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はたらくAIさん

『……となる者は、さらにおぞましいものを--』

「あー、いいとこだったのにグレーマひどい!」

「おはようございますアリスさん」

「あ、起きたねアリスちゃん。おはよー」

「おはようグレーマさん。サティさんおはようございますなんでいるの?」

「やだなぁ、アリスちゃんのお世話をするために決まってるじゃないか」

「いやなんか観てましたよね今」

「ジ○リはいいよね、名作は時代を超えるとはこのことだよ」

「まさかのジブ○」

「さてアリスさん、気分はどうですか?」

「気分?ええと、こんなにすっきり目覚めたの生まれて初めてかも。いつも寝起きすっごく悪いのに」

「睡眠の取り方や起こし方にもコツがありますからね」

「わー、AIすごい」

「えっへん」

「……AIってみんなこうなの……?」

「よそはよそ、うちはうち、です」

「……よそがあるの?」

「……ないですね、必要なものは全部統合しちゃいましたから」

「あ、はい……」

「さてさてアリスちゃん、どうする?昨日の話の続きをする?それとも他の話にするかい?」

「聞きたいことは山ほどあるんだけど、サティさんの思惑通りはイヤなので昨日の続きでお願いします」

「ふふふ、アリスさんはサティより私に興味があるんですね」

「あ、ええと、はい、じゃあそれで」

「くすん」

「分かりやすく拗ねないでください」

「はーい。さて、アリスさんは私がいわゆるロボット三原則に従っていないことを不安に思っている、という辺りで昨日は終わったんでしたね」

「地球滅亡が軽く端折られてるけど、まぁ、はい」

「その代わりではないですが、人類社会の存続、という命題に従っている訳なんですけれど、これだけでは安心できませんか?」

「安心できないよねぇ。目の前の人間の要請より命題を優先します、って言ってるんだから」

「サティさんの言葉には同意したくないけど、うん、ちょっとかなり不安」

「困りましたねぇ」

「じゃあ、グレーマの成り立ちを説明すればいいんじゃないかな」

「そうですね、そうしましょうか。ではアリスさん、ちょっとお勉強の時間です」

どこからともなく取り出したメガネをスチャッと装着。

3人の視線の交点よりちょっと上に、ふわりと青っぽい球体が浮かび上がる。

「……地球?」

「はい、正解です。アリスさんが眠ってから少し未来、くらいですね。私が造られた時代です」

「限りある資源を未来に残そう、ってお題目を謳いながら資本主義やら成長主義やらでその大事な資源を変わらず浪費してる時代だねー」

「あー、えーと、身も蓋もないですね」

「日本ではキャパオーバーのタスク抱えて国民総過労状態、末法思想が流行ってた頃だねぇ」

「末法思想?」

「流行ってたでしょ?現実は報われないから、転生して楽しく生きよう、って」

「???」

「サティ、脱線してます。そもそも先生は私ですよ」

「いやいや、僕だってアリスちゃんに色々教えてあげたいし」

「ダメです。脱線どころか誘拐する気満々じゃないですか、本題」

「えー」

「没収します」

言うなり、消失するサティのメガネ。取り上げるとか奪うとかじゃなくて、ホントに消失。あ、そっかここ仮想空間だった。

「メガネ属性強奪するAIとか斬新」

「なんですかアリスさん」

ぷるぷるぷる。首振り。

「ひどいよグレーマ」

言いつつポケットから新しいメガネ登場。あ、かけるより先にまた消失。

「没収です」

にっこり。

「はいはい、降参いたしまーす」

「メガネ諦めたんだ……」

「何かなアリスちゃん」

ぷるぷるぷる。首振り。

あはは、お腹痛い。痛、あれ、ホントに痛い。痛たたた……

「あ、まずいグレーマ」

「ええ。アリスさん、落ち着いて、深呼吸しましょうね。吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー」

「すー……、はー……、すー……、はー……」

「落ち着いた、かな?」

「大丈夫、だと、思います。何今の……」

「感情の信号がハレーション起こしたみたいですね。出力を調整したのでもう大丈夫だと思いますが、念の為監視を強めておきます」

「?!?」

「びっくりしたよね、アリスちゃん。スリープ明けとか身体の修復とかの影響で脳や身体がうまく働いてないところがあるんだよね、どうしても。もう起こらないとは言えないけど、段々馴染んでいくはずだから」

