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『我が家のルーズですので、伯爵家には関係ないでしょう』

『お前は何を言っている。我が家こそルーズに相応しかっただろうが!儂に言う前に養女にするとは何事だ』


 急に始まった喧嘩にルーズはおろおろし、シヴァンは諦めたように食事をしていた。老婦人は、気にせず『美味しいわねぇ』とルーズに語りかける。


 伯爵が頭を抱えて『やっぱりダメだった…』と沈んでいった。


『シヴァンくん…今どう言う状態?』

 あー…とシヴァンは気まずそうに伯爵に目を向けるが、伯爵は苦笑いしている。


『ルーズ嬢申し訳ない。ご挨拶に不足がありました。私の姉はキーラに嫁いだので私はマイルズさんの義弟と言う立場です』

『ルーズ、私はシヴァンの祖母なの。だから貴女のおばあちゃんね。あっちはおじいちゃんよ』

 ごめんなさいね、内緒にして。と茶目っ気たっぷりに笑う老婦人は『リンスおばあちゃんて呼んでね』とにこにこだった。

 老紳士は今は隠居し前伯爵として悠々自適に暮らすおじいさんとのこと。


 えーと、?シヴァンくんのお母様の実家の方々…


 不意打ちが過ぎるのではないだろうか。ルーズは自分一人他人が混じってしまっている居心地の悪さに心落ち着かない。


『ルーズ大丈夫だ。この人たちは他人だが私たちは家族だ』

 キーラが優しく大丈夫だと言うが、老紳士は威圧を込め睨んでいるので全く安心はできない。


『何を言っておる。お前こそ他人じゃろうて!

ルーズは我が伯爵家と同じ血筋じゃわい』

『そうですよ、マイルズ。貴方だけが他人なのよ?シヴァンもルーズもうちの子なのだから』


 えーーと???


『みんな、義姉上が混乱するから…』

『今日は顔合わせと言っていたでしょう。父上も母上も大人しくしてください』

 シヴァンと伯爵がため息を吐き出し、首を振る仕草がそっくりで血のつながりを感じる。


『えーと…キーラ宰相の奥様のご両親と弟さんということは分かりました。

…それで、えー、私は何か関係あるのでしょうか?』


 父親のくせに宰相と呼ばれておるぞ、こやつ。愉快愉快!という声は聞かなかったことにして、説明してくれそうな人を探すとキーラと目が合った。


『簡単に言えば、ルーズと伯爵家は遠い遠い親戚にあたる』

 やけに遠いを強調しながらが気になるが、親戚?テーブルについた全員が頷いていた。


『遠いなんて。ベクタール家に嫁がれた方と我が家に嫁いだ方は姉妹だったのだから、家族でしょう』


 あーそういえば昔貴族だったという人が先祖にいたらしい、とルーズはぼんやり思い出した。嫁いだ時は平民だったと聞いていたのであまり気にしていなかったが、まさかこんなところに縁があるとは。

 家族、ではないと思ったが言える雰囲気ではなかったので曖昧な笑顔で聞き流す。


『そうなのですね。縁ある方々とお会いできて光栄です。

…ですが、その、なぜ私が伯爵家と縁があると分かったのでしょうか?ベクタール家には家系図なんてありませんし…』

 嬉しい反面疑問が湧く。キーラの言う通り親戚というにはだいぶ遠い。記録も記憶も曖昧な状態でなぜ…



『あーそれは…ルーズ嬢の魔法は、姉にそっくりなんですよ』


 伯爵は目を細めゆっくり話す。聞けば伯爵の姉でありキーラの奥様であったシャンリー様は不思議な魔法を使えたそうだ。それは手から夜空のような黒いレースを広げる素敵な魔法。

