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 ルーズは、魔力をなくし地上に落ちた。

『いたたたた…』

 運良く倒された魔物の上に落ちたおかげで大きな怪我もせずにすんだらしい。

『ふわふわの毛の魔物が下にいて、良かった…』

 これが硬い皮膚の魔物だったり棘があるようであれば、今頃悲惨だった。自分の運の良さにルーズは感謝し、これからどうするか、と辺りを見回した。


『お前何やってんだ!!』


 突然誰かに怒鳴られ頭を押さえつけられ地面に伏せられる。


 えーこの感じなんか知ってる…


 おでこが地面につきそうなほど押さえつけられ、体が痛い。何するんだ!怒ろうと押さえつけた人間を見るとそこにいたのは、かつての職場、ギルドの先輩だった。


 思い出すのは辞めさせられたあの日の光景。あの時もこの人に頭を押さえつけられた。

 あの時の先輩は楽しそうに顔を歪ませていたが、今彼は苦痛に顔を歪ませ、その背中には剣が刺さっている。


『お前、戦場に落ちるんならさぁ…もう、ちょい警戒し…ろ』

『待って先輩!なんで!?なんでなんでですか』

 返事はなかったが浅く息はあった。ルーズは自分が持っていた回復薬を口に無理やり突っ込み剣を抜いた。自分ももう一本の回復薬を飲み干すと先輩を背負い素早く離脱する。

 少し離れた場所まで飛んで先輩の回復を待った。



 先輩は剣に刺された…

 

 魔物じゃない。人間にやられた。恐らくルーズを庇って。怖い…

 ルディアシスの言葉を思い出す。"味方か分からない"こんな状況なのかと知りたくなかったなとルーズは息を吐き出す。


 なんで私が狙われるのか…


 全く理由が分からない。


『うっわ、痛い痛い痛い!何これちょー痛い!え?つか俺生きてる!?え??』

『あ、起きました?さっき回復薬飲ませました』

 のたうち回りながら、馬鹿にしたようなため息が聞こえた。なんだその器用さは?いらっとした。


『あのなぁ…お前が持ってる回復薬は特別製なんだよ。一般人の俺に使うな。勿体無い…』

 でも、ありがとな、と小さくお礼を言われた。ちょっとびっくりだ。

『いえ、助けていただいたのは私の方なんで…こちらこそありがとうございます。

なんか先輩雰囲気変わりました?』


 なんとなく丸くなったような雰囲気がする。


『…まぁ色々。色々とあってな…』

 多方面からあり得ない程の非難を受け、魔法士団の修行を無理やりやらされ、罵倒の日々とルーズがいかに優秀かを聞かされたりした。

 そこそこ優秀だった貴族の坊ちゃんがやっと社会を知ったのだ。そこで不貞腐れずに反省した。

 そして最後のチャンスとここに送られている。ここで何も出来なければば家名を捨てることになっている。


 だが彼は色々な日々の中で平民になることも特に抵抗は無くなっていた。ただ最後に貴族として役目があるなら、と覚悟を持って戦いに来ていたが言う必要もないので黙っておく。


『それより、お前…っと、ルーズ様、本当に気をつけてくださいね。さっきの相手は殺気もなくて…それが逆に怖かった…』

『なんか先輩に様付けされるの嫌なんで、ルーズで良いですよ。命助けられましたし。

てか全然気付きませんでした…私なんかしたかなぁ』


 呼び捨ては、俺の命に関わると断固拒否された。格上の貴族からの命令は絶対ではないのか?解せぬ。


 相手は見知らぬ人間でギルドの人でも中央の貴族でもないらしい。

『とりあえず、気をつけます』


 じゃあ、行きますよともう一度先輩をおんぶしようとすると、歩く!と抵抗された。先輩は歩くの遅いから無理だと言うとむくれた態度だったため我公爵令嬢ぞと伝えると黙ってくれた。理解が早くて助かる。



 上空からテントまで近づき、ルディアシスを探すが見つからない。


『今どこ向かってます?』

『ルディアシス殿下を探してます』

 いないのだろうか、どうしたものか。


 え、めっちゃ怖…むりむりと聞こえたが無視しておく。この場で信用できるのは、師匠や魔法騎士団たちだが、巻き込む可能性を考えれば容易に近づけない。


 本当に殿下たち大変なんだな…


『先輩すみません。巻き込んじゃって…』

『いや、義務みたいなもんだしなぁ…』

 守るべき相手を守っただけだ。それに巻き込まれたのはルーズの方だろう。来なくていい戦場で、命を狙われている。


『お前、大変なんだな…』

 ただの村人が何故こんなことになっているのか、と同情したがこいつの師は隣国の筆頭魔法士だと思い出した。


 決まっていたんだな…こうなることが


 ルーズの後頭部を見ながら、運命ってあるのかなぁとしみじみ考える。自分の身も、どこかに流れ着くだろうと諦めではない悟りを、ちょっと開いた。



『あ、いたいた!』


 静かにルディアシスに近づくと『ルーズ!!良かった…生きた心地がしなかった…良かったぁああ』とその場に倒れ込んでいた。


 殿下のテントで何があったか説明すると、難しい顔で『こんな時に…くそっ』と吐き捨てていた。


『はぁ…分かった。ルーズには護衛をつけるが気をつけてくれ。

あとお前、名はなんという?よくやった。もとギルドのものだったな。色々あったが、感謝する。生き延びれば王族から褒美を出す。だから 死 ぬ な』

 椅子に座らず地面に膝をついたままだった先輩は深々と頭を下げた。その姿はぼろぼろの見た目だが動きに品があった。


『先輩って、やっぱ貴族だったんですね…』

『当たり前だろう!』

 うっかり王族の前でルーズに敬語を忘れた。先輩の顔からみるみると血の気が引き、やっぱここで死ぬかも…と覚悟した。


『お前!キーラとかアシェルの前では絶対に気をつけろよ?俺も巻き込まれるから…やだお前怖っ』

 ルーズが問題にしていないし、命の恩人だろうし見逃すが、あいつらは見逃してはくれないだろう。命大事に行動してほしい。


 喋って良いという許可は出ていないので、黙って何度も頷いた。それから王子の慈悲に深く感謝した。







[こちら、ルディアシスです。ルーズが無事見つかりました。ただ、命を狙われたようです]

『分かりました。ルーズを保護してくださりありがとうございます』

 キーラは娘の無事に安堵し激怒した。なぜこんな時に!?漏れ出る魔力が周囲を重くする。

 



【キーラ落ち着け。天災を倒しそちらも早く片付けよう】


 この戦いが終われば見えてくるものがあるだろうと王は確信している。

 王の交代。その時代の変わり目に全て動くだろう。自分の手で捕まえられないのが残念だが、彼らに任せよう。


 王の像は動かず、じっと部屋を見守る。




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