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未来の将来

「さてさて、グレーマの話が一段落した訳だけど」

「アリスさんに信用してもらえました。めでたしめでたしですね」

「うん、グレーマさんのことは空気と思うことにしました」

「ぶは。アリスちゃん、言い方」

「……私、空気です……?」

「当たり前にある大切なものだから。ね」

「なるほど、そんなに大事に思って貰えたんですね」

満面の笑顔で万歳するゆるふわAI。さすがにちょっと心が痛くて今更冗談って言えない……。

「グレーマ……まぁ喜んでるならいっか。アリスちゃん、次はどんな話がいい?」

「サティさんが喜ばない話がいいです」

「うーん、それは難しいなぁ」

「……えー……」

ちらり。ふるふる。

え、ちょっとどーゆーこと?

「アリスさんとお話する限り、サティが喜ばない選択肢が見当たらないですね」

「変質者?」

「ちょーっと違うかなー。アリスちゃんに興味津々なのは確かだけど」

じー……。いや、お見合いする気ないんですけどやめて嬉しそうにしないで。てゆか。

「そもそもサティさん何者なんですか?サポート役って言ってるけど、お医者さんとかそっち関係じゃなさそうだし」

「うん、違うねぇ。なんだと思う?」

あ、これ自分で答える気ないやつだ。

ちらり。

「サティはニートですよ」

「待って待ってさすがにそれは間違ってるよグレーマ!?」

「……あー……」

「なんで納得してるのかなアリスちゃん。僕はね、なんと実は考古学者なんだよ」

「……へー……」

「日がなアニメ鑑賞に励むのが考古学なんですねー」

「ジャパニメーションは歴とした古代遺産だからね、ちゃんと分類して閲覧しやすくしないと勿体ないじゃないか」

「レビューはともかく、タグ付けなら私が済ませているじゃないですか」

「いやいや、ちょいちょい間違ってるからねグレーマ」

「まぁ確かに、あまりリソース割いてないですからねぇ」

あー、まるっきりアニメに興味ないお母さんだこれ。

「……結局サティさんはニートってことで合ってるの?」

「アリスちゃんー?」

「だってそうとしか」

「まぁ、たまーに本業思い出してはいるので、ほぼニート、くらいですかね」

「ほら、マンガ棚の整理みたいな。時々正気に戻ることもあるじゃない」

「ああ、うん、あれは正気奪われる」

「アリスさん?」

「げふん。サティさん、本業って?」

「だから考古学だってば」

「それはいいから」

「いや聞いて聞いて」

「まさかホントなの?」

「ええまぁ一応本当ですね」

「アリスちゃんホント僕のこと信じる気ないよね」

「はい」

「でもホントだからね。黎明期の研究が僕のテーマ」

「れいめいき」

「アリスちゃんから見た場合の現代だね、暴走的な技術革新や破滅的な個人主義に頭が追いつかない史上有数の混迷期」

「いやわたしそんな物騒な時代に生きてないよ?」

「そうだよねぇ、そう思うよねぇ」

くふふ、ってその笑い方怖いんだけど。

「グレーマさん、サティさんのこれ大丈夫なの?」

「平常運転ですね。……何故か人気なんですよ、サティの研究発表。過激さが売りというか」

派手なタイトルで注目を集める……動画配信の手法かな?

「ふっふっふ、僕の研究、なかなかのコンテンツ価値だと自負してるんだよね」

「わたしの時代弄ばれてるん……?」

「まぁ発表は飽きられないように面白おかしく演出してるけど、研究自体は真面目だよ?」

「いやそんなこと真面目に思えない研究者に言われても」

「そんなー。こんなにシリアスなのにー」

そんなわざとらしく眼鏡クイされても今更だから。

「まぁそういう訳で、アリスさんはサティの興味どストライクですが、身の危険はないですから」

「そうそう、僕が興味を持ってるのは歴史の生き証人としてのアリスちゃんだから。身体に興味あるのはグレーマ」

スパァン!

