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92.5

影の話


読み飛ばしても大丈夫です。


『今日からルーズは旅に出る。彼女の影についているお前も同行しろ』


 ルディアシス殿下のよくある無茶振りだが今回もなかなかにひどかった。

 うっわー突然じゃないすかーって突っ込みも出来ないまま城内の治安維持(裏から)の任務から外に放り出されたのは1週間ほど前。


『ねーひどいと思わないっすかー?』


 俺たち影は王族の護衛であり手足。命令されればなんでもするが、旅の場合はもう少し事前に教えてもらわないと着替えとかお気に入りの武器の手入れとかの準備時間が足りない。そういうのは普段人にやってもらうばかりで殿下はきっと分からないのだろう。

 旅には準備が必要という常識がないのだ。全くひどすぎる。

 

 あの時の王子の非道さを思い出しながら、木の下にいるメイド服の女性に同意を求めた。


『思わないですね』


 思わないらしい。えーうっそだーと思ったし声に出したが、反応がなくなった。メイドはもう話す気がないらしい。

 つまらないな、と思ったら遠くから護衛対象の気配がやってきた。


『タナーお待たせ!あっちに変な感じの魔力があったから散らしてきた』

『…そうですか。お疲れ様です』


 2人のやりとりを木の上で葉っぱの気持ちになりながら盗み聞く。


 変な魔力…ナニソレ大丈夫?しかも散らすって…?知らない言葉な気がするんすけど。


 メイドは理解している顔で絶対に分かってないだろうに頷いている。この旅は理解できないことを突っ込んだら負けの旅。

 何故なら彼女に質問しても『えっ?出来たからやった』とか『ああ、田舎ではよくあるんだよー』とふわっとした回答しか返ってこない。それ以上もない。

 本人からすると当たり前のことすぎて説明が出来ないらしい。


 わっかんないけど、すごいってことは分かるから、まぁいっか、で終わらせるのが気持ちが楽。

 それから都度報告。頭を悩ませるのは中央の仕事ってことで丸投げだ。






『もうそろそろ戻りましょう』

 メイドの言葉で散歩がようやく終わるみたい。じゃあこっからはこっちの仕事かなぁー?



 家族団欒を眺めながら時間を潰すと夜が来た。


 この村の夜はうるさい。

 野生動物に、魔物の声に紛れて汚い息遣いと足音が交じる。不協和音だ。

 快適な夜のためにさっさと片付けが必要っと不快な連中の元に向かえば呆気なく音が止まる。


 うーん…今日も手応えのない相手だっんすけど?

 

 暗殺にしては弱すぎる刺客たちに何のためにいるのか意味がわからない。本人たちは多分恐らく本気で殺しにきているが依頼者は、違う。

 ほんっと気味が悪い…


 得体の知れない気持ち悪さに、気が緩んでいると家のベッドで寝ていたはずのメイドが外に出てきていた。


『私も護衛なんですが?』


 ?…そうっすね?

 相手の言い分に意味を図りかねる。表と裏で護衛することは王族の警護体制と同じだ。よくあるやつ。


『私、全然戦えてないのですが?』


 あ。なるほど。

 でもなぁ。えーそう言われても困るー…『敵が弱いんすよー』て言ってみたけど、全然納得してない。


 仕方ないので強そうな敵をメイドに渡すことで話をつけた。納得して帰っていく後ろ姿がちょっと楽しそう。

 …多分強い敵は来ないだろうと思いながら眺めた。




 さぁてと。

 変な魔力でも見に行って、今日の報告書送ろーっと。






 

 報告書はその日のうちに書き上がり城へと転送された。


『殿下変な顔してどうしました?』


 日に日に高まる緊張感に精神的にも肉体的にも疲労が色濃くなっているルディアシスは、届いたばかりの報告書を目にした途端さらに疲れた様子を見せていた。


『…お前の義姉はなんなんだ……』


 

 報告書によると、ルーズは目に見えない魂の塊を認識して消したぽいと書かれていた。

 魔法具で多数の魂の痕跡を認めたがあたりにはなかったそうだ。だから多分ーとのこと。


 …ぽい、とはなんだ、ぽいとは。多分じゃない。報告書は正しく書け…


 魂は勝手に消えるが、消せるのか?

 というか消すとは?


 頭を抱えたルディアシスをルーズの義弟であるシヴァンはなんとも言えない顔で眺めるしかなかった。

 


 

 その後メイドのタナーが根気よく聞き取ったところ、ルーズ曰く変な魔力は溜まりすぎると空気が悪くなるらしい。散らすとは、暗闇で包み込んで空に放つそうだ。

 中央でもたまに変な魔力があったが気付いたら無くなっていたため放置していた、と。


 影が、魂を見る魔法具であたりを見渡すと村には動物の魂があったりしたので、純粋な魂は感知できていないみたい、と追加で情報が来ていた。

 


 魂の塊とはつまり成仏出来なかった魂たちの集合体じゃいすかねー?多分!と書かれた紙切れを机に置いて眺める一同。


『うっわーそれってー今まで不明だった幽霊とかおばけの正体ってことー?』


 ルーズちゃんすごーい、と助言を求めた魔法士団副団長デュオがはしゃぐがこんな状況で知りたくなかった事実に頭が痛い。




『全部が終わったら、変な魔力の掃除をするぞ』


 



 生きて日常を取り戻した後の最初の仕事がおばけ退治になりそうな予感に王子の執務室は疲労が増した。



本編の更新は明日朝になります。

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