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 ありったけの力を込めた。絶対に逃さないように、師匠が勝てるように、持てる力全てを出し切って作り出した暗闇。

 ぽっかり空いた地面にとても大きいが小さいとも呼べる夜空が浮かび上がった。月明かりを浴び一段と輝く綺麗な暗闇の美しさに人々は言葉を無くす。


『できた…』

 ルーズは安心し、瞼が自然と落ちていき抗うことはせず自然に任せ深く眠ることにした。薄れゆく意識の中、地面にぶつかるなぁ…と思ったが体に力が入らずしょうがないかと考えることを止めた。




『…っと!まじで!なにうれしそーに落ちてんすか…』

 護衛に戻ってきていた影は落下位置でルーズを捉えた。群衆から離れた上空で魔法を使用したおかげで、落ちてくルーズに注目していた人間は影以外誰もいなかった。

 結構な高さから、まさか無策で落ちてくるとは思わず、何の準備もなかったためダイレクトキャッチした。両手が痛い。先ほども落ちたと聞いたが、学習して欲しい。

 

 はぁ護衛対象の前に姿を出すなんて影失格だと落ち込みながら木陰にルーズを運ぶ。

 嬉しそうな顔で寝ている彼女を見ていると、気分の悪くないため息が出た。


 あーみんなに馬鹿にされてもいっすかね…


 早く起きられるように、回復薬をそっと彼女の口に含ませた。





『これは魔法なのか?』


 天災が夜に飲み込まれる瞬間に耳をつんざくような咆哮をあげたが、闇が完全に閉じた時、何も聞こえなくなった。

 初めて見る魔法に王は目を奪われる。触ってみたいが、吸い込まれそうな暗闇に近づくのは躊躇われた。



 突然現れた綺麗な夜空は音もなく、揺らぐこともなくただ、満点の星空のように輝いていた。この中に天災がいるとは目の前で閉じ込められる瞬間を見ていなければ到底信じられなかっただろう。


『中はどうなっているのか…』

 サフィールは暗闇を見上げる。綺麗だが静けさが怖い。騎士団団長は、王女の言葉に反応せず剣を地面に刺しじっと前を見ていた。

 周辺の魔物をこの作戦のため完全に一掃され、あとは目の前の敵ただ一つ。いつでも首を落とせるようその機会を待っている。




 静寂が夜を包みこんでからどれほどの時間が経ったのか、雲の流れもないこの場所ではそれは5分にも1時間にも感じた。

 

 風もなく、あれほどいた魔物も姿を消した今、世界は本当に動いているのか疑いたくなるほどに時間の感覚があやふやだ。

 次第に緊張が思考を歪ませ、ここは現実なのかすら実感が消えかける。曖昧になっていく心に足元の感覚が失われ始めた。



『構え!!』



 突然だった。

 予兆なく響いた王の号令に地面が硬く固まった。



 誰も理解はしていない。ただ威圧のある声に一斉に目の前にある夜空の檻に向かって剣を向けた。



 刹那、暗闇が音を立てて割れ始め生まれたのは、片翼を失った天災だった。


 暗闇はキラキラと月明かりを乱反射させながら飛んでいったが、誰かに届く前に霧にとって空に消えた。

 


 ようやく解放されたと眩しそうに片目を細めながら怒りに身を任せ声を上げる。産声には程遠いこの世を恨む悲痛な叫び。

 爪を振り回す天災からは多くの血が流れていた。中で何があったのかは分からないが、暗闇が割れ一気に溢れ出た重い魔力に顔を顰めた。

 


 痛みからか怒りからか暴れ回る天災は飛ぶことができず、ただ大きく火を吹くトカゲだった。


『やっと、ドラゴンらしくなったな!』

 王は剣を握りながら皮肉げに笑う。最中アシェルを探したが、見つからない。人も天災も身を捨てての乱戦に生死不明の人間を探すのは容易ではなかった。


 多くの剣が、魔法が天災を貫く。

 天災の爪が多くを切り裂く。


 互いの命を消すために、痛さも疲労も忘れ両者は体を動かし続けた。



 


 月の明かりが薄くなり始めた頃、ルーズは目を覚ました。


『…ん、ここは…?』


 周りには誰もおらず、代わりに戦闘用の結界が張られていた。侵入を防ぐ防御の結界は小さくともとても大量の魔力を必要とする。

 それをわざわざルーズのために張ってくれた誰かがいるようだ。誰だろう…

 知らないうちに命を狙われたり、助けられたり不思議なことばかり。


 

 結界を解くと、金切り声が耳を襲った。

 音の方向に振り向けば、ルーズが作り出した暗闇は跡形もなくなり大きなドラゴンが地上で暴れていた。

『暗闇が!!師匠は!?』

 辺りを探ると自分の魔法が上空で漂う気配を感じ、すぐさまそこに向かう。



 暗闇を作ったちょうど真上に、それはあった。両手で抱えるには少し大きな丸い暗闇。そっと触れると、砂が溢れるようにサラサラと消えていき中から傷のないアシェルが出てきた。

 ルーズは慌てて抱き止める。


『師匠…』


 軽く声をかけると、アシェルの体がふわりと浮いた。


『すまない。一撃を食らいそうになって…どうやらルーズの魔法に助けられたようだ。ありがとう。


いけるか?』

 ルーズは頷き、急ぎデュオの元に向かった。



『あー良かったー!2人とも大丈夫ー??あとちょっとな気がするんだよねー、一気にいっとくー?』


 デュオは言葉とは裏腹に傷だらけだった。空を飛べなくなった天災は至近距離から炎を撒き散らし暴れた。それを前線で防ぎ続けた。



『じゃあいこー』


 大事に取っておいたデュオのためだけに作られた回復薬を飲み干す。アシェルはその様子を見てぎょっとした。

 基本的に怪我をしてい場合に回復薬を飲むと体内に痛みが走る。普通の人間ではその痛みでまた気絶するほどだ。なのに、デュオは笑っていた。心底嬉しいと誰もが分かるほどに。

 色々考えるが、そういうこともあるだろうと見なかったことにする。




『ああ、地獄を終わらせよう』



 その時天災は空にアシェルを見つけた。首を上げ唸り声を漏らす。憎そうに、恨めしそうに。




 地上から睨みつけている天災を空高くにいる魔法士2人は見下ろした。


 

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