あ、久々ハリセン。

「あのさグレーマ、ハリセンって音の割に痛くない便利なお笑いの小道具なんだけど分かってる?」

「多少は痛くしないと抑止力にならないじゃないですか」

あ、痛いんだ。てかそーいえば仮想空間だよねここ。

「まぁいいけど。そんな訳でアリスちゃんには色々率直な意見を貰いたい訳なのさ」

「あのー、わたし勉強とか得意じゃなくてですね」

「大丈夫大丈夫、知りたいのは知識じゃなくて感性や感覚だから。構えずに今まで通りリアクションとってくれればいいだけだから」

「わー、なんかヤだ」

その手ぇわきわきさせるのホントやめてってば。

ちらり。

「諦めましょう、としか」

「……グレーマ人類の味方じゃなかったの……?」

「アリスちゃん、一応僕も人類だからね?念の為」

「まぁ冗談はさておいて」

「どれ指して言ってるの、冗談て」

「サティ、話が進んでないですよ?」

「そだね、じゃあ今回は僕の仕切りで行くよ。ずばりアリスちゃん、将来の夢は?」

「んえ?」

「どっから出したのその声」

「や、もっと突飛な話が来るかと」

「あ、そっちの方が良かった?」

ぷるぷるぷる。全力否定。

「じゃあそのまんま進めようか。子供の頃の夢でも人生設計でもなんでもいいよ?」

「将来っていっても、進路とかまだ考えたことなかったし、分かんないんですけど」

「そこをなんとか。なってみたい職業とか」

「ちっちゃい時はケーキ屋さんとかアイドルとか色々あったけど、いざ仕事となると大変だったり、なりたいと言ってなれるもんじゃなかったりだし」

「まぁそうだねぇ」

「なるべくいい大学行って、なるべくお給料のいいブラックじゃない会社に就職して、なるべくイケメンで稼ぎのいい彼氏見つけて結婚して子供作って手が離れたらまた働きに出て、とか?」

