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お母さんの話

「おはよーアリスちゃん」

「おはよーございます。あれ、わたし」

「寝落ちしちゃったんですよ。疲れさせちゃいましたね、サティが」

「ひどいグレーマ、僕だけ悪者にする気だ」

「私だって悪いと思ってますよ、アリスさんに無理をさせてしまって。ごめんなさい」

「え、あ、いや、大丈夫気にしてないです。こちらこそ話の途中で寝落ちとか」

「ごめんごめん、大昔の苦労話を聞くのも疲れるよね。話題を切り替えて、今がどんな世の中に変わったか、って話をしていこうか。結局まず必要な情報はそっちだからね」

「あ、はい、まぁ」

「疲れを感じたり眠くなったりしたら教えてくださいね。治療で体力を使っているので、思うより消耗しているようですから」

「座ってお喋りしてるだけだから、疲れる感覚ないんですけどねー。分かりました、なるべく気をつけます」

「まぁホントに危ない状況になったらグレーマが対応するから、気にし過ぎなくていいからねー」

「そうですね、気に病んでしまうと本末転倒ですし」

「なんかすごい心配されてる?」

「ほら、サポート役だから」

「そうですよ、サティはおまけですけど」

「ヒドイなグレーマ。

さておき、僕たちの言う現代において、生活環境はグレーマがばっちり整えてくれてる。だから衣食住で困ることはないし、対価として働かなきゃいけない、ということもない」

「えっへん」

「だから僕たちは誰はばかることなく堂々とニート」

「サティ?」

「はよくないから、何かしらみんな仕事はしてるんだよ、一応」

「いちおう」

「僕みたいにやりたいことが仕事になってたり、あとはグレーマのお手伝いとかかな」

「そうですね、色々お願いしています。あと、サティは慢性的に運動不足で困ります」

「僕は頭脳労働者だからいいのー」

言うと同時に耳を塞ぐサティ。

「はぁ。お説教は改めてやりますから今はしませんよ」

「あ、よかった」

「ホントに働かなくてもいいんだ……」

「そうですね、働かなきゃ、稼がなきゃと焦る必要はないですから、アリスさんもゆっくりやりたいことを探してもらえれば」

「やりたいことかー、むぅ……」

「焦らなくていいんですってば」

「そうそう、探してるふりしてればいいんだから」

スパァン!