 伯爵家に特別な魔法はなく、他国から嫁いできた女性が何か魔法を持っていたと記録があるのだと言う。

 シャンリーは夜空の魔法を使ってよく遊んでいたと。


『他にレースのように広がる黒い魔法というのは世界にはなかった。だからシャンリー姉上と似た魔法を使うルーズ嬢が我が家と関係があるのはすぐ分かったんだ』

 分かった時にはキーラ家に入ってしまったため、前伯爵夫婦が水面下で猛抗議をし続けていたとついでに教えてもらった。


『我が家の縁者なら我が家に養子に入れば良かったんじゃ。それをこやつが…!』

 物凄く睨まれているのに美味しそうに食事をするキーラに慣れを感じる。この関係性は今に始まった事ではないのだろう。

 なぜ、同じテーブルにした。


『伯爵家にルーズ義姉上を会わせたかったんだ。お祖父様たちは普段領地から出ないし丁度いいかと』

 こうなることは分かってたけど、まぁいいんじゃない?とシヴァンは楽しそうに食事を続ける。


『ルーズ嬢すまないね、だが父と母のこんな生き生きとした姿が見られて私は嬉しくてね』

 生き生き…確かにお元気そうだが、血圧が上がるのはあまりよろしくないのでは。

 ルーズの心配をよそに伯爵は笑顔でキーラと父親のやりとりを眺めていた。


『一応魔法だけじゃなくて、ちゃんと資料や記録で確認したんだ。それでつい最近やっと私と義姉上が親戚と言える関係だと判明した』

 もっと早く話したかったがゴタゴタしてしまって話せなかった、とか。それは色々あったから仕方ないとルーズも思う。


『私とシヴァンくんが、親戚…そっか。うん…嬉しい。


え。あ、じゃあそれで私キーラ家の養女に?』


 奥様の血筋だから。なるほど納得だ。

 あ、でも養女にしようとしたのは暗闇の魔法を見る前だったような…確証もないのに即決したことになる。

 不思議に思っているとキーラが、優雅にワインを揺らしながらルーズの方を向いた。


『シャンリーの血縁なら私が面倒を見て当たり前だろうと思ったんだ。

シャンリーならそうするし、シャンリーなら喜ぶ。シャンリーなら』

 誰が言っているのかと目を疑うが、キーラの言葉だ。よく、見るとワインをひたすら飲んでいる。

 シヴァンが隣で苦笑いをしている。



『父は、母が義姉上に会わせてくれたんだって言ってたんだ。次こそは自分が守りたいって』


『ふん。お前のせいではないと言っているのに…強情な奴め。

ルーズ、もしキーラ家に嫌気がさしたらいつでも伯爵家においで。もちろんシヴァンもな』


『私の家族は渡しません。誰であっても』

 それにあなたたちはーとキーラが威圧し始めた。相当酔いが回っているらしく、文句が多い。

 それに対して前伯爵が全く聞いてなさそうですごい。

 

『シャンリー姉さんがいたころは父と義兄さんはいつもこんな感じだったんだよ。

父は姉を嫁出すのを最後まで渋ってね…まぁ2人とも喧嘩はするけど仲は悪くないから心配しないで』

 決して仲が良いとは言わないあたり、まぁそう言うことだろう。これは通常なやりとりなら、うん。気にしないでおこう。


 機嫌が良さそうな養父と機嫌の悪そうなでもどこか楽しそうに見えなくもない遠い親戚のおじいさん。


 いつの間にか、テーブルに並べられたチキンソテーを頂く。キラキラ輝く黒いソースに三日月の形に切られたバターが添えられ、夜空に浮かぶ優雅な鳥のイメージだろうか…ナイフを入れると外はパリッと中はしっとりしていてとても美味しかった。



 デザートが配膳され始めた頃には、大広間は緊張感が解かれ品よく各テーブルに話の花が咲いていた。

 王族の席も楽しそうに会話している姿が見られた。一緒に相席しているのは王族の血が濃く流れる貴族たちのよう。先日の議会室にいた顔もあった。


『義姉上。このあとはテーブルが退けられて、自由に移動できるようになるから気をつけてね』

 挨拶に来る人が多く、もみくちゃにされかねないらしい。


 月桂樹をモチーフにしたムースは上品で可愛らしい。スプーンで一口掬うとふわりと黄色い飾りが揺れた。

 『国王からの激励だな…』ぽつりと、すっかり酔いが覚めた様子のキーラの言葉に、テーブルの皆の動きが一瞬止まり何事もなかったように動き出した。


『守らねばならぬな』

 全てを食べ終えてから前伯爵が国王の席を見上げながら言う。




 月桂樹の花言葉は"勝利"


 

『ルーズ、今度うちに遊びにきなさい』

 リンス様が優しい笑顔で次の約束をくれる。


『はい、ぜひ』


 自称祖母と祖父を名乗る2人の目尻が下がり切っていて月桂樹のムースより甘く、ルーズはくすぐったかった。





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