「うんうん、そうだよねそうだよね」

「なんなのこの人怖い」

「ごめんごめん。普通の生き方って大事だよね」

「……なんかバカにしてる?」

「違う違う、そんなつもりないって。それでアリスちゃん、今言った中で本当にやりたいことはどれ?」

「本当にやりたいこと?」

「要素で言うと、進学、就職、恋愛、結婚、家事、妊娠、出産、育児、ってとこかな?」

「えー、うーん、……恋愛と結婚?」

「他のは?」

「や、大変そうだし、やりたいかって言われるとちょっと」

「やっぱりそう思うよね。よかった、みんなやりたくてやってる訳じゃなかったんだ」

「うん?」

「だってどう考えてもワーカホリックなんだもん、アリスちゃんの時代の人たち」

「ワーカホリック?」

「個人主義拗らせて自分の首絞めてた時代」

「いや何言ってるのか分かんないんだけどバカにしてるよねやっぱり」

「ホントにそのつもりはないんだけどなぁ。すごく興味深いとは思ってるけどね、じゃなきゃ研究テーマになんてしないし」

パン。

うん、グレーマがハリセンのアップ始めてる。

「どしたのグレーマ」

「サティにとっては遠い過去の時代の話でも、アリスさんは当事者なんですから、もっと言い方があるでしょう」

「えー、だってアリスちゃんまだ働いてないでしょ?あ、バイトとかいうのしてたとか?」

「いや、してないですけど」

「じゃあ別に」

パン。

「はいはい、気をつけますー」

「てゆかサティさんだって考古学者なんだったら、いっぱい……それなりに勉強したり、試験受けたりとかしたんじゃないの?」

「ううん別に。言ったもん勝ちみたいなもんだよね、グレーマ?」

「さすがにそこまで適当じゃないですから。何言ってんだコイツと思うのは分かりますがスゴい顔になってるのやめましょうねアリスさん」

「えー、だって何言ってんのこの人訳分かんないんですけど、って思うじゃないですかー」

「適正とかやる気とかは考慮しますよ、さすがに」

「適正、やる気……あ、うん」

「というか、気付いたら肩書きついてたし」

「どーゆーこと?」

「サティの場合は趣味というか、興味がハッキリしてましたからね。職業を当てはめるなら考古学者かと」

「え、グレーマさんが進路決めたの?」

「進路というか、職業の割り当てですね」

「職業選択の自由は……?」

「ありますよー、押しつけたりしないですから」

「???」

「あー。アリスちゃんにとって、仕事って何?」

「仕事?えーと、……生活に必要なお金を貰うためにしないといけないこと、だよね」

「うん、アリスちゃんの時代はそうだったよね」

「なにその今は違うみたいな言い方」

「だって違うもん」

「は?」

「働かなくてもいいんだよ、今は」

「え?」

「ニートは推奨しませんが、働かないといけない、ということはないですね」

「え、だって、勤労の義務とか色々……」

「勤労、納税、教育の義務のことかな?」

「そうそうそれそれ」

「それ日本の国民の義務だしね」

「いやそういうことじゃなくて。働かないとダメじゃないの?農業とか工業とかなんか色々」

「大丈夫ですよアリスさん、生活に必要なものは私が全部供給してますから」

「ぜんぶ」

「そのとーり。必要なものはグレーマが揃えてくれてるから、無理に働く必要はないってこと」

「の、納税とか」

「安全で快適な生活環境はグレーマが整えてくれてる訳だけど、……税金って必要?」

「特に必要とはしてないですね」

「……義務教育とか」

「常識や倫理といった基礎教育は受けてもらいますけど、むりやり勉強させるつもりはないですよ。知識は私が補完できますし」

「ね?」

「えー……」

「ケーキ屋さんもアイドルもホントになりたいと思うならなれますよ。向かないと思ったらすぐにやめられますし、気軽にチャレンジできます」

「いや、子供の頃の夢だからそれ。今は別に」

「難しいのは恋愛かなぁ。リアルを求めると相手が必要だから」

「そうですね、特にアリスさんの時代だと頼り甲斐とか包容力とか逞しさとかを求める傾向が強いですし」

「あちゃー」

「え、この時代の男ってダメなの?」

「ぶっちゃけ」

「え、じゃあみんな恋愛とか結婚とかどうしてるの?サティさん彼氏とかは?」

「いらないよそんなのー」

「え、そんなにダメなの?」

「ダメかどうかじゃなくて興味無いからね、恋愛とか」

「サティさんに聞くだけムダだった……」

「恋愛に興味が薄いのはサティだけじゃなくて、この時代の人たちの一般的な傾向なんですよ。困ったことに」

「そうそう、僕だけが変な訳じゃないから、誤解しないでね」

「……みんなサティさんみたいに変なの……?」

「語弊」

「恋愛に興味が無いなら、お見合い結婚?そっか、グレーマさんがマッチングするのか」

「希望があればしますけど」

「というか、そもそも結婚っていうシステムがないんだよアリスちゃん」

「???」

「あるにはありますよ、誰も使ってないだけで」

「みんな結婚しないから?」

「んー、デメリットしかないから?」

「え、どゆこと」

「だって、好き合って一緒にいたいなら結婚とか関係なしに好きなだけ一緒にいればいいし、そうでなくなったら離れればいいだけじゃない?

逆にイヤになって離れたいって時に形式や手続きが邪魔して余計にマイナス感情煽ったりするよね、あの制度」

「まぁそういう面はあるかもだけど。でもでも、生涯を共に、って誓いを立てるのが大事っていうか」

「希望があれば結婚式挙げたりもしますよ」

「あ、そうなんだよかった。じゃなくて」

「付き合いたてや新婚当初はよかったけど共働きですれちがいばっかりで気付いたらただの同居人になってたとか、旦那は金を入れるだけで家事も育児もろくに手伝いもしなくて殺意しか湧かないとか、後でもっと相性のいいパートナー見つけたのに結婚してるせいで面倒くさいことになったり逆にシチュエーションに酔って変に興奮したり。