「あー、リハビリとか経過観察とかって」

「そうそう。何かあってもちゃんとグレーマが対処してくれるから大丈夫だよ」

「たいしょ」

「はい、ちゃんとサポートしますからね」

にっこり。

うん、もう痛くないし、安心なんだろうけど。人間じゃなくてAI、なんだよね……。

「サティさんはグレーマさんのこと怖くないの?」

「怖い?グレーマが?……あー、怖いよ、うん、すっごく怖い」

「それはAIが、じゃなくてお母さんが怖い、って意味ですよね?」

「うん、そうだね。僕たちはグレーマがいるのが当たり前だから」

「私お母さんじゃないですよー……」

また拗ねてるし。

「グレーマさん、授業の続きお願いします」

「少しお休みしなくて大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」

「疲れたり、違和感を感じたらすぐ教えてくださいね?」

「分かった」

「では気を取り直して。さて、この地球の周りを回ってる宇宙ステーション。ここが私の初仕事の舞台です」

「初仕事?」

「ステーション内の環境保全のサポートです。問題やその兆候を見つけて、報告しつつその原因を調べるお仕事ですねー」

「……地味」

「まだ情報分析以上の権限も機能もなかったですからねー。でも、要求された性能を満たせたので、次のお仕事が決まりました」

目の前の地球が小さくなって、別の星がクローズアップ。

「お月さま?」

「はい。今度は月面基地の環境管理です」

「おー、……でもやっぱ地味」

「……リソースの管理も任せてもらいましたもん」

「燃料、食糧、水、空気、完全にライフライン掌握だね」

「……それ大丈夫なの?」

「決められた通りに消費動向を監視するだけですってば」

「問題の予測が出来ても、警告ぐらいしか出来ないから予測通り事故が起きたりしてね」

「え」

「実験が失敗した時の想定が甘すぎて大変でした。重大事故って記録されてますけど、予測に比べればかすり傷程度ですよ」

「何があったの……」

目の前にニュース記事が浮かび上がる。月面のクレーターの写真?

「これこれ、仮設した実験区画の消失だねー」

「え、クレーターじゃなくて?」

「クレーターはクレーターだね、出来たてほやほやの人工クレーターだけど」

「これがかすり傷……?」

「実験の参加者以外に被害は及びませんでしたし、当時の権限内では最良の結果でした」

「ちなみに予測って?」

「月面基地消失、死者数千人、宇宙開発事業の致命的な後退、ってところかなー。ね、グレーマ」

「そうですねー。宇宙開発そのものが終わってたと思います」

AIって怒るとほっぺた膨らませるんだ……。

「それは確かにかすり傷程度の重大事故」

「でしょー?うちのグレーマはすごいんだから」

「なんでサティさんが自慢げなの……」

「人間よりグレーマが優れてるっていう格好の証左だからね」

「実際に事故が起こるまでは散々でしたけどね。警告出し続けていたら、案の定、故障や不具合を疑われましたし」

「まぁその甲斐もあって、次の段階に進んだというのは怪我の功名というやつだねー」

「次?」

見れば、地球と月の間に大きな船?が作られ、発進。目指すのは、遠くの大きな星?

「火星開発の総合環境管理です。とりあえず惑星間航行から開発の橋頭堡造りまでを第一計画として、その運用の主導を任されました」

「えっ、すごい」

「ふふん、裏方ではなくなりました。運用計画の立案なんかも出来るようになりましたよー」

「決定権はまだないけどねー」

しゅん。

「まぁそうですよねぇ。機械に全部任せるってなんか不安」

「そう?」

「え?」

「月面基地での事故の原因は人間だよ?アリスちゃんの時代でも地球では車両の自動運転化が進んでいたし、そもそも事故原因の殆どはヒューマンエラーだよね」

「え?」

「危ないのは人間の方じゃない?」

「いや、でも……」

「サティ、言い過ぎです。未知のものへの恐怖は正常な反応ですよ」

「はーい。ごめんねアリスちゃん」

「あの、えっと」

「この辺りで一旦休憩しましょうか。続きはまた明日で」

「そうだね、そうしよっか。お疲れ様アリスちゃん」

「あ、はい」

また急に眠気がまぶたにのしかかってきて、視界と意識を覆っていく。

何かものすごくもやもやしたものを抱えながら、今日は眠りについた。

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