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終わり

「ねえ~リリー」

「なんじゃ?」

「神を殺すってどうやるの~?」


 そういえば説明しとらんかったな。


「まず、召喚するじゃろ?」

「うん」

「で、殺すだけじゃ」

「なんでそれで神が殺せるの~?」


「神が受肉したとするじゃろ」

「うん」

「神とは世界の神として受肉している存在。もし人間の体を受肉すれば世界とのつながりがなくなる。人間に受肉した際、神に戻るにはまたそのための魔法を使う必要があるのじゃ。しかし、それをする前に殺し、人間の体とのつながりを断ち切れば、世界とのつながりも断ち切れる。無限にある世界から、もう一度元の世界に戻るのは困難極まる、そうして開いた神の座に、殺した妾たちが神として君臨するのじゃ。殺すというよりは世界を乗っ取るというほうが正しいのう」

「部下に世界についていてもらって、場所を教えてもらうとか、呼び戻してもらうとかは?」

「世界は無限にある、正確な場所を説明することはできん。そして、自分の神に対して召喚で呼び出す魔法は許してはならん、なぜならそんなことを許せば困った時に自分の世界に呼び出せばいい、という部下が出てきて、大変なことになるからじゃ、そんなことを許す神はそもそも世界運営ができなくなってしまうのじゃ」


「...ねえ、それじゃあ会いたい時ってどうすればいいの? 私、リリーにいっぱい会いたいよ?」

「ああ、神によるが、妾は基本定期的に...まあ10年に一度は異界に行くようにしておる。そこには1年は滞在しているので、そこで会えるのじゃ」

「10年に一回...少なくない?」

「悠久の時を過ごせば、10年なぞあっという間じゃ。3日に1日行くくらいの感覚じゃな。なんなら、多いくらいじゃぞ?」

「そうなんだ、ちなみに異世界に召喚されてる間も?」

「もちろんじゃ、たまに見た目がとんでもないことになっておるが」


「とんでもない見た目?」

「ドラゴンの怪物とか、巨人とかじゃな」

「えっ、その状態で会話とか意思疎通できるの?」

「問題ないぞ。念話ができるからのう」


「なるほど。じゃあとりあえず、神を召喚して殺せばいいの?」

「ああ、そうじゃ」

「神の召喚のやり方って?」

「上位召喚と同じじゃ、神を呼べばよい...もちろん神を召喚するのは難しいぞ、複雑な手順で魔力を増幅しなければ」


 パアアアアアア


「...え?」



「~~~」



「は?」



 声が3つ上がった。一つ、いきなりの閃光に困惑する妾の声。一つ、コンの詠唱する声。そしてもう一つ、男の声。


 そこには輝く魔法陣があり、中には男が横たわっていた。


 コンが上位召喚を素で成功させおった!? さすがに魔法の腕が良すぎないか!?


「な、なんで私を召喚できたんですか!? 私は神ですよ、なんで召喚できたんですか!? ち、チート使ったでしょう!? チーター! 不正使うクソ野郎! えぇい! 神に復帰してお前たちを地獄の世界に堕としてやる!」


 捲し立てるように呂律の回らないしゃべり方をするのは、間違いなくこの世界の神のようじゃ。受肉する姿は基本的に、性格に合わせた姿になる。


 自己愛性パーソナリティ障害と言うものを知っているか? 自信過剰で他者にはレッテルを張り一方的にこだわりを押し付ける。自分は特別だと信じ賞賛を受けられるのを当たり前だと考えている。従わない者は怒り、怒鳴りつけるのが大好きな感情的でロクでもないクズじゃ。完全にその顔をしておる。目がするどく、口がとんがり、鼻が嫌に高い。自信とプライドがあって、自分のいいところは吹聴するが、少しでも説教されたくないがために神経をとがらせているというのがよくわかる顔じゃ。


 神と言うのは自分の万能感に酔いしれてこういう有害なパーソナリティ障害持ちになるからイカン。こういう神が世界を作ると、バランス調整を失敗して世界にどうしても生きにくい種族や生物が生まれ、大体こういう下剋上、世界の乗っ取りが起こる。自分に問題があって起きているのに、起こした者をチーターだとか言って非難するし、頑なに自分の非や能力不足を認めず、他責し続ける。関わったら地獄なのじゃ。


「黙れ、よくも私に苦しい思いをさせたわね」


 ・・・怒っているのが声色から伝わってくるコンは、先ほどまでと違って真顔で毅然(きぜん)とした態度じゃった。


「はぁw!? 黙りませんがw だってチート使いましたよねw チート使うことでしかイキれない雑魚がw 普通何の準備もなく私は召喚できないのにw はーかわいそーw 無能なのにw 言っても私は強いですよw 何もできないでしょうから待っててください今神の世界に戻るのでw 物理も魔法も無効ですよw 私は言っておくとこういう時の為に受肉した体を無敵になるように設定してるんですよw 残念でしたねw うひひひw 絶対地獄に堕とすのでw まあ待っててくださいよw ああ、その強気な顔が絶望に染まるのが楽しみですねぇうひひひw」

「そう。 ~~~」


 コンは無機質に答えると、魔法を練り上げ始めた。 


 神には、受肉した不死身の体をあらかじめ作っておいてあらゆる攻撃を無効化するやつがいる。こういう神の攻略法もあるが、それは専門知識と入念な準備が必要じゃ。このままでは...


