え?僕、異世界に勇者として召喚されたの?
「おお、勇者様が…、え、この者が?本当に勇者様か?」
「王よ、これは、勇者召喚の呪文を間違えたのではないですか?」
「そんなはずはない。古文書に書いてある通りの呪文を唱えたはずだ。なぁ、プーシキン」
「はい、間違いはないはずです」
「いやはや、力は見かけによらぬと言うし、そう、勇者の力さえあれば…」
僕が目を覚ますと、ひっくり返った亀のような格好で、身体はずぶ濡れだった。身体の所々が痛むし、僕は死ななかった、いや、死ねなかったみたいだ。辺りを見渡すと、ぼんやりとして見えたので、まずは近くにメガネを探すと、見つけ、それをかけた。前方を見ると、玉座に座った王様や女王様、王女、それから、僕の両脇には、宰相や大臣など、多分、国の要人と思しき人たちが集まっていた。
「ひ、ひぇえええええ!!」
僕が四肢を使って、後ろに下がり、声を上げて、頭を抱え、その場にうずくまると、その場にいた者たちに動揺が広がり、何人かは僕のそんな様子を見てか、笑い始めた。
「勇者様、落ち着いて下され。勇者様!」
僕が恐る恐る顔を上げると、目の前にはやはり、段があって、その上の玉座に、動揺した様子のダンブルドア校長みたいな王様がいて、隣には、ピンク色のショートカットの可愛らしい顔をした王女様や、バリキャリの名をほしいままにしていそうな、髪の毛の色が紫掛っている女王様が、顔を引きつらせて、座っていた。
「誰か、勇者様をお連れして、水を拭い、お召し物を変えて差し上げなさい。申し訳ございません、勇者様。話はそれからで構いませんね?」
女王様が気を利かせてくれた。というよりかは、何を間違ってか、目の前の突然来て現れてしまったキモデブな僕の取り扱いをどうするか、話し合う時間が欲しいようだった。
「は、はひぃっ!!」
僕の返事に、また、会場がどよめいた。絶対悪い意味でだ。
苦笑いをしている三人のメイドさんたちに、僕は立たされて、ほとんど強制的に別の部屋へ連行された。僕は連行されていく途中のパニック状態の頭で、自分が勇者として異世界に召喚されたことだけ、はっきりと理解したのだった。
僕は近くの部屋に通されて、メイドさんたちは僕の服を脱がしにかかる。
「あ、あにょ!!」
盛大にかんだ。恥ずかしい。
「な、何ですか?」
若干引き気味に、リーダー格っぽいメイドさんが反応する。
「あの、着替えとタオルさえ、その、用意して頂ければ、あ、あ、後は!後は…、僕一人でやります…」
メイドさんたちは顔を見合わせた後、リーダー格っぽいメイドさんが応える。
「それは、困ります。私たちは女王様の命に背くわけにはいきません。どうか私たちに着替えと水の拭いをさせてください。お願いします」
三人が揃って、頭を下げてきた。
「あ、そ、そんな、つもりはなくて、そんな、え、あ、お、お願いしましゅっ!」
メイドさんたちはまたもや苦笑しつつ、コクリと頷いた。メイドさんたちは極めて真剣に、かつ、丁寧に、僕を脱がせ、水をふき取り、着替えさせてくれたので、僕は息子が元気にならないようにする必要もなかった。髪の毛を乾かす時に、温風を出す魔法を使っていた。
そうだ!魔法!魔法だ!
僕が魔法のある世界だと気づき、にやつき始めても、メイドさんたちは真顔だった。僕は自分がにやついていることに気づいて、メイドさんたちが無反応なのに気づくと、居たたまれない気持ちになった。
着替えは中世ヨーロッパの貴族風の格好をさせられた。とても似合っているとはいいがたかった。鏡に映り込んだ僕は、辺境の田舎貴族のドラ息子で、民衆をいじめて回っている悪者にしか見えなかった。
「お似合いですね」
だから、機械的、かつ、事務的に放たれたその言葉に、僕はむしろ傷ついたのだった。ただ、メイドさんたちは一流の仕事をしてくれた。僕は恥ずかしかったし、傷ついたけど、感謝さえしていた。これほどまでに丁重な扱いを受けたのはいつぶりだろう?
「あの、ありがとぅうござぁいました」
僕は緊張でイントネーションがおかしくなりながらも、メイドさんたちに丁寧にお辞儀をしながら、感謝を述べたのだった。彼女たちには適切な報酬が支払われているだろうが、良いサービスを受けた時には、お礼をすべきだろう。
「あの、どうかお顔をお上げください。仕事ですから、当然のことをしたまでです」
「そ、それでもです。あ、ありがとうございました」
言えた!
今回はちゃんと言えた。だけど、視線はあらぬ方向を向いているのだった。チラリと、メイドさんたちの方を見ると、何だか申し訳なさそうな顔をしていた。やっぱり嫌々やっていた所があったのかもしれない。僕はなおさら彼女たちに感謝したくなった。




