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 ルディアシスたちは戦場から少し離れた崖の上にやってきた。


『ここなら、奴の動きがよく見えるだろ』


 鬱蒼と茂った草には虫ひとつおらず、周囲の木は黒くなっていた。


『近づけば近づくほど不気味ですね』

 影たちは暗いところにいるがここはいつもと違って体がゾワゾワとする。魔力が肌に触れているのが分かり不快感がすごい。

 この距離でこれでは、あの場所にいるものたちはどれほど辛いのか…あそこには団員だけでなく魔力があるだけの貴族も言葉は悪いが放り込まれている。


『そのための王の魔法だからな…』

 魔法が効いているものたちにはこのゾワゾワ感がないらしい。貴族羨ましいな。


『え、でもじゃあルーズさんとデュオさんとか効いてなくないです?』

『…そうだな。すごいよ、あの3人は』


 王たちの魔法はなぜか平民には効かない。貴族を纏める王族に相応しい魔法。

 養女のルーズは書類上は貴族だが魔法が効いていない。それからサフィールにも効かない。同じ魔法を持っているものには魔法が通じない。



 サフィールの安否の知らせがない。今彼女は無事なのだろうか。

『サフィール、どうか無事でいてくれ』


『あ、王女は大丈夫です。もしサフィール様に何かあれば付いてる影も一緒に逝きますので。

あいつら無事っぽいんで大丈夫』


 独特な安否確認に複雑な思いがあるが、無事ならいい。というかそう言うのは先に教えて欲しい…と考えてこいつらは言わなきゃ答えない性質のものだったと思い出す。つくづく面倒である。


『天災について何かあれば教えろ』

 第二陣が戦場に加わり、激しい戦いが繰り広げられている。砂煙や魔法の光が散る。

 天災がただ羽を動かすだけで風が生まれ、尻尾を払えば燃え盛る。腕を振り下ろせば大地が割れる。


 ただ見ているだけの自分に、歯を食いしばる。情けなくても自分にできることをやるしかない。


『あ、なんか左足気にしてるっぽい』

『えー?あー!前足?』

『ほんとだーさすが拷問得意なだけある』


『左足?』

 ルディアシスが目を凝らすが何を言っているのか分からなかった。


『左前足らへんに攻撃が来る時だけ、びっみょーに重心ずらしてますね』

 なんか嫌なことがあの辺にありそうだと言う。


 ルディアシスは城に伝え、影はサフィールの影に伝言で伝えた。


『こっから見てないと気づけなかったですね』

『あの大きさだと戦ってる時には絶対気付けない』


 なんだ急に。

 いつも不満ばかりのくせに…


『殿下だから見つけられたってことですよ』


 見つめられた3人の目が優しくて、息を呑んだ。




 本当はサフィールと一緒に剣を持ちあの場に行きたかった。だが、騎士団団長から止められた。


『ルディアシス殿下の剣の腕はとても良いです。

ただしそれは、綺麗すぎる』


 ルールなく戦うには向いていない。手本通りの剣。

 サフィールのように剣を扱い、アリナーデのように知識を持つ第一王子と持て囃された。だがそれは虚像に過ぎない。


 サフィールのように多数の魔物を相手には出来ない、アリナーデのように読んだ本を全て暗記できない。

 ただ、繕うのが上手かった。それだけ。


 何もできないのに、戦場に来てしまった。倒すことはできなくとも救うためにと自分を奮い立たせながら。

 それなのに仲間の黒く爛れた皮膚を見て、何も出来ず逃げ出した。




 こんな自分が王族でいいのかと自問するたびにちらつく3人の影。

 彼らが首を刎ねないかぎりここにいていいのだと安心した。勝手に自分の弱さを彼らに押し付けて、自分は生きてきた。王族であるという自信すら他人任せ。

 時折りそんな自分に嫌になるが、捨てる勇気さえなかった。


 なのに首を刎ねないどころか彼らは、認めてくれている。どうせ自分の弱ささえ見透かしている彼らはそれでも歩むべき道が正しいのだと照らしてくれた。

 影のくせに。


『文句以外が聞けるなんて珍しいな』

『たまには、ですよ』

 影たちはそもそも主人に文句を言う方が珍しいということは言わないでおいた。


 それより、この主人は勘違いが多い。

 一対一ならサフィールに負けない剣があるし、アリナーデよりも狭いかもしれないがより深い知識を持っている。無駄に戦わないし、知識を披露しないため分かりづらいが、概ね評判通りの人間だ。

 ただ全てにおいて一番でなければならないという超絶わがままなだけだと影たちは思っている。


 いつか自分で、もしや俺ってすごいのでは!?と気づく時が来るだろう。その日を楽しみにあまり褒めずに過ごすつもりだ。


 どうせ言っても聞きやしないし。

 俺様なんだよね基本。

 責任感強すぎるんだよね。親に似て。


 影同士独特の会話をしながら戦況と王子を観察した。



『よし、一旦テントに戻るぞ』


『あ、サフィール様の影から伝達が…“ルーズさん行方不明"て来てます…』

 あちゃーと影たち。ルーズの護衛の影は今不在だった。


『なに!?…1人誰かあっちで捜索にあたれ。私たちはテントにて負傷者にいないか確認する』


 ルディアシスと影たちは急ぎその場を後にした。



 テントに戻るとそこには、先ほどより多くの負傷者が運ばれていた。聞けば、アシェルとデュオが盾になったおかげでまだ少なく済んでいると。

『デュオ様たちがいなければ我々は即死でした』

 我々とはあの場の全員を指している。


 ボルデティオもサフィールもまだあの場で戦っていると情報が入った。騎士団団長がサフィールのそばにいるらしい。

『サフィール様の魔力に魔物が近寄ってくるみたいで、自ら囮に…』

 わざわざ護衛かと思ったら違った。王族を平気で使える団長に素直に感心する。使えるものは使う彼らしい。この戦場でも迷わない強さは信頼できる。


『そうか、では安心して任せられるな』


 ルーズを見たものは誰もおらず、以前行方が分からなかった。1人空で行動していたと言う。黒い炎の後大量の水蒸気が発生し、視界を遮られどうなったか分からない、と。


 黒い炎が空に現れ、次に薄い幕が張られた。その後炎は水蒸気になったらしい。頭上一面に張られた幕はなんだったのかと次々と話が出てきた。

『おそらくルーズの魔法だったと思います』

 足を負傷した魔法士団のひとりがそう証言していた。


 黒い炎をひとりで防いだか…魔力がなくなり落ちたのなら…


 どうか無事でいてくれ…!


 

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