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『ねぇ、それはなにかしら』

『あちらは…』

『まぁ、ブロッコリーって…元はそんな形なの…』

『ルーズあれなに!?』

『これどうやって使うの??』


 知的な笑顔がだんだんと不透明になっていったかと思ったら始まった、なになに攻撃。

 貴族といえどやっぱり子供は子供だな…とルーズは安心し、田舎の妹を思い出し懐かしんだ。


 田舎では妹や近所の子供のお守りをしたこともある。

 妹たちは簡単な説明で躱わせたなになに攻撃だったが、アリーナ様はすでに勉強をしていて知識がある。


 妹たちとは違い、ちゃんとした説明を要求した攻撃力高めのなになにだった。


 初めて見るものに知識欲の高そうなアリー様なら楽しくてしょうがないだろうなぁ。


 分かるものについては出来るだけアリーナが分かるように説明した。


『ねぇ、これはなんでこんな形をしているのかしら?』


 次にアリーナが興味を示したのは、金物屋の店先に飾られた包丁だった。



 この辺は飲食店も多いため家庭では使われないような包丁が並んでいた。中でもアリーナが指差したのは確かに不思議な形で、ルーズも特に料理に詳しいわけでもなかったため初めて見たものだった。


『んー何ですかねぇ。見たことないので分からないです。』


 なんですかねぇ、と2人で話ていると店の奥から店員が笑いながら出てきた。


『珍しいものに興味を持ったね、知らないのも無理はないよ。これはドラゴンの鱗取りに使う包丁だ』



 珍味のドラゴンを捌く時に必要な一本で、先週研ぎの依頼があって、終わったため店先に並べてるそうだ。

 アリーナは『まぁ…!』と一言可愛らしく驚きの声を上げた。


 店主の話を聞いて、ルーズはお礼を言うと店員は『好きなだけ見ていきな』と言い残し、また店の奥に戻って行った。


 思いもしなかった使い道の包丁に2人で目を輝かせてどうやって鱗を取るのか想像してしばし楽しんだ。




 世の中知らないことがたくさんあるのね、アリーナがそうぽつりとこぼしたのは、金物屋から少し歩いた時だった。




『家庭教師の夫人は、分からないことは恥ずかしいことです。だから分からなくても、分からないと言ってはいけません、と教わったの。

分からないものでも分かったフリをするのですって…私も私の周りもそれが当たり前で。


でも、ルーズは私が何度質問しても態度を変えなかったでしょう。それに自分が知らない時は分からないって正直に言ってくれたのが嬉しかったの。


なんでも答えられることは素晴らしいけど、信頼できるって…いいわね』


 そう言って子供のように笑ったお子様のアリーナ。


 貴族が無知だと思われるとなにか大きく支障があるのだろう。だが分からないことを分かるように振る舞うのは、命取りだと思う。


 平民だと、というか田舎だと食べられるキノコの見分けがつかなければ死ぬ。

 薬草と毒草の違いが分からなければ死ぬ。

 天候を読めなければ死ぬ。


 死にたくなければ、分からなければ、聞けばいい。

教えて貰えばいい。

 知ったフリして食べて行動して死ぬよりマシだ。


 だからルーズは、無知はさっさと言うに限る。そう考えている。

 知らないことを周囲が知っていれば間違えそうになった時に周りに止めてもらえるからだ。


 田舎では無知は恥じるべきものではない学ぶ前の段階にいる。ただそれだけ。




 ルーズがギルドの一部から見下されていたのは貴族によるこの無知は恥じであるという考えのせいでもあった。

 優秀なはずの新人があれもこれも分からない、と言うのだ。優秀といえど田舎では、の限定的なものと思われた。そんな調子に乗った田舎者が上級魔法士に付き纏ったとなり、扱いはより酷いものとなった。


 知らないことをちゃんと申告したおかげで失敗もなかったが、そこを評価する人間がルーズの近い周りにいなかったのは運が悪かった。




 そんなギルドでの貴族的な考えなんぞ知らぬ存ぜぬルーズは、貴族が偉いのはこういうところなんだろうな、と素直にアリーナを尊敬した。


 貴族は生まれた時から責任を負う。

 貴族だから偉いのではない、課せられた責を負う存在だから貴族は偉いのだ。


 生涯の勉強量は平民を遥かに凌ぐ。それが当たり前で、無知でいれば貴族の意味がない。


 本来なら平民のルーズには当てはまらない価値観のはずが、上部だけ無知は恥の意を掠め取った連中が馬鹿にするために使った方便だ。



 分からないと言ってしまうのは、時として致命的になってしまう場面もあるだろう。

 ただ、いつも完璧でいる必要があるのかといえば、ないはずだとルーズは思った。


『んー、必要な時だけ分かったフリでいいんじゃないですかね。何でもフリをしてたら嘘を重ねますし、何より知る機会を逃すかもしれないのは勿体無いですから』


 知る機会?と不思議そうなアリーナに、ルーズはさらに説明する。


『詳しく知っている人に聞くチャンスがなくなるってことです。さっきの包丁も私たち2人で分かったフリしてたら、お店の人に答えを聞くことができなかったじゃないですか』



 アリーナは先ほどまでの子どもらしさを消し、真剣な顔つきでルーズを見上げて話を聞いていた。



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