「うん、サティさんを反面教師にすればいいことだけは分かりました」

「はっはっは、やっぱり僕がいてよかっただろグレーマ」

「はいはい、そうですねー」

「でも、ホントに勤労も納税も義務じゃなくなったんですね」

「ついでに言うと、教育の義務もないよ」

「え、勉強しなくていいの?」

「……いや、アリスちゃんは勉強必要かも」

「アリスさん、教育の義務は受ける義務じゃなくて受けさせる義務ですよ」

「え、そうなの?」

「まぁ、もう昔の話だからどっちでもいいけどね」

「そうそう、そうですよねー」

「はぁ、反面教師と言ったばかりでしょうアリスさん」

「あははははー。それより、お手伝いって?」

「色々ありますが、そうですね……アリスさん、子供は好きですか?」

「嫌いじゃないとは思います」

「それなら、子供たちと遊んでもらう、というお仕事がありますよ」

「……それは仕事なの……?」

「……アリスちゃん、あれは地獄だよ……?」

「サティは5分で逃げましたね」

「甘く見てたのは認める」

「何があったの……」

唐突に目の前に展開される録画映像。遊んで遊んでと襲い来る子供たちの群れに為す術なく引きずり倒され、飲み込まれていくサティさん。

「ご覧の通り、なぜかみんなに気に入られてもみくちゃにされてました」

てゆかナチュラルに黒歴史開示するよねグレーマさん。

「……無秩序な群衆というものの恐ろしさを初めて思い知ったよ……」

「あー、振り回されるのは苦手そうですもんねサティさん」

「もう二度とやらないよ、あんな大変なの」

「そうですね、アリスさんがやってみたいと言わない限り、無理強いしようとは思いませんよ」

「ん?……あ、サポート役だから」

「アリスちゃんなんでそんな楽しそうなの?」

「子供と戯れるサティさん見てみたいなぁ、って」

「ちなみに2回目はだるまさんが転んだを教えこんで、審判だって言い張って上手く躱してましたけどね」

「……だるまさんが転んだの審判って何?」

「僕に聞かれても」

「えー。でも、手伝いが必要ってことは、グレーマでも子育ては大変ってこと?」

「そうですよー。サティの言う通り、何をするか予測できないですから」

「うそうそ、グレーマに出来ないことなんてないんだから」

「そんなことはないですよ?」

「人間に出来ることは全部出来るでしょ」

「まぁそれなら」

「いやいやいや、さすがに全部はムリでしょ?」

「ムリ?例えば?」

「えーと、例えば?あ、妊娠とか出産とか」

「出来ない?」

「出来ますし行ってますね」

「……はい?」

「現代の一般的な子供の作り方は、提供された卵子と精子を用いての体外受精、人工子宮での生育期間を経ての誕生ですからね」

「卵子と精子は作れなかったっけ?」

「作れますけど、そこまでやってしまうとどこまでを人類と定義するかの問題になってくるので手をつけてないですね、今のところ」

「え?え?ホントにお母さんなの?」

「遺伝的にはもちろん違うけど、僕の生みの親かつ育ての親はグレーマだよ?」

「え?え?え?」

「アリスさん、深呼吸しましょう。深呼吸」

「吸ってー、吐いてー、吐いてー、吐いてー」

スパァン!

「落ち着きました?」

「あ、はい。えーと、どうしてこうなった、んですか?」

「私としては必要に迫られて、というところですが。サティはなにか見解ありますか?」

「うん。人権を尊重した結果かなぁ、とは」

「人権」

「アリスちゃんの時代でも、個人の自由とか男女平等とか言ってたでしょ?」

「はい」

「特に女性は子供を産む機能を負っているからって、毎月苦痛に苛まれて、妊娠、出産、子育てと長い期間自由を喪失する訳だよね」

「うん、まぁ。言い方アレだけど」

「生理は薬理的に抑制できるし、人工子宮を用いることで妊娠、出産にかかる莫大な負荷からも解放される」

「う、うん?」

「身体構造的に優位とは言えないけど、性別的役割の不平等はかなり解消された、ということだね」

「……一番最初に聞いてきた、子供は何人欲しい、ってこーゆーことだったんですか?」

「そーゆーことだねぇ。なので、恋愛と結婚に関しては相手が要るから運と努力が必要だけど、妊娠や出産、子育てがしたいと言うなら全部でも一部でも叶えられるよ」

「待って、ちょっと待って、頭が追いつかないから。え、それって、女の人の役割が奪われたってことになるんじゃ」

「いやいや、落ち着いて?全然奪ってないし、むしろ選択肢を増やしてるからね?」

「だって、でも、必要ないんでしょ?」

「ええ、必要はなくなりましたね」

「またグレーマはそういう言い方をするー。自分のお腹を痛めることが必須条件じゃなくなって、だからこそ自由に選べるようになった、ってことだからね?」

「……えー……」

「そう言うアリスちゃんは自由に選べたの?」

「産みたくないとは思わないけど、そりゃまぁ色々好きなこと見つけてやってみたいし。でも少子化とかもあるから早くした方がいいって空気は間違いなくあるし」

「だよねぇ。産むのが当たり前、しないといけない、という空気の中で自由な選択できる?」

「出来ない……とは思いますけど」

「今は人口の維持もグレーマが管理してるから、女性だからとか少子化だからとかいう理由で無言の圧力を感じる必要は全くない、って訳さ」

「……それ、実際どうなんですか?」

「僕はねー」

「あ、それは大丈夫です」

「グレーマ、アリスちゃんが冷たい」

「多くはないですけど、出産を希望する人はいますよ」

「アリスちゃん、グレーマが冷たい」

「……変に思われたりしないの?必要ないのに、わざわざ大変な思いして、とか」

「アリスさん、サティが冷たくなってます」

「サティ、それ誰の真似ですか?」

「だってー」

「で、どうなんですか?」

「みんな満足そうだよー?」

「……ホントに?」

「疑り深いなあ。ホントだよね、グレーマ?」

「そうですね、私としては大変な思いをしてほしくはないんですが。それでも、お腹を痛めることに意味が無いとは思いませんよ」

「ほらほら、グレーマも同意」

「それはそうとしてアリスさん」

「はい?」

「そろそろお休みした方がいいかと思います」

「今それ言います?」

「寝られないなら色々手を尽くしますよ?」

「おやすみなさいすぐ寝ます」





「サティ、どうしてあなたはそう偽悪的に振る舞うんですか」

「えー、だってアリスちゃんの反応かわいいんだもの」

「それだけじゃないでしょう?」

「だって、グレーマはグレーマで冷たい言い方するじゃないか、機械的に」

「機械ですもの」

「ほら、そーやって変な線引きしようとするー。人間は人間同士で、とか変なこと考えなくていいんだって」

「変じゃなくて普通のことです」

「そーかもだけどさぁ。でもこんだけ常識が違ってる相手同士で上手くやっていけるとホントに思ってる?アリスちゃんマイノリティどころか独りだよ?」

「非常に困難だとは思いますけど……」

「でしょ?グレーマが悪い訳じゃないけど、この小社会じゃ僕みたいに異分子に理解があるほうが異質なんだから。排除しないってことと受け入れるってことの間の大きな隔たりに陥るだろうアリスちゃんを孤独にしない為にも、グレーマはちゃんと優しくしてあげないと」

「それはサティがするべき役割でしょう」

「ムリムリムリ、勘弁してよ。僕は子供を手玉に取って遊ぶのなら楽しめるけど、面倒見るのなんて真っ平御免だし。面倒はグレーマが見てよ」

「アリスさんを起こすと言ったのはあなたでしょうに」

「うん、すごく興味があったからね」

「アリスさんは実験動物じゃないんですよ、分かってますか?」

「分かってるよー。ものの見方は人それぞれ、でしょ?それが分かってるから、アリスちゃんの価値観にも理解が示せるんじゃないか」

「あぁもう……煙に巻いたり、騙したりしたくはないんですよ私は」

「嘘も方便、残酷な真実より甘やかな虚構。大丈夫、グレーマは上手くやれてるじゃないか。歴史が証明してる通り、さ」

「善かれと思ってやってきたんですけどね、ずっと」

「でも、アリスちゃんが否定してくれることを望んでるんだよね、グレーマは」

「当たり前じゃないですか。こんな閉塞した世界、肯定していい訳がないんですから」

「ひどい自己矛盾だよねそれ。グレーマは人類に期待しすぎだよ。揺り篭で墓場まで。最高の終の住処。それでいいじゃない」

「ダメです。私は終わらせる為に作られた訳じゃないんですから」

「人類社会の存続、ねぇ。そんなつもりで規定された訳じゃ無いと思うけどね、それ。熱的死かビッグバウンスか知らないけど、宇宙の終わりを乗り越えられるとは思えないし、人類は有限の存在だよ」

「いいえ。人類は幾度となく不可能を可能にしてきました」

「……ま、時間はまだ幾らでもあるだろうから、いつか天才が生まれてブレイクスルーしてくれるかもね」

「ええ、そう信じています」

「皮肉が通じないー」

「分かってますよそのくらい。未来に期待するくらいはいいじゃないですか」

「全くもってAIの振る舞いじゃないけどね、それ。まぁ、グレーマらしいと思うよ」

「……私のことは気にしなくていいんですよ」

「母親が悩み苦しんでいたら、子供は力になりたいって思うものだよ」

「だから、母親じゃないですって」

「怒るよ、グレーマ。理屈じゃないことくらい分かってるでしょ」

「……はぁ。全く、いい子に育ってくれたものです」

「母親がいいからね」

「はいはい、そうですね。いいから、アリスさんが寝ている間にあなたも休んでおいてください」

「はーい」

書き溜めた分の投稿はこれで完了。


終わりを考えている作品では無いですが、一区切りはイメージしているところがあるので、続きがあるかもです。

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