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『どの辺で下ろせば良いー?王子は後方でしょー?』

『…ボルデティオ殿下がテントを張ってくれているはずだ。そこまで頼む』


 隣国モダーナリ国のボルデティオ王子は先鋭部隊と共に天災と戦う予定の地にすでに待機している。規模は不明だがそれなりの数がすでに現地にて待ち構えているらしい。


『分かりましたー。んじゃ急ぎまーす。ちゃんと目を瞑っててくださいねー』

『じゃあサフィール様も、そちらのテントに送ります』


 すでに騎馬隊が足元にいた。

 魔馬は普通の馬よりも早く走るが、天災の魔力が邪魔をするのか普段よりもスピードが落ちている気がする。彼らよりも先に現地に着けそうだった。


『この辺から、黒いねー』

 天災の爪痕が次第に見えてくる。変色した木々は不気味で不安を煽るのに十分な後継だった。

 だが騎馬隊は一切の迷いなく真っ直ぐ行くべき道を進んでいく。

 ルーズは、鍛え上げられた彼らの精神力に感心した。



[あーデュオ殿、聞こえるか?キーラだ]


 デュオの方から話し声が聞こえてきた。何を言っているかは聞こえなかったのでルーズが近づくと、襟元に触る様子から通信具で連絡が来たようだった。


『はーい。どうしましたー?』


 飛んでいる場所や、騎馬隊の位置、森の様子などを報告していたがデュオが突然『はっ!?』と驚く声を出した。その勢いのせいか彼から僅かな魔力が漏れ、地味に圧がかかったルーズは体勢を崩した。

 なにごとかと心配していると、襟元を触りながらデュオは真剣な顔つきに変わった。


『ど、どうしたのだ?』

 その様子にサフィールですら気持ち弱腰になってしまっている。

 

『ルーズちゃん。まずは、サフィール様を落とさないようにしっっかり支えて。

そんで王子と王女は、頑張って聞いて』


 3人は唾を飲み込む。


『いくよ?』

 かちっと通信具をいじり、声が皆に届くようにした。


[あー聞こえるか?儂だ。色々あってな…話す時間が出来た。

ルディアシス、サフィール…分かるか?


2人には…辛い役目を、すまなかった。だが、お前たちなら出来ると信じている。生きて、帰ってきなさい。


それから…ルーズ。本当にありがとう。この時間は君のおかげだ。ありがとう。ああ、いくら感謝しても足りないな…絶対に無理をするな。


皆の無事を祈っている]


 それは、壁の奥から聞こえてくるようだった。聞こえづらいはずだが、すんなり頭に入ってくる言葉。

 先ほど出陣式で聞いたばかりの声だった。


『父上…?』

『これは…録音していたものか?』


[お前たちの父だ。

録音ではない。今は説明ができぬが、話せるようになった。まぁ少しの間だがな]


