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【賢い主婦の節約と消えたトイレットペーパー】

 王城で経理を担当する文官より、節約において優秀なカリスマ主婦の転落とヤーリフ邸が解放しているトイレットペーパー消滅事件をお話しする前に、覚えもらいたい事がございます。


「トイレには、それはそれは優しい神様が居て」という話は大嘘であり、捜査官コロンビアの大衆娯楽劇『コロンビアその真実の愛』が超駄作であるという真実が、その事件と許しがたいコロンビアの悪行であるというネタバレで、世界が滅びるが良い程度の事実である事でございます。


 おのれコロンビア!

 貴様が王族で9歳年上の公爵家令嬢である乳母に求愛する変態だとは!

 そんな変態は、国王1人で間に合ってるんだよ!

 私ことメルリンダ・グレイスの2年間に及ぶ膨大な時間を返せぇ!


 グレート・バリー・ヤリーフ邸の隣の屋敷が無人となり、気がつけば平民達が集まって住む集合住宅となっておりました。


 月日が経過するのは速いものです。

 奥様の元旦那様と執事が、病死した死体をも残さず使用人ごと全て消え失せた2時間後に、冷めた料理を食べながