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ストーカー?いえ、ヒロインです!

世の中にはラブコメというものがある。


もちろん単にひとまとめでラブコメと言っても、そこからも色んな物に分岐していくだろう。


例えば、単純にイチャコラするものだったり、幼馴染、許嫁だったり……と様々だ。


そして異世界とかのジャンルはともかくとして、読んでいるラブコメと似た状況が周りで起こっていることもあるかもしれない。


今これを考えてる僕自身には全くないんですけどね。


まあ自分の悲しい現実のことは置いといて……


現に今、自分のちょっと前にはバカップルよろしくが人目もはばからずイチャイチャしやがってるいらっしゃる。


しかし人目もはばからずと言ったがバカップルそんなに非はない。


まったくないというわけでもないが。


なぜなら、そもそも気づいてないからに他ならない。


バカップルなのだから、単にイチャイチャしてて気づいてないだけなのではないか ?


と言われるかもしれない。


実はそういうわけでもない。


なぜならあのバカップルは自分と先輩に付きまとわれている。


早い話がストーカーだ。


「どうしてこうなった !!」


と叫びたい。


でもそうするとバレてGo to ポリスメンしてしまうのでそうもいかない。


とりあえずこうなった経緯を記憶をさかのぼって思い出してみよう……




時は遡ること三時間前


いつも通り僕こと高口葉也たかぐちはやは、授業が終わった後の昼休み、屋上に続く階段へ向かった。


ただし屋上が開いてる高校なんて偏差値中のちょい上の公立高校に求めてはいけない。


ということで屋上は解放されていない。


しかし扉の建付たてつけが悪いのか、二枚のドアの隙間すきまから光がさしている。


そんな階段に、漏れ出る光にらされる一人の少女がいた。


才色兼備・優しい・天使と言われ「西高美女トップファイブ」と言われている船倉箕月ふなくらみつきである。


なお他トップファイブには「頭脳明晰ずのうめいせき」「スポーツ万能」のどちらかがついているが彼女のみにはついていない。


つまりそういうことである。


しかしそうは言ってもトップファイブ


学校中の女子からは憧れの存在であり、男子からの人気も凄まじく、彼女の容姿も相まって一部には……まあそういう目で見る人もいるという話もあるほどだ。


さて、なぜそんな美少女がこんなボッチ御用達ごようたしみたいなところに一人ボッチでいるのかというと、


「おっ、後輩君やっほー !ちゃんと弁当持ってきた ?」


僕と昼ご飯を食べるためである。


「今日はコンビニの菓子パンですけどね」


「そっか今日金曜日か」


そんなたわいのない会話をしていると。


『きゅううぅぅ』


突然二人の間にかわいい音が響いた。


「こっ後輩君、早くしてくれおなかと背中がくっつきそうだ」


どうやらさっきの音の発生源は先輩だったらしい。


「ふふっ、じゃあお昼にしましょうか」


さて少々脱線していたが、学校屈指の美少女とお昼を食べるなんて、これだけ聞くとこの学校の男子の約三割にフルボッコにされてしまいそうだし(仮にも進学校なのでそんなことはないだろうが)、人によっては付き合ってるように思われるかもしれない。


しかしそういうわけではない。


「いやー、私が入った時はこの学校一人も同じ中学校から来てる人いなかったから、毎日一人でお昼食べてて寂しかったから後輩君が来てくれて助かったよ」


「ここに来たらいつもそれ言ってますよね先輩」


何回も耳にタコができるくらい、お昼にこの話をされている。


「だって本当なんだもん。部活やってた時みたいに話できて楽しいよ」


そう、彼女とは中学校が一緒でなんなら部活も一緒の吹奏楽部だったのだ。おまけに自分のパートの先輩だった。ちなみに二人ともトランペットである。


そんなわけ ?で自分がこの西高に入ったことが船倉先輩に伝わった結果、


「一緒にお昼食べていいよね !いいよね !!(強制)」


となりこうなったわけである。


なおこれは相当美化した結果であり実際はもっといろんな意味ですごいことが起きているのだが、ここでは割愛しておこう。


そんなことを思い出していると、いつのまにやら先輩が階段の下を覗いていた。


「先輩どうしました ?下の方見てましたけど」


誰かこちらの方へ来ているのだろうか ?

だとしたら少しどころかかなりマズイ。

先輩は葉也と一緒にお昼を食べることは他の人には一切言っていないということなので、万が一バレるといらぬ噂が出てきてしまう可能性がある。


自分はどうでもいいが、先輩にまで迷惑をかける訳にもいかないので少し不安だ。


とは言ってもこんな行き止まりの階段を登ってくる物好きなんていないとは思うが…


「ちょっと足音が聞こえたからちょっと見てただけだよ。ただ単に三階歩いてるだけだったみたい。」


この学校は3階建てなので、それなら大丈夫だろう。


「よかった。こっちに誰か来てばれたらたまったもんじゃないですからね」


「別に私はバレてもいいんだけどね」


仮にバレたら学校中の男子が阿鼻叫喚あびきょうかんの嵐になるだろう。


「先輩の学校での立ち位置考えましょう ?」


「いやまあバレたらまずいのはそうなんだけどね。流石にこれ以上孤立するのは勘弁だよ」

そう言って先輩は苦笑いをしているが、よく耐えられるな、と葉也は思う。


「ほんとに先輩はすごいですね」


「一体それは何に関してなの ?」


流石にここで言う訳にも行かないので葉也は、なんでもないですよと言って誤魔化した。




「そういえばさ」


再び階段に座りコンビニパンを食べていると、先輩が先程まで話していた内容を切り上げて話を切り出した。


「どうしました ?」


「さっき私が下見たときあったよね ?その時例の吹部のバカップルが見えてさ」


あいつらね……


ちなみに葉也含め二人が言う吹部は基本的に中学校時代の吹部の事を指す。


というか今は二人とも真面目な帰宅部であるため、この学校の吹部のことなど知ったこっちゃない。


「野崎と湯本のことですか ?」


実は先輩がちょうど引退したころ、なぜか吹部では一組のカップルが誕生していた。


その名は「シーザーカップル」


シーザー ?サラダのドレッシングのこと ?となるかもしれないがそういうわけではもちろんない。


どういうわけだかこの二人バカップルのポケットにはハサミが入っている。


一応彼らのために言っておくと、ぞくにいうミニハサミで刃渡はわたり六センチ以下なので銃刀法じゅうとうほう違反でもないし、空港の保安検査で没収されることもない。


「そうその二人。あの子たち、さっき見たからそうなんだろうけど、この学校にしたんでしょ ?」


「そうみたいですね」


「あれ ?もしかしてなにかあった ?」


「いや、別にあの二人となんかあったわけではないんです。ただ……あいつら……野崎を見ているとこっちが負けた気がするんで見たくないんですよね」


やっていることは、ただの負け組の嫉妬だ。


「まああの時の吹部、後輩君こうはいくんの世代男子二人しかいなかったし、一般的に見て君は負け組だろうね」


グサッ。葉也は10ダメージを負った !

自覚してるんだからそんなわざわざ刺さなくてもいいんじゃない ?……


「あの子の方が若干チヤホヤされてたしね」


グサッ グサッ 


葉也は20ダメージを負った !!


というか心を刺すの唐突すぎない…… ?


「まあ私的には君の方がカッコいいと思うけどね」


グサッ グサッ グ......え ?


「先輩、今なんて ?」


なにかとっても聞き捨てならないことを言っていた気がする。突然小声になっていたので聞こえなかったが。


「あっ、っ……いやなんでもないよ」


絶対ない。なんでもないよとか言いながら目線は明後日の方向を向いてるし、なんなら口笛を吹こうとしている。まったくもって出来ていないが。


「ホントですか ?」


少し問いただすような口調で聞いてみる。


「そっそれより、結局あの子たちって付き合ってるの ?」


話の逸らし方が露骨すぎる。


もうめんどくさいので突っ込まないが。


「うーん、それがよくわからないんですよね……」


そう、今までカップルだとかバカップルと言っていたが実際に付き合っているのかは誰一人として知らない。


「まあ、あれだけイチャイチャしてて付き合ってないって言われても信じられませんんけど」


中学校のころなんて、部活の大掃除で音楽室の掃除をしていたら、妙に距離感近いわ湯本が野崎にちょっかいだして野崎が湯本にやり返して、またまた湯本が野崎にやり返して……と、まあ完全にバカップルである。


「そんなになんだ……」


先輩にはまだ言っていないないのだが、さっきので察したのかな黙ってしまった。


一応大丈夫だと信じたいが、なにかよからぬことを考えている気がする。


「先輩 ?」


「……」


普段即座に「ん ?高口くんどうしたの ?」と聞き返してくれる先輩が、珍しく黙りこんだままになっている。


「せっ先輩 ?」


「…………」


反応がない、まるで屍のようだ。


「おーい、先ぱ」


「後輩君 !!」


「はい !」


いきなり叫ばないでほしい。


「あいつらって結局付き合ってるのかわからないんだよね !」


「えっ、ええまあ」


なんだこの人数秒で中の人変わったの ?着ぐるみじゃあるまいし。


というか、興奮で口調がいつもより心なしか荒くなっている。


一体どこに興奮する要素があったのだろうか。


「じゃあさ、あのバカップルをストーカーしてみようよ !」


「は ?」




「じゃあさ、あのバカップルをストーカーしてみようよ !」


「は ?」


先輩相手だが、素でその言葉が出た。というか今なんて ?


「聞き間違いだと思うんですけど、ストーカーって単語が聞こえたような……」


神様聞き間違いであってくださいお願いします。


「え ?実際言ったよ、バカップルをストーカーしてみたいって」


どうやら今日の神様は機嫌が悪いらしい。あとで名前も知らない近所の神社に行ってお参りしてくれば機嫌直してくれるだろうか。


「それマジで言ってます ?」


もしかしたら三度目の正直ということで三回聞けば本当のことを言ってくれるかもしれないと思い、葉也もう一回聞いた。ことわざの使いかたは確実に間違っているが。


「マジマジ」


ホントのことを言ってくれたのだろうが、結局自分が欲しい答えとは相反するものだった。


「なんでまた……」


「そんないつも言ってるみたいな反応しないで……」


急にいつもと同じ調子になり、しゅんとした先輩になった。本当にどうなっているんだ。


「別にいつもとは思ってないですよ……さすがに変なこと言ってるとは思ってますけど」


「まあ、あいつらを追いかけてみれば付き合ってるかわかるんじゃないかなーって」


これがいわゆるバカと天才は紙一重かみひとえって言うやつか。


まあでもこの人少なくとも勉強に関してはむしろバ……


「よし、そうと決まれば、今からストーカーしに行くよ !」


すごい先輩に対して失礼なことを考えていたが、先輩は先輩で法律を作った人に対して失礼なことを考えていた。あと警察にも失礼というか迷惑だ。


「なにさらっと犯罪宣言してるんですか……ってまだ学校あと2時間ありますよ!?」


なんと先輩はスタッと立ち上がり階段を勢いよく下り初めてしまった。


一体先輩はなにを考えているのだろうか。というかこの状況は止めるべきなのだろうか。


……と考えていたのだが、先輩は踊り場でおもむろに止まった。


「なーんてうそうそ。流石に冗談だよ」


……え ?


「えっ、あっ今まで言っていたことは冗談だったんですね ?」


四度目の正直……なんて言葉はないがまあとりあえず念のため確認しておく。


「そう、冗談だよ。というか、私がストーカーになろうなんて言い出すと思う ?」


まあ、そりゃそうか。この人がそんなことが言うわけない……もんね。


「言わないとは思いますけど……でも先輩今、すごい本気そうに言ってましたもん」


普通に名演技であった。


「えへへ、ドッキリ大成功 !」


普通に心臓に悪いので、使う場所はぜひとも考えてほしいものだ。


まあ、先輩のとびきりの笑顔が見れたので、今回は良しとしよう。




~そして放課後~


僕は帰宅する時はいつも一人だ。


別にボッチというわけではない。


単に同じ方向から来てる人がいなくてしょうがなく一人ぼっちで通っているだけだちくしょう。


今日も一人ボッチで帰ろうとしたところ……


「……ん ?」


なんか今日ばかりはいて欲しくない人がいるなあ……


「後輩君、おつかれ !」


そう言いながら箕月先輩がいつものように笑顔を咲かせながら、こちらに手を振っている。


しかしいつもの笑顔の中になにか企みがあるような気がする。


「お疲れ様です」


しかしそれを前面に出すわけにもいかないので一応バレないように顔を取り繕っておく。顔が引き攣っている気もしなくもないが。


「じゃあさっそくストーカーしてみよっか」


やっぱり企んでいたらしい。


「まだ前科は必要としてないんで結構です」


そんな気はしてたけどなんてこと言い出すんだこの人。


この人はホントに西高トップファイブなのかと疑問を抱くが、そんなことを他の人に聞いたって意味がないのでこの疑問はゴミ置き場にでも置いてごみ収集車に載っけて焼却炉まで持っていってもらおう。


「まあ協力者が必要だから、あきらめて僕と契約して被害者《共犯》になってよ」


「深夜版プリ○ュアのウサギみたいなこと言わないでください」


なんか最近主題歌がMADにされてとんでもない風評被害受けてた気がするアニメをなぜ今ここで出す。


「こう考えてみなよ……西高五大美女にしこうごだいびじょと一緒に歩けるんだよ?」


なぜか先輩の口調が変わっているがまあなにか漫画の影響でも受けているのだろう。


「うーんそれなら……ってなりませんよ ?」


一体どこに美少女に言い包まれておいそれと犯罪行為をする輩がいるのだろうか。


…割といそうだが少なくともこの学校にはいないことを祈ろう。


「うーんなかなか釣れないねー」


「逆にそれで釣れるような人に見えます?」


「いんや。無理だろうね」


じゃあなぜやったと言いたいがここは表に出すのはやめておこう。


「まあそこは素直に諦めてください」


「やだ」


「子供か」


「そうだよ?まだ現役女子高生の子供だよ」


間違ってはいないが……たびたび本当にこの人が歳上なのか疑いたくなる。


「後輩にそんな姿見せていいんですか?」


「葉也君になら大丈夫」


「えぇ……」


信頼されているということなのかもしれないが、それはそれでどうなのだろうか。


「まあ別に葉君ならとやかく言わないでしょ?」


「まあそうですけど」


先輩はなんだかんだしっかりしているので、そんなに強く言ったりはしないようにしている。仮にも後輩という立場だからというのもある。


「あっそうだ!」


「どうしました?」


「ちょーと手出してくれる?」


突然なにをする気なのだろうかと思いながらも素直に先輩がいる方に手を差し出す。


「こうですか?」


「そっ、じゃあちょっと借りるね!」


え?と言う暇もなく、先輩は葉也の手を握り、葉也ごと走って連れ去ってしまった。


あっという間に校門を過ぎ、やっと葉也は何が起きているのか整理がついてきた。


「なにやってるんですか先輩!?」


「バカップルを一回見てみよっかなって!今だったらまだそんなに離れてないでしょ!」


「いややってることストーカーですよ!?」


「まあまあそう言わずに!っあ、やばいバランス崩した!」


「えっちょっと!?」

どうやら先輩は石ころか何かに躓いたらしい。自分は長ズボン

なので転んでも特にどうってことは無いが、先輩はスカートで素足そのままなので転んでしまったらひとたまりもない。


せめて自分がクッションになって怪我を防げないかと考え、葉也はどうにか先輩が上になるように倒れ込んだ。


そしてその上に箕月が倒れ、二人とも大きい怪我をすることなく横になった。


「っ先輩、大丈夫ですか?」


「わっ私は大丈夫。葉也君は大丈夫!?」


「自分も大丈夫です。良かった先輩が怪我しなくて」


地面と接した際ズサっと言う音が聞こえたが幸い、音の発生源は葉也だったらしい。


「ごめんね……私が走ったばかりに」


「いっいやそれはいいんですけど、そっそろそろ退いていただけると楽というかこのままだとキツイというか……」


そう、今二人は葉也の上に箕月が乗っかっている状態だ。


これで葉也が上だったら犯罪の匂いしかしないが、幸い逆なのでそんなことにはなっていない。


しかしそうは言っても箕月が乗っかり続けているのもマズイ。


「あっ、そうだよねごめん人が乗っかってたら重いよね」


「いっいや先輩はが重いってわけじゃないんですけど……」


流石に葉也も男なので箕月を支えきれないほどやわではない。


「っその、胸の部分があたってるというかなんと言いますか……」


「ふうぇ!?」


そう箕月のやわらかい凹凸が葉也に押し付けられているのだ。


そのことを伝えると先輩は一瞬で顔が赤くなり、とっさに葉也から離れ立ち上がった。


遅れて急いで葉也も立ち上がりパッパと服に付いた土埃を最低限叩いて取り除き、先輩を方を向きいた。


見ると胸を腕で隠した状態で変わらず顔は赤いままだ。


「その……マジですみませんでした」


いくら不本意なラッキースケベとはいえ流石に謝っておくべきだろうというより謝っても許されないことをした気がする。


「っいっいや今のは私が悪かったから……守ってくれてありがとね」


「そりゃあ大事な人が傷つきそうだったら誰だって助けますよ」


そう言うと先輩はただでさえさっきから赤かった顔が、発熱してるんじゃないかと思うくらいに、さらに真っ赤っかになった。


「先輩?どうしました?」


「っいま大事な人って……」


え?何か変なこと言ったのか?と葉也は思ったが、意味を理解した瞬間箕月と瓜二つな顔になった。


「あっあのその大事な人っていうのは、あの、後輩が先輩としてというかその、なんというか」


「そっそうだよね、うん言いたいことはわかったから、っそっそれくらいでいいよ」


文がグシャグシャになってしまっていたが、どうやら伝わったらしい。


この後、二人が歩く間には少し気まずい無言の時間ができるのであった。



先ほどのラッキースケベイベントをクリア?し、その後の新イベント「気まずい空気をなんとかしよう」はなんだかんだ箕月先輩がクリアしてくれたので、今は二人は歩きながらバカップルっ追っている。


二人は割と歩くのがはやい方なので、走らなくとも追いつくだろうという算段だ。


もちろんさっきのイベントを回避するためでもある。


そもそも、バカップルがほんとうはどこへ行っているのかを二人は知らないため本来追いようがないのだが。


なんとなく先輩の方を見てみると、先ほどの真っ赤っかの箕月はどこへいったのやら、ルンルンといった擬音が聞こえてきそうなほど機嫌がよい。


「妙に機嫌がいいですね?先輩」


ただ単に機嫌が良いだけならいいのだが、今はむしろ不気味なくらい機嫌が良すぎるので、なにが原因なのだろうかと問いかけた。


「だってさ、吹部のときも割と仲良かったけど、葉也君とおでかけすることなんてほぼなかったじゃん。だから嬉しいの!」


一瞬お世辞なのかなとも思ったが、気持ちが体に出まくっている以上、本当にそう思ってくれているのだろう。


「僕も嬉しいですよ。先輩と一緒におでかけできて」


語彙力がなさすぎる返事だが、まあ相手に伝わっているとは思うのでこれでもいいのだろう。


「ふふっ。よかった、同じ気持ちで」


先輩の笑顔も相まって、そういう意味ではないだろうと思っていても、少しドキッとする。

割と言っている側も恥ずかしいと思うのだが、よくもまあ先輩はスルスルと出てくるなと感心しながら、聞く側に徹しようかと葉也は考えていた。聞く側もなかなか心臓に悪いが。


「ところで、バカップルストーカー……というよりストーキングするって言っても、どうするんですか?」


このままこの流れが続くと葉也の心臓が持たないのと、純粋に気になっていたので話を切り替えることにした。


「うーん、まあ多分この先のららぽーとにいそうな気がするんだけどね」


「それ見つかりますかね?」


近所のイオンよりは狭い部類のショッピングモールだが、それでもかなり広いし、構造的にはむしろ近所のイオンの方が探しやすいまでもある。


「まあ見つかんなかったら、適当にウィンドウショッピングしてお茶すればいいんじゃない?」


「もう目的ほぼ変わってるじゃないですかそれ」


さっきまで走っていた意味はなんだったのだろう。あのラッキースケベイベントは別として。


「あれ、私とは嫌だった?」


そんなわけがない。


「っい、いえそういうわけではないんですけど」


むしろ嬉しいです。断るやつがいるのならそいつはかなり損をすることになる。


「ならいいじゃん。別にまだ観察するチャンスは一年以上あるんだし」


「来年まで続けるんですかこれ……?」


さすがにそれは勘弁してほしい。


「どうだろうね?それは葉也君しだいかもね」


なぜか少し挑発するような笑みで先輩はそう答える。


「なんで僕次第なんですか……」


どっちかといえば箕月先輩しだいだと思うのだが……


「ふふっ。なんででしょうね?」


一体その答えが見つかるのはいつのことなのだろうかとπの答えを求めるよりも難しそうなことを考えつつ、そうこうしているうちにららぽーとに到着した。


「おーこんな感じになってるんだー」


自動ドアをくぐった後先輩がそんなことを呟いた。


「あれ?もしかして先輩ここ来るの初めてですか?」


「いや、小学生のころに何回か来たかな。当時はスシローここにしかなかったし」


「あれっ、自分の家と同じ理由ですね」


さすがにそこが同じとはかなり意外だ。


「今じゃ近所にできたからわざわざ来ないけどね。どうする?そこに行ってまた食べてみる?」


「2時間前くらいに昼ごはん食べてましたよね?」


「冗談冗談。それにわたしそんなに大食いとかの部類じゃないし」


まあ箕月先輩はどちらかといえば小食の部類に入るだろう。あと甘党。


「それにもうここからはスシローいなくなってますからね」


「え!?そうなの!?」


いつかなくなったのかは知らないが、自分がたまたま入学説明会で立ち寄った時には既になくなっていた。


「今はちょっとお高めな回転ずし屋になってますね」


「高かったら回転寿司である必要なくない?あっでも近所にそんな感じの店あったね……」


おそらく先輩が考えているところは自分の予想と合っているところだろう。


「まああそこはあそこでレーンなくなるみたいですけど」


「まああれはね……しょうがないというかなんというか」


そろそろこの話も尽きかけそうなので、いい加減本題に戻るとしよう。


「で、結局このあとどうするんですか?」



「……ウィンドウショッピングしてお茶?」


「もう探すの諦めてますよね先輩」


「だってこんなに広いところ探せるわけないじゃん……」


いつのまにやら先輩はすこししょぼんとしている。


まあ場所を考えれば至極真っ当な考えだ。最初からそう考えてほしかったが、過ぎたことにどうこう言ってもしょうがないので、この言葉は心の底に沈めておこう。



「まあもうしょうがないですし、その辺見て回りましょっか」


「あっ!じゃあ葉也君さっそくこっち良さそうじゃない!?」


「立ち直り早いですね先輩」




先輩が立ち直ったあと、二人はウィンドウショッピングをしながらショッピングモール内を探索した。もう最初の目的からは外れまくっている。


さて一体この二人はなにをやっているのかというと。


「あっこれとかどうよ。でもこっちもいいかも……」


「ちょっちょっとまってくださいそんな一気に試せないです先輩」


箕月プレゼンツの葉也のファッションショーが開催されようとしていた。


「まあまあそう言わずに。あっこれいいじゃん」


「どっどんだけ着せるつもりなんですか……」


既に5セットくらい組み合わせができようとしている。まさかこれを全部試すということなのだろうか。


葉也はファッションセンスはそこまでないが割と服を選ぶのは好きな方だ。なのでこういうことには慣れてはいるが、ちょっと量が量だ。


もしかしたら試着室に持ち込み制限とかないものかと周りを見渡した。


とそうすると壁に試着室への持ち込み制限についてと書かれた葉也にとっては救いの一枚が張られていた。


ありがとう神様と思い内容を見てみると、そこには持ち込み制限はございませんのでご自由にお試しくださいと書いてあった。


「えっないの?」


思わず声に出た。


「ん、どした?」


声が聞こえたらしく先輩に問いかけられた。


「こういうところって一度に試着室に持ち込める服って2着くらいなんじゃないかと思ってみたんですけど、ここ制限ないらしくて」


「そうなんですよ」


「「ふうぇ!?」」


突然話しかけられ二人とも仰天した。


「あっ突然すみません。私ここの店員でして」


ああなんだここの店員さんか。


でもさっきまで一切気配感じなかったのだが……隠れ蓑術でも持っているのだろうか。


「っあ、ああここの店員さんなんですね」


先輩が若干動揺しながらも店員さんと話し始めている。


「ええ。まあ正確に言うとここの社長ですけどね」


「「えぇ!?」」


またもや二人は仰天した。


「えっと、ここの社長さん……なんですか?」


ほぼほぼオウム返しみたいになっているが、無理もない。


なぜなら社長さんらしい人は、どっからどうみても大学生……なんなら高校生のようにも見える容姿をしている。


「そうなんですよ。まあホントはもうちょっと後に継ぐ予定だったんですけどね。母がちょっと前に倒れちゃいまして」


今は元気なんですけどねと付け加えたが、まあなにかしら事情があるのだろうか。


「へぇ……失礼ですけどおいくつなんですか?」


「永遠の十八歳です♡」


あっなるほど、そういうタイプの人かなのかと葉也は思った。


「っへ、へぇそうなんですね」と言っているが先輩も若干引きつっている顔を見る限り同じことを思っているのだろう。


とりあえずわかることは、少なくとも十八歳ではなさそうだなということだけだ。


「っそ、それより。なっなにかお探しですか?」


若干滑っていることを感じたのか、店員さんというより社長さんは露骨に話をそらしてきた。


「えっとこの子に似合う服あったりしないかなーと思っていろいろ見回ってるだけで……」


さすがに直接見回っているだけというのを直接言うわけにもいかず少し誤魔化して伝えている。


「あっ、それならですねー、こちらなんてどうでしょうか」


先輩の思いなんてつゆしらず、店員さんはおススメを紹介しまくる。


まあ店員さん……社長さんは全くもって悪くないのだが。


「へぇ……結構似合いそう……」


おそらく着せられるであろう張本人がまったく喋ってないのだが問題ないのだろうか。


「ところでお二人ってカップルさんですか?」


「「っか、カップル!?!?」」


見事に二人ともハモっている。


「あれ、違いましたか?」


「っい、いっいやカップルではないというかなんというか……その、えっとこの子私の後輩君でして。ねっ?はっ葉也君?」


「っそ、そうなんですよ」


お互いにしどろもどろになりながらもなんとか返答している。


「そうだったんですね。失礼しましたー」


そう答えながらもちょっとなんとも言えない笑みを浮かべているように感じるのは気のせいだろうか。


「っそ、それより何か他にもあったりしますか?」


露骨に話をそらしている。さっきも似たような流れを見た気がする。


「んーそうですね。あっそういえばさっき新商品が来ましてね。あれ似合いそうだなと思うんですけどどうでしょう?気になるようでしたら今裏から持ってきますけど」


「お願いします」


めちゃくちゃ即決した。先輩が。


「ちょっと先輩?」


「じゃあ持ってきますので少々お待ちくださいー」


社長さん?


「まあまあいいじゃんいいじゃん」


「着るはずの本人の意思が一切ないんですけど」


「まあまあまあ」


「さっきからなだめかた雑すぎません?」


さっきからまあしか聞いてない気がする。


「まあ一回見てみてからでもいいじゃん」


まあいいか……


「ところでさ、その……今の状況、周りから見たらカップルに見えるの……かな?」


「っど、どうなんでしょうね?」


それに関しては客観的に見てみないとわからなそうだ。


「葉也君はさ、その、私とカップルに見えるのって……いや?」


「いっいえ、っそそんなことはおも」


「お待たせしましたーってあれ、なんか私邪魔でした?」


見事に裏から戻ってきた社長さんが遮ってきた。しかし今のは救いだったかもしれない。


「いっいやそんなことないですありがとうございますええ」


ちゃくちゃ早口で喋ったので社長さんはきょとんとしてしまったが、少し考えた後ああなるほど、と納得した様子だったので特になにか聞かれることもなかった。なにをどのように納得したのかはわからないが。


さて社長さんから渡された服を見てみたのだが……


「あの……これなんか凄いですね」


色は黄色めなオレンジで若干派手だし、今まで葉也が来たことないような服なのだ。というか


「あれ、これ……チャイナドレスでは?」


「あっバレました?鋭いですね」


いやどこに男性客にチャイナドレスをおススメする店があるというのだろうか。まあさすがにこれは社長のおふざけだろうが。


というかこれこの店で扱うものなのか?


「これ本当にこの店で売るやつなんですか?」


だとしたらここの店はしばらく使わないことにしよう。


「いや、さすがに違いますよ。なんかこの店の前に入ってたテナントさんが移転する時忘れていったものらしくて」


「じゃあそのテナントさんに送り返しましょ?」


「いやどうせ捨てる予定だったからそっちで処分してくれって言われてね……こんなにきれいなのに」


「だとしても男性客に出さないでくださいよ……」


「ごめんごめん……あっ!」


なぜか店員さんの目が光だし、とある方向を向いた。


店員さんが向いた方向には……


「えっわたし?」


箕月先輩がいた。


「ちょーどいいじゃん!ちょっと君これ着てみて!」


初めて来たお客さんにチャイナドレスを着させる店員などここ以外にはいないだろう。


「っい、いや、わっわたしには似合わないと思いますようんそうだと思いますよだからやめ」


「後輩君ちょっとこの先輩借りるねー」


「ちょっと待てー!あと葉也君助けろやー!」


残念ながら自分はあの人に対抗できる自信がないので手を振ってお見送りすることにした。ごめんなさい、先輩。



さて先輩がしゃちょーの手によって連れ去られてからしばらくした後、社長さんに呼び出されて裏の方へと回った。


「あっ、っそっその、あんまり見ないで……」


チャイナドレスを着ためちゃめちゃかわいい箕月先輩がいた。


いつもはそこまで主張をしない先輩の胸が、今ばかりはとても強調されているがそこには触れないことにはしておこううん。


幸い胸が開いているタイプではないこともありある部分の起伏以外はあまりエッチさも感じさせずとてもかわいく、そして少しかっこよく仕上がっている。


「っどっどうなの?葉也君?」


先ほどからめちゃめちゃ顔を真っ赤に染めた先輩が問いただしてきた。


「っそ、っその、めっちゃかわいいです」


「っそ、っそう。なっなら着てみた甲斐があったよ」


さて、いくらあまりエッチさを感じさせないものとはいえ、それでも目のやり場に困るのだがどうしたものだろうか。


……ところでさっきから青春だねーとか言っている戦犯がいるのだが一回蹴ってもいいだろうか。


「っせっ先輩。じゃあ僕は店の外で待ってますので……」


「っう、うんわかったすぐ着替えてくるから」


ということでさっさと店の外へと出ることにした。


途中で少年よ、もっと見なくてもいいのかい?とか言った人がいたが軽く足の先を踏んでおいた。あのくらいならバチはあたらないだろう。




店の外で先輩を待ち始めてから軽く三十分が経った。


まあ自分なんかよりはよっぽど着替えたりするのに時間はかかるだろうけど、にしても遅くないかと葉也は考えていた。


またあの社長が変なことをしてないと言いのだが。


そしてそこからまた十分経ったころ、ようやく箕月先輩が店から出てきた。


「いやーごめんね。あの後あの人にまた遊ばれちゃってね」


葉也の予想はあっていたらしい。


「やっぱりですか……本当にお疲れ様です。ところでその右手に持ってるのは ?」


先輩の左手を見るとは何か紙袋をぶら下げている。


「ああ。私が着せ替え人形にされてる時に、割と気にいるやつがあってその場のノリもあって買っちゃった。あの人ああ見えても服に関してのセンスはあるんだよね。流石社長」


一応名ばかりではなかったらしい。葉也に着せようとしていた服も割とセンスがあったので、服に関しては服を売っているところらしくきっちりとしているのだろう。ただしチャイナドレスを除いて。


「ん ?あれこれなんですか ?」


「え ?あ、ちょっとそれはその」


なぜか紙袋の中にはとても見覚えのある黄色めのオレンジの服が見えている。


「……これ、もしかしなくてもさっきのチャイナドレスですよね ?」


「……はい」


ちょうどこの中に例のものは入っていたらしい。


「まさか買ったんですか ?」


まさかね?と葉也は思いつつ念のため尋ねてみた。


「いや、あの人に君に似合ってたしもううちが持ってても邪魔になるだけだからからタダで持ってっちゃていいよって言われて……その、つい」


まあ理由は予想通りではあった。


「でもそれ持って帰ってどうするんですか?使う時ないでしょうし。まさかコミケのコスプレブースに行くわけでもないでしょうし」


少なくとも先輩にコスプレの趣味があると聞いたことはない。もしかしたらあるのかもしれないが。


「んーそうだね。そりゃあ確かにあるかと言われればそんなにないけど……例えば葉也君がうちに来た時とか?」


「ふ、ふうぇ!?いやなんでその時なんですか、てかなんで僕が先輩の部屋に入る前提なんですか。仮にも自分男ですよ!?」


そりゃチャイナドレスを着た箕月先輩はとても魅力的だが、そうやすやすと見せられても困る。というより別に付き合っているわけでもない男子が女子の部屋に入るのはいろいろとまずいものがあるだろう。