「コン! この神は倒せん! 今すぐ逃げ...」

「ふひひw 必死ですねぇw 私も練り上げますよw ~~~~w」


 妾は息をのんだ。


 その魔法を練り上げる舞は、今までで一番美しかった。


 しかし、その一挙手一投足、すべてに恨みつらみを感じた。そんな、悲しみの舞。


 おそらく、このように美しく、悲しい舞は、二度と見れぬじゃろう。


「行け、イプシロン熱核光線」

 細い光線がコンの手からゆっくりとした速度で放たれた。


「は? ぶはっw めちゃくちゃ遅い名前負けの魔法じゃないですかw やっぱりチートしたんですねw 世界の穴を付いてw クズですねーw さあ、神に戻る魔法を早く練り上げますよw ~~~」


 詠唱を続ける神に光線が伸びて行き、神に当たると


 ―――――キィィィィィン


 世界は一瞬、あらゆる音を消すような、猛烈な核威力を内包する閃光に包まれた。


 やがて光が明けると、炭化した、神だったものが出てきたのじゃ。


「カハッ... な、何が... 起きて... チーターがッ... 死...」


 カサ...ぎゅっぎゅ...


 コンは片足で、残った部分を踏みつぶし、よく踏みにじって足の黒い染みにした。


「二度と、私の前に...姿を見せるな」

「...」


 鬼の形相でコンは静かに、そう言った。


 ...コンを部下にしてよかったのじゃ...


 神が作った、攻撃を無効化する無敵の肉体を容易く突破できる、トンデモ魔法を出すような逸材が現れようとは...


 しかも、特定の目標以外にダメージを与えなかった。あのレベルの爆発であれば、世界中が巻き込まれたはずじゃ。それを制御して神だけに当てるとは...


「コン、その、どうやったのじゃ?」

「...ただ、憎む気持ちを、魔法に込めた...基礎から作ったオリジナル魔法よ、サキュバスキングの予言から作ったの、もうずっと前から考えてた...使えてよかったわ... きっと、もう二度と、あの魔法は使えない...いや、使わないでしょうね... ありがとうリリー、神に...いえ、この世界に復讐させてくれて」

「あ、あぁ」


 コンは、やがて口を閉ざし、空を見上げてから、ギルドの宿舎へ戻っていった。


 世界の神の座は開いた。後継者はコンにしよう。


 ...数日はこの世界を統括しなくても動くじゃろう。


 休ませようかのう...それにマスター殿との別れの挨拶も...


―――――――――――――――――――


 こうして、この世界の攻略は終わったのじゃ。


 コンはこの世界の神になった。


 コンならきっと、いい世界を作ってくれるじゃろう。


―――――――――――――――――――


「ねえ~ リリ~」

「なんじゃ?」

「この異界には、一年は居てくれるんだよね~」

「ああ、そうじゃ」


「世界の運営って~、一年放っておいてもいい~?」

「ちゃんと滅亡せぬようにしていれば良いぞ」

「じゃあ、一年間なでなでしてもらうね~」

「あぁ...」


 なでなで、なでなで


「くぅ~ん♡」


―――――――――――――――――――

「すーすー」


 コンは静かに寝た。その間も撫でてやる。


「主様、お久しゅう」

「来たか、セージ」

「その子が新しく入ったコンという獣人の子ですか?」

「そうじゃ、今寝付いたところじゃ」


「気持ちよさそうに寝ていますわねぇ」

「こうして、コンが笑顔でいられるのは妾の協力あっての物じゃ。これからも頑張りたいと思うのじゃ」

「そうですねぇ...」


 セージは妾の膝に頭を預けた。


「次の世界に行くのはいつごろでしょうか?」

「…また気が向いたら...」

「その時はぜひ呼んでくださいね、期待しております」


「わかったのじゃ、ああセージ、そういえば」

「はい?」

「コンの魔法の腕が卓越、熟達している理由は...分かったか?」


「・・・驚かないですか?」

「なんじゃ? 別に驚かんぞ」

「・・・この子は、神です」


「は? どういうことじゃ?」

「正確には神の子供の、神です、母がサキュバス、父は狐の神です」

「ほう?」


「この子の世界の民間信仰として、動物への信仰があるようです、そしてそれがこの子の父、狐神を産んだようです」

「民間信仰が神を産む...ままあることじゃが、それによって生まれるのは低級神じゃろ?」


 たしかに神が生まれるのは民間信仰じゃ。しかし、それによって生まれる神は低級神であり、子供を産むような機能はない。


「はい、それによって生まれたのは低級神でした。しかし、母のサキュバス...こちらに複雑な理由がありました」

「ど、どういうことじゃ?」

「このコンの種族はサキュバスという名前ですが、他の世界での正式名称は夢魔です、夢の中で性交する亜人種です。現実での性交によって生きる、淫魔とは種違いです、ただこの2種間で子供は残せる程度には似ております、夢魔の特性はその子から聞いたはずです」


「うむ、似ているところもあったが、ほとんど淫魔とは違ったのう」

「夢魔は夢の中で性交して、お互いの魔力を混ぜ合い、相性を高めます。本来これを繰り返してから、子供を残すにはここから更に現実で性交する必要があります」

「うむ」

「どうやらこの子の母は幼少期、神社境内で寝たようなのです、そこに狐神が...」


「つまり...民間信仰の神と魔力を混ぜ合ったと?」

「そうです。その狐神は、コンの母に一目ぼれしたのです」

「また壮絶な...」

「狐神のご神体は、魔法の腕前に優れた神獣の狐のミイラだったようです」

「おお、ここで出てくるか神獣」


「狐神は優れた魔法の腕でコンの魂と肉体を作り、コンの魂は生前に魔法を鍛えられ、肉体に宿りました。そして母の胎に入ったのです、魔力を混ぜ合ったおかげで狐神と母の混ざった魔力から肉体を作れたようですよ。当時母は20歳、まったく身に覚えのない妊娠をし、ご存じの通り、夢魔が生涯一緒に眠れる男性はただ一人だけ、そのためにタブーである男遊びを疑われ勘当されたようです」

「おいおい、急に闇がふけぇのじゃ」

「結果として母は、生まれたコンには何も話せず、そのまま大人に...そうして起きたのが、魔法学校の落第危機事件なのです、つまりコンは、魔法の腕に優れた神が生んだ、神なのです」

「なるほど、結果として神の力を持った獣人が生まれたと...ん?狐神はどうしたのじゃ?」


「狐神は親の責任も果たさず、孕ませただけで眠りについたようです。こういっては何ですがクズですね、主様を見習っていただきたいものです」

「おぉ...セージ怖い顔をしておるぞ...」

「ああ、失礼いたしました、(わたくし)こういった男が大嫌いでして...」


「では次に、コンが妾を呼んで世界を滅亡させようとしていた理由は?」

「神のせいです。神が未来視をしてリリー様が来るという漠然とした情報を掴んでいたので、それを神託と言う形で古代に人間界に流していました。しかし、それがなぜ召喚されるか、誰が召喚するかについては認知していませんでした。タイミングもおおよそしか分かっておらず、時期が近づいてきたタイミング...400年ほど前にまた神託で見えた情報を流したようです。そこでは何かしらの魔法が使えない者が、サキュバスキングを召喚するとまで未来視できていたので、魔法が万能に使えているほど優秀だと人類に神託を与えました。それを受けて、世界的な流れとして評価制度を全魔法が使えなければいけないとしたため、結果としてコンへの迫害につながったようです、それがコンの性格をゆがめました」

「つまり...神が自分の首を絞めたのか?」

「ええ、完全に...」

「なんてことじゃ...この世界もイキッてる神の、アホみたいな行動のせいで不幸な者が生まれたのじゃな...」


「まあ、おおよそ世界を作る神はあまり賢くなく、夢見がちな割に、世界が作れる万能感からイキりがちですからね...」

「なんとも救えん話じゃな...」

「唯一救われたとすればコンの神としての能力が覚醒したことでしょう。一から魔法を編み出す行為はまさしく神の技です」

「では最後に、コンの種族は...なんじゃ?」


「コンは、狐神と夢魔が合わさった・・・完全新種です」

「・・・夢と狐炎を操る狐の獣人、炎夢狐人(えんむのきつねびと)といったところかのう」

「そうですね、適当ではないかと思いますわ、さすが主様です。それでは、私は世界運営をしなければなりませんので、失礼します。またお会いできる日を楽しみにしております」

「ああ...」


 セージはにっこり笑顔をたたえて元の世界へ帰った。


 妾はコンの顔を覗く。幸せそうな顔をして眠っておる。


 静かに眠る顔は穏やかじゃが、その内奥はたしかに苦労がたくさんあった。


 妾はコンの額に優しくキスすると、妾はコンの毛に包まれて寝たいからと、ベッドに抱えて行き、ぱちぱちはじける暖炉の音を聞きながら、大きい狐尻尾を抱えて眠ったのじゃった。

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