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思い出

「…………うー……」

「おはよう、アリスちゃん」

「おはよーサティさん」

「うん。具合はどう?」

「なんか頭痛いです」

「そっかー、頑張れー」

「何をどう頑張れと」

「気の持ちようとか」

「なんですかそれ」

「うん、それを説明するべきだと僕は思ってて。でも、グレーマはまだ早いって」

「あれ、そういえばグレーマさんは?」

「今は外してもらってるんだ。グレーマも、人間同士で話した方がいいって」

「???」

「アリスちゃん。辛いこととか苦しいことがあったとして、知りたいと思う?知らない方がいい?」

「いきなりなんですかそれ。そんなこと言われたら気になるに決まってるじゃないですか」

「まぁ、そうとも言う」

「……知りたいです」

「怖くはない?」

「怖いです、当たり前」

「いいの?」

「早くしてください。余計怖くなるじゃないですか」

「うん。アリスちゃん、君は事故で脳を損傷してる。だから、記憶障害は想定してた」

「のう?しょうがい?」

ぺたぺた。あるある。

「グレーマがちゃんと治したからね、傷も残ってないよ。とはいえ、自己治癒力を異常促進させての再建治療だから、アリスちゃん自身の治癒力が機能してなかったら危なかった」

「……へー、わたしすごかったの……?」

「運がいいのか生命力が強いのか、想定以上の回復だってグレーマも驚いてたよ」

「それはすごい」

「ホントにね。こうして普通に喋れてるもん、びっくりだよ」

「おー……何をした覚えもないのに褒められるのってこんなに落ち着かないんだ……」

「あはは。だから記憶の喪失も大したことはないのかな、と思ったんだ。些細なことを忘れただけなら、無くしたことにも気付かない、ってだけで済んだだろうし」

「喪失?ちゃんと治ったんだよね?」

「例えばだけど、肘から先を欠損して完璧に再建したとしたら、形や機能は喪失前と変わらない。完璧に再建してる訳だからね」

「うん、はい、そうだよね」

「でも、そこに思い出の古傷があったとしても、それは再現されない。それは遺伝子に刻まれていない後天的な情報だから」

「…………」

「記憶も一緒。脳の形や機能は再建出来てる。でも、そこにあった記憶が戻った訳じゃない」

「サティさん、待」

「そこにあったんだと思う。お母さんとの思い出が」

がば。ぎゅ。

「…………っ!」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「僕のこと、恨んでくれていいよ」

「なん……で。ぐす。サティさんのせいじゃないじゃん」

「アリスちゃん起こそうって言ったの、僕だしさ」

「そんなの。だって、多分そうじゃなきゃ眠ったまんま死んでたんだよねわたし?」

「あ、気付いてた?」

「なんとなく。だって、そんな死にかけの子供生き返らせたって、なんの得もないじゃん」

「そんなことないない」

「物珍しいから?」

「そうだね。僕はアリスちゃんとお喋りしてみたかったから」

「別に、昔の人なら誰でもよかったんでしょ?」

「そうは言ってもアリスちゃんしかいなかったからそもそも選択の余地」

ぎゅーーー!

「痛い痛い痛い」

「あ、逃げた」

「そりゃ逃げるさ。まぁ、確かに最初はアリスちゃんしかいなかったからな訳だけど」

「けど?」

「今はアリスちゃんでよかった、って」

「サティさん……」

「うん?」

「……言ってて恥ずかしくない?」

「全然?むしろアリスちゃんの方が」

「うっさい」

「なんで?なんで?」

「うっさい。ウザい」

「うわひど」

「サティさん、抱っこ」

「えー、どしたの急に甘えんぼになって」

「抱っこー!」

「はいはい」

ぼふ。

「……あーあ。忘れちゃったんだわたし、お母さんのこと」

「お母さんのこと好きだったんだね」

「うん、大好き。それは間違いないよ」

「そっかぁ。…………気休め、聞く?」

「………………」

「記憶って、そんなにキレイに整理されてる訳じゃないんだよね。あちこちに散らばってて」

「うん」

「だから、いろいろ考えたり思い出したりして頭を使ってたら、そのうちお母さんの思い出のカケラを見付けるかもしれない」

「かも?」

「かも。でも」

「でも?」

「また別の大事な思い出の欠損に気付くかもしれない」

「かも?」

「かも」

「あはは。サティさん、慰めるの下手すぎ」

「しょうがないじゃん、こんなことしたことないんだもん。グレーマの方がよっぽど上手に慰めてくれるよ」

「まぁでも、及第点にしといてあげよう」

「わーい、嬉しー」

「ご褒美に1つ、約束してあげようかな」

「え、なになに?」

「わたし、グレーマさん取ったりしないから。だから安心していいからね」

「…………え?」

「嫉妬してイジワルしちゃうとか、サティさんも案外お子ちゃまだよねー」

「え?え?」

「そりゃそうだよね、大好きなお母さんが他の子にばっかり構ってたら」

「いや待ってアリスちゃん、僕そんなこと考えてないよ?」

「うん、そういうことにしといてあげよう」

「いやだから。聞いて?ねぇ」

「あはははは」

「アリスちゃんってば!」



「あ、そうそう。あったよ、お母さんのカケラ」

「え、もう?」

「うん。ほっぺの感触」

「ほっぺ?」

「ほっぺに当ててくれた手がね、暖かいの。顔も声も思い出せないけど、これだけは間違いなく覚えてる」

「………………そっか」

「うん、全部なくした訳じゃなかった」

「また他のカケラも見付かるといいね」

「見付ける!ありがとねサティさん、教えてくれて」

「……うん、どういたしまして」

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