだ。


 それに、城に着くまでアリーナを褒めまくろう!と決めた。


 無理やり良いところを探さなくても、目の前の可愛らしい子供は褒めるところだらけである。

 ちょっと強引で我儘なところもありそうだが、本物の我儘はこんなものではない。

 アリーナは可愛い。間違いない。


 とりあえず、ずっと思っていたことを口に出すことにした。


『アリーナ様はえらいですね。

その年でちゃんと貴族として立派に考えていて』


 えらいえらいと頭を撫でると、アリーナはぽかんとした顔をした後に頬を赤く染めると下を向いてしまった。

 さすがにまずかったか、と焦ったが、



『ありがとう。その、


こんなに嬉しいとは自分でも思わなかったわ』


 恥ずかしそうにアリーナは笑った。


 アリーナ様可愛すぎる…天使っ!と悶絶する羽目になった。

 そのためアリーナが『あ、でも私貴族ではないけど…』と言った言葉は耳には入らなかった。


 その様子にアリーナは気がついたが、楽しそうなのでまぁいいかとそれ以上言うことをやめた代わりに、



『また来ましょうね。約束よ』


 アリーナが言ったからには約束は絶対だ。ルーズが了承してなくとも、聞いてなくとも。


 悪戯っ子のように笑いながら、ルーズの手を引き先を急かす。


『あ、アリーナ様待ってください〜』


 お城まではもう少し。



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