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君のとなりを探してる

作者: ククリ

あざと可愛い子になりたかった話

 ヒールは7センチが好き。私のスタイルが一番良く見えて、歩きやすいから。

 アイラインは目尻を2ミリ下げるのが好き。目つきが悪いから、少しでも優しく見えるようにしたいんだ。

 でも、君の好きな子はアイラインをいつも跳ね上げていて、スタイルなんか関係なくいつもフラットシューズを履いている。そのフラットシューズを真似して履いてみたけど、スクエア型だから足が痛くてたまらなかった。だから、すぐ売ってやった。アイラインを跳ね上げる勇気はでなかった。

 あざとい子は嫌いだと言っていたけど、少しでも触っていたくてあざとい可愛い仕草を勉強した。望みがないなら、『彼女が嫌がるからやめて』って言われる時まで触るくらい許してほしかった。


「お前、彼氏作らんの?」


「いるけど?」


「おーいー、やめとけよ〜?」


「え〜?」


 サークルの飲み会でいつものように絡みにいって、さりげなく絡ませた腕をやんわり解かれた。

 初めて解かれてしまった両手が行き場を失って、少し戸惑った。

 拗らせた恋も2年目で、やっと動き始めた失恋の予感に心臓が嫌な音を立てた。

 お酒を飲んでいて、いつも通りタレ目メイクにしていて良かった。少しくらい目元が滲んでもバレやしない。

 寂しい両手を、全然好きじゃなかったのに友達に勧められて買ったショート丈の薄手のセーターの裾に持っていって、拗ねたように引っ張ってみせた。合わせてきたハイウエストのボトムも好きじゃないけど、今日のパンプスに一番似合ったから履いただけ。君の気持ちを考えないようにして、いつだって頭の中でどうでもいいコーデの事を考えて気を紛らわすのが癖になった。


「本当に?」


「何が〜?」


「彼氏。」


「え〜?ヌフフ」


「ずるいわ〜、それはずるいわ〜」


「悩めるみっ君には、ハイボールをあげちゃう。」


「飲めんのに頼むなよ〜」


 彼氏なんかいない。

 でも、なんかいる設定にした方があざとい真似がしやすくて…君に警戒されないんじゃないかなって思って。

 いつも美味しそうにハイボールを飲んでいるから、カルアミルクとカシスオレンジしか飲めないけど、今日は思い切って注文してみただけ。お酒の好みだけあざと女子なのが、自分でも痛くて笑える。

 あの子のいつも斜め前を陣取って、あの子の好きな枝豆と卵焼きを多めに注文して、ピーチハイが切れた時だけ声をかけてるこの男も割と痛いと思うけどね。それで、そのまま2人で楽しそうに話し込むんだからやってられない。

 痛いくらい君の舞い上がっている気持ちがわかるから、本当にたまらない。


「ちょっと用事あるから、今日はトイレ行ったらそのまま抜ける〜。お金、渡すから幹事に渡しといて。」


「彼氏?」


「ヌフフ〜」


「罪な女だ〜」


 じゃあ、彼氏になってくれない?

 まあ、無理だよね。

 だって君、好きな子いるもんね。


「え?」


 心の声が漏れてしまったみたいだ。カルアミルクを1杯余分に頼んじゃったかな?一瞬、私の回りだけ音が消えたみたいだったけど、またすぐ騒がしい居酒屋の音が戻ってきたからセーフセーフ。


「え?エマちゃん?え?」


 君たちが付き合うの秒読みなんだって、親切に教えてくれる人がいる。

 だから、みっ君って呼ぶのはやめた方がいいよって、誰にでも触るのは良くないよって。誰にでもあざとくしてないのにね。やだぁ…バレバレだ私の気持ち…君以外。


「お風呂入った後に、ボディークリームを塗りたくるのに忙しいの。」


「そんな話じゃなかったよね〜?」


「ん〜でも、そういうどうでも良い話だったでしょ?」


 だから、おしまい。

 サークルの飲み会にくる意味がなくなっちゃった。君の隣をキープする努力も、お酒で熱ったせいで崩れたメイクを直す努力もしなくてすむ。…ずっとしていたかったんだけどな、これ。

 惚けた顔したやつに、無理やり三千円を握らせて、ヘラヘラしながら席を立った。最後に触った手のひらが熱かったのと、ピンクベージュに塗った人差し指のネイルがちょっと剥げていたことが妙に気になった。お気に入りのパンプスを履いても、気分が上がらない。


「ね、エマちゃん?」


「なぁに、みっ君?」


 騒がしい居酒屋で、大学生2人が席を立ったところで誰も気には止めない。まだ肌寒い春の夜、居酒屋の出入り口までこうして見送ってくれる事は別に珍しいことでもなかった。でも、今日できっとおしまい。

 私のミルクティー色に染めた頭を、みっ君がいきなり後ろから大きな両手でバスケットボールを受け止めるように押さえ込んできた。これは初めて。

 みっ君から、私に触って来たことが。


「エマちゃん」


「触んな、はげ〜」


「口悪っ!」


「私が触るのは良いけど、触られるのは別なんです〜」


「えぇ…」


 泣いちゃうからさ。

 あと歩けないからさ。


「エマちゃんが、なんか盛大な勘違いをしている気がするんよ。」


 綺麗な季節のはずなのに、飲屋街の空はごちゃごちゃしていて汚い。後ろから聞こえる私に都合のいい話に、早く頭を離してくれないかなと考えた。

 振り向いて、抱きつけないじゃん。

タイトルは、みっ君視点

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