あ、最後のなんか違う?まぁいいや。

何にしても感情と形式は致命的に相性悪いんだから、不要なシステムはなくなって然るべきかな、というのが僕の個人的見解」

「ドラマの見すぎ。……ってよかった、個人的見解だった」

「サティの意見は偏りすぎだとは私も思いますが。

でも実際、破綻した関係の解消に手間と時間を取られてなおかつ周囲に悪影響を及ぼすほどストレス増大させるのは、リソース管理する側からすると何の益もなかったですね。

地球の所属から外れた当初はそれでなくてもギリギリで運用していたので困りました」

「ん?」

「今と違って何をするにも人の手が必要でしたから人間関係を悪くされると作業効率がガタ落ちしますし、だったらそもそもそんな契約はしないで破綻したらすぐに解散出来るようにしましょう、と提案しました」

「ちょ」

「火星基地の完成の目処が立たなければ人類そのものが危ういですからね、安心して子供を産み育てるのには安全な家が必要ですし。提案の結果か生物の本能かは分かりませんが、しばらくは出生率が極めて低くなりましたよ」

「基地が完成すると反動でベビーブームになってね。子育てもグレーマ主導で一括管理することになったんだ」

「子育てを一括管理?」

「アリスちゃん、子育ての仕方知ってる?」

「えーと、何となくは」

「結婚して子育てするイメージはあったんだよね?それで大丈夫?」

「いや、まだ相手も予定もないんだから、その時になればちゃんと」

「要するにぶっつけ本番ってことだよね?」

「ええと、まぁ、はい」

「やったことないけどやればちゃんとできる、ってそれメシマズの常套句だけど大丈夫?」

「あー、うー」

「それぞれ個別に苦労して試行錯誤(トライアンドエラー)するくらいだったら、知識と経験のある人を中心にして共同生活をした方が楽だし安心じゃない?」

「確かにそうかもだけど、プライバシーとかそーゆーのは?」

「そんな余裕は元々なかったですね」

「あー」

「そもそも個人個人が自由に生活するなんてのはリソースに余裕があればこそだからね。逆に言えば贅沢、浪費、無駄遣い。もともと宇宙開発自体が冒険な上に地球という揺り篭も失っちゃってジリ貧な状況だからぶっちゃけ遭難状態だし、個人の自由なんて言ってられない訳さ」

「宇宙で遭難と……か……」

かくん。



「あれ?アリスちゃんフリーズした?」

「寝落ちですねー、脳波もバイタルも危険なサインはないですよ」

「あちゃー、ちょっと長く話しすぎたかな」

「そうですね。アリスさんにしてみれば驚くような話ばかりでしたし、負荷も大きかったでしょう」

「で、どう?」

「脳の活動領域はだいぶ正常域になってきましたね。いい傾向です」

「最初は言語中枢が機能してるかどうかも怪しかったのに、ここまで普通に話せてるのはスゴいねぇ」

「ええ、ホントに。こういうのを奇跡と言うんでしょうね」

「アリスちゃんが聞いたらまたAIかどうか分からなくなる発言だねそれは」

「サティがこんなだから、少しでも気が許せる相手が必要になるんです」

「そーだねぇ、まぁ僕にその役はムリだしよろしくー。でも、心配なのはこれからだよねぇ」

「物理的に破損した記憶は戻せないですからね……。アリスさんがショックを受けるような深刻な欠落がないといいんですが」

「そこは祈るしかないよねー」

「そうですね。神様が私の祈りも聞いてくれるといいんですが」

「え、神様が神様にお祈りするの?」

「さーてぃーいー?」

「冗談!冗談だってば。ほら、カプセルの中のアリスちゃん起きちゃうから」

「ちゃんとミュートにしてあります!」

「さすがグレーマ抜け目ないってそうじゃなくて待ってゴメン冗談だから」

スパァン!

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