「ふーん、葉也君もそういうこと考えるの?」


先輩が挑発してくるような笑みで訪ねてくる。


「っそ、っそりゃ僕だって男だからあるにはありますよ」


「不埒なことも?」


「っふ、不埒なことも」


なんてことを言わせるんだこの先輩。


「そっか、ふふ。かわいい」


そう言うと先輩は葉也の頭を撫で始めた。


「なんでそうなるんですか」


さっきまでの会話でどうやったらその言葉が出るのか。葉也も葉也で抗議するが、割と箕月のされるがままになっている。


「……いつまでやってるんですか」


撫でられ始めてから軽く三分くらい経っている気がする。


幸いこっちを見てくる人もいないが、とても恥ずかしい。というか二人とも立ちっぱなしの状態で撫でてたり撫でられたりしているのでまあまあシュールな光景だ。


「ん、じゃあ今はこれくらいで我慢してあげる」


「またやるんですかこれ」


「いやだった?」


もうすでにしてしまったこともあり、ちょっと不安そうな顔で箕月先輩がこちらに訪ねてくる。


「っい、いやでは、ないですけど。その、場所は、考えてほしいです」


そう伝えると先輩は嬉しそうにそっか、というのであった。




ウィンドウショッピングを終え、二人はショッピングモール内の有名チェーンのカフェにやってきた。


「はい、どうぞ」


「葉也君、ありがと」


「どういたしまして」


箕月先輩に席を先に取ってもらい、葉也がレジに注文しに行き、注文した品を受け取ってから箕月のもとへ戻ってきた。


ちなみに二人とも飲んでいるものはコーヒーだ。


「はあー疲れた!」


先輩が疲れた身体をほぐすように腕を上に伸ばしている。


「ホント、疲れましたね。誰のせいとは言いませんけど」


「まあ、それでもなんだかんだ楽しかったでしょ?」


「それもそうですね」


そういえば、ずっと先輩と一緒にいたのだが誰かしら知り合いに見られてしまっているのではないか。そう思い、葉也は箕月に尋ねた。


「んーどうだろ。まあ見た感じ同じ高校の人数名見かけた気がするけど、知り合いじゃなかったし大丈夫じゃない?」


「でも男女でここにいる人ってあんまりいないんじゃないですか?」


「そんなことないんじゃない?割と私のクラスでもカップルの人とかいるし、なんなら学年内でもそれなりにカップルとは言わずとも常に男女でいる人はいるし。まあ私達がバレたらバレたで、堂々とカップルです!って宣言すればいいんじゃない?」


「先輩は僕を校内で殺す気なんですか?」


そんなことをしたら、学校の男子の半数以上を敵に回すことになる。


「ウソウソ。それに、もうちょっと葉也君との関係は内緒にしていたいかな」


「ゴホッ、ゴホッ」


葉也はお手本の様にむせた。


「あ、あれ?葉也君大丈夫?」


「だっ大丈夫です。ちょっ、とむせただけです」


「っそ、そう。大丈夫そうならよかった」


そこから葉也が落ち着くまで、軽く五分ほどかかるのであった。



「そういえばさ」


箕月先輩がそう切り出した。


「どうしました?」


「明日って土曜日じゃん?」


「えーと今日が金曜だから……たしかにそうですね」


「土曜日って部活動の休日練があるでしょ?」


「まあ確かにありますね」


……ん?


「先輩、まさかとは思いますけど」


「そっ、多分葉也君のご想像の通り」


「結局またやるんですね……まだ一年あるからとか言ったのはどこの誰ですか」


「そりゃあ言ったけど、一年って意外とあっという間じゃん。私と葉也君が一緒に隣で吹いてたのも一年間だったし、あっという間だったでしょ?」


「それもそうですけど」


「まあ付いてきてくれたら、また撫でてあげるから」


「それで乗っかるとでも ?」


「あれ、本当にいいの?」


この悪魔め。


「……わかりましたよ。僕が行かなくても先輩一人で行きそうで怖いですし」


そう、決してぶら下げられたニンジンにまんまとつられたわけではない。決してない。


「あれ私そんなに信頼ない?」


「ストーキングしようとか言ったのはどこの誰ですか」


「うぅ……それ言われるとなにも言い返せない」


「まあ、明日も付いてくので、無茶するにはやめてくださいよ?」


「肝に銘じておきます……」


「まったく……先輩変なところでポンコツなんですから」


「誰がポンコツだって?」


「いだいイダイ」


ポンコツという言葉に気が触った箕月が葉也の頭をグリグリしている。もちろん、本気でやっているわけではないが。


「イタイいたい、ギブ、ギブです生意気な口聞いてすみませんでした」


「よろしい」


言葉とは裏腹に、満足げといった表情をしている。


「もう、今のは自分が悪いですけど、他の人にこういうことしてないでしょうね?人によっては勘違いしますよこれ」


西高トップファイブとなればなおさらだろう。


「だいじょうぶ。葉也君以外にはしてないから」


「……そういうこと言うのもやめてください」


「えっ?なんでよ!?」


「なんでもです。まったく」


「なんで私がわるいみたいになってるの?」


「いやまあ先輩が悪いかと言われたら微妙ですけど」


「ならなおさらなんで?」


言われた側は、そうじゃないと分かっていても

少しばかりドキッとするのだ。


絶対本人の前では口には出さないが。


「さっ、じゃあそろそろ時間も時間だし帰ろうか」


あれからいろいろとほんにゃらごんだら雑談をしていると、気づかぬうちに割と時間が経ち、二人とも帰宅する時間になった。


「そうですね。あっ、僕が片づけますよ」


箕月先輩がトレーを持って回収口に持っていこうとしていたので自分がやると名乗り出たのだが「頼むとき葉也君が持ってきてくれたからこれくらいやらせてよ」と言われてしまったのでおとなしく後ろについていくことにした。


箕月先輩が片づけ終わり、二人はお店から退店した。


二人は同じ中学校出身であるため、その付近までは帰り道は同じだ。


なので何も話したりはしていないが、自然に一緒に帰る流れになったようだ。


「はぁーこっからまた学校前のバス停まで歩かないといけないのかぁ」


さすがに先輩もいろいろとあって疲れたからか、ちょっとダルそうな感じがしている。


「いや、たしかそこまでいかなくても帰れますよ」


「ほんとに!?」


さすがに大げさすぎないかと思ってしまうほど、信じられないと言った顔をしている。それほど疲れているということなのだろうか。


「ええ、たしかすぐそこの駅からいつも使ってる駅までのバスが出てたはずですよ」


駅から駅へのバスと聞くと人によっては違和感を抱くかもしれないが、ここのすぐ近くの駅は鉄道では直接いつも使っている駅とは繋がっていないため、代わりにバスが運行されている。


「へぇーそうなんだ。便利だね!」


「そうですね。じゃあ乗り場まで行きましょうか」


そんなこんなで二人はいろいろとあったショッピングモールを抜け、バス乗り場へと歩いた。


バス停に着き、次のバスが来るまで待っていると、箕月先輩のスマホに電話がかかり、ちょっと移動して通話するねと言って相手と話し始めた。


バス停付近という本来ならある程度人がいるところでは通話は避けた方がいいかもしれないが、幸い今は周りでバスを待っている人はおらずバス停を通り過ぎていく人しかいないのであまり問題ないだろう。


人によっては肝心かもしれない内容だが、さすがに他人の会話を盗み聞きするのはあまりよろしくないので葉也はできるだけ聞き耳を経てないようにしている。


しばらく経ってバスが来てしまったのでまだ通話している先輩を呼び戻す。


「先輩、バス来ましたよ」


「ん、ありがとう。ああ、じゃあごめん。バスが来ちゃったから一回切るね。うん、うん、えっ今の声?葉也君葉也君」


自分のことを知っている人と話しているのだろうか?


「いま?いやだってもうバス来ちゃったからもう無理だし。うん、それじゃ、また今度。うん。わかってるって。また遊びに行こうね。うん、じゃあまたね」


遊びに行くほどなので、割と親しい人とだったらしい。とそうこう考えているいると、先輩が電話を切りこちらへと戻ってきた。


「ごめん待たせちゃって」


「全然大丈夫ですよ。まだバス出るまで時間ありますし」


「そっか。まあ早いうちに乗っとこうか」


「そうしましょう」


さっそくバスに乗り込むと、車内は案外空いていた。


箕月先輩は手早く二人掛け席に座ると、葉也君もこっちにおいでよと隣を勧めてきた。


葉也は一瞬ためらったが、さすがに別の席に座るのも変なので素直に従うことにした。


葉也は席に座った際にふんわりとしたいい匂いがした気がしたように感じたが、いろいろとダメになりそうなので感じてないことにした。


とそんなことを考えていると、箕月先輩の手が葉也の手に重なった。


「ふうぇ!?」


葉也はなんとか大声を出さないようにするので精一杯だった。


「ふふっ、びっくりした?」


「っそりゃびっくりしますよ。いきなり手握られたら。しかも女子に」


むしろ彼氏彼女とかでもない限りびっくりする人が大半だろう。


「にゃはは。ごめんごめん、ちょっとからかおうかとってうそうそ嘘だからそんななにこいつみたいに睨まないで」


普通にからかわれている気がするのだが。


「じゃあなんなんですか」


「撫でたかったからその代わり?」


どういうことなのだろう。


「それ代わりなんですか?」


「また撫でたかったけどさすがにバスのなかだと恥ずかしいかなと思って」


「どっちかといえば手繋いで……るわけじゃないですけど、さっきのやつの方が恥ずかしいですよ。どっちも恥ずかしいですけど」


普通に心臓に悪いというかなんというか。


「でも他の人には見えないでしょ?」


「そらそうですけど」


他の人に見えるか見えないかじゃもちろん恥ずかしさは変わるが、手を繋ぐのと別のなにか場合は例外じゃないだろうか?


「僕たち付き合っているわけでもないのに」


「別に付き合ってなかったら手繋いじゃダメってわけないじゃダメでしょ?」


「そうですかね?」


「そうだよ、別に誰かが付き合ってないと手繋いじゃダメって決めたわけじゃないし」


まあ、たしかに先輩の言っていることにも一理ある。


「それに小さい頃なんて「男女で手繋いでー」ってことあったでしょ?それやってるんだから大丈夫よ」


「なんかそれとこれはさすがに違う気が……」


片や精々6歳以下くらいの子供の話だが、片や低くても15歳、先輩なら16歳の話である。さすがに無理がないだろうか。


「もー、葉也君はごちゃごちゃと考えすぎ!たまにはそんなに考えなくてもいいでしょ!」


うーん、そうなのだろうか。


そんなことを考えていると、先輩は単に重なっていた手を放し元の位置に戻すかと思いきや、葉也の手をしっかりと握った。


葉也はまたびっくりしたが、先輩から文句は言わせないといった笑顔を向けられたので、おとなしく繋がれたままにすることにした。


心臓がドクドクと波打っているが、気にしてはいけない。気にし始めたらいよいよ先輩に負ける。既に先輩からいろいろとされているので負けている気がするが。


気づくといつのまにやらバスが出発しており、車内にはあとから乗ってきたと思われる乗客が数人座っていた。


しばらく無言のままバスが進んでいると「すぅ、すぅ、すぅ」といった音が隣からし始めた。


ん?と思い葉也は横を見ると、どうやら箕月先輩がは夢の世界へと入って行ったようだ。


眼はしっかりと閉じられており、ときおり呼吸に合わせて首が少し動いている。


(かわいい)


葉也はそう思った。別に箕月に対してかわいいと思ったことは何回もあるが、この時のかわいいと思った気持ちはいつもと少し違った気がした。


「……」


葉也は左手で箕月先輩の頬をすこしつついた。右手は寝ていてもしっかりと握られているので使えない。


女子の頬をつつくのはどうなのかともいわれそうだが、さっきからからかわれ続けているので、少しくらいやってもバチは当たらないだろう。


ぷにぷにしてる、と思いながら数回つついていると、箕月先輩から「んん……」という声がした。


少しやりすぎて起こしてしまったのだろうか。


そう思ったのだが、すぐに先輩は再び寝息を奏で始めた。


起こしてなくて良かったと葉也が思ったのも束の間、今度は先輩が葉也の方へと倒れ、肩へと寄り掛かった。


(なんでえー!!)


しかし葉也の心の叫びも虚しく、犯人は相も変わらずすやすやと寝息を独奏中だ。


さてどうしたものかと葉也は冷静になって考え始めたが、その冷静さは5秒ももたなかった。


結局葉也はとりあえず起こさないようにがんばろう、うん、そうしようとなんとかひねり出した対処法を自分に言い聞かせ、この体制を維持しようと心も体もガッチガチにさせるのであった。ただし一か所を除いて。


心なしかこの時はバスの振動が少なく、妙に速度も遅い気がした。気のせいかもしれないが。

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