 ルーズはただ王の無事を喜び、サフィールを振り向くと青ざめた顔で『そんなはず、だって…父は…』とつぶやき、理解が出来ないと視線を彷徨わせていた。

 ルディアシスも王の声に難しい顔をしている。


『デュオ、これはどういうこどか分かるか?』

『いやーよく分かんないけどーキーラ宰相も王だって言うからー多分王だと思うよー?』


『え、治療が間に合ったとかでは、ないのですか?』

 ルーズだけがこの状況が分からない。ルーズが最後に見たのは王が歩いて城に戻る姿だった。

 確かに深刻な状況だったのだろうが、話せているなら回復したと考えるのが普通ではないだろうか。



『あーそうか。ルーズから見たらそうだな…

父の作戦がうまく行ったのだと分かって良かった。


だが、今父は"話せるわけがない"んだ』


 ルーズの戸惑いにルディアシスは少し嬉しそうに笑った後、悲しそうに理解してほしいと話した。

 背中のサフィールがルーズの服をキツく握った。


『王様はー寝ちゃったんだよー』

 デュオが、言う。

 ルーズの頭の中は大混乱である。察しろという雰囲気は伝わるのだが…なんせ王は今起きて、会話をしている。


『ちょっっと意味が…分かりかねます…』

 だよねーとデュオが頷く。殿下らも『そう、だよな』とルーズに理解を求めるのは諦めたようだ。


[何やら、すまんな。儂のせいで…まぁ色々あった、と理解をしてくれ。

声だけだが、儂も一緒に戦うという知らせがしたかっただけだ。深く考えるな』


 王はなんだがいつもより明るい声で笑っていた。


『あーー分かりました!全然分かりませんが、分かりました。早く戻るよう頑張ります。


…そうしたら、会えますか?』


 ルディアシスは吹っ切れたように、半ば投げやりに今の状況を飲み込んだ。分からないが、これが父なら全てを終わらせて会いにいけば良い。ただそれだけだ。


[…ああ。

ああ、そうだな。早く帰ってきなさい]


 重みがあるが優しい声。家族を思ういつもの王の声だった。サフィールも『必ず!』と叫ぶと、王が嬉しそうに笑ったのが伝わってきた。



『『それでは、王よ。行ってまいります』』


[己を信じ進め。そして必ずや、撃ち倒せ。お前たちは強きインダスパの子。

行ってこい!儂の愛した子どもたちよ』


 それでは健闘を祈る、そう聞こえた後に通信は切れた。城では出来なかった、2人の殿下のための出陣式が今行われた。




『きっと心配で戻ってきちゃったのかなー?責任感強いからねー立派な王様ー』

 デュオは顔を埋め動かないルディアシスを優しく抱きしめた。サフィールも小さく縮こまったまま動かなかった。


 デュオとルーズは2人を魔力で包みながら、徐々に暗くなっていく空を飛び続ける。


 




『あーここまで来ると、臭いきついねー大丈夫ー?』


 闇に近づくほどに不快な空気が体にまとわりついてきた。吐き気を催すようなこの臭いは、アシェルが天災に与えた一撃で漏れ出た魔力が原因らしい。

 布の魔法具を口に当てると、幾分かはましになったが鼻の奥にこびりついたようで気持ち悪さは残る。


『これは、ひどいですね…あ、あれテントじゃないですか?』



 淀んだ空気の中に見えたのは隣国モダーナリ国の旗たち。薄暗い空の下で大きく風に揺られていた。


『じゃーあそこに行くよー』




 旗に近づくといくつものテントが建てられており、大きな結界に守られていた。天災が通過したのだろう外側の地面が所々抉られているのが見えた。

『誰かいるー?』

 デュオが空から声をかけると兵士が数人出てきた。彼らはデュオに会ったことがあるようで『デュオ様ーお待ちしてましたー』と手を振っていた。


『あーあの人たちはあっちの王子の仲間だからー大丈夫だよー』


 王子と王女はほっとしたよう。

 自国の人間より他国の人間の方が安心できる状況にルーズは複雑な気持ちになった。




『久しぶりー。今どんな感じー?』


 彼らは随分とデュオと親しいらしい。緊張感のない態度を気にせずに状況を説明していた。

 

 状況は予定よりうまくいっているとのことだった。

 隣国は、自国の守りを減らし天災が目覚めるより先に約束の地に移動を開始をしていたらしい。そのため、多くの軍があの地に到着し交戦中とのことだ。


 天災が目覚めた後、想定外にインダスパに向かったことにより出来た時間が奇しくも有利に働いたことになる。


『アシェル様がうまく誘導しながらここに導いてくれたおかげで、多少の怪我人は出ましたがまだ死者は出ておりません』


 通信具が使えないため、戦局は不明だが何かあれば伝令が来ることになっている。今は何も知らせがない

ので問題はないだろう、と。


『分かったーじゃあー僕らも行こー』

 



『デュオ、ルーズありがとう。私たちはここで皆を待つとする』


『また後で』



 ルーズとデュオは、時折光る空に向かって飛び立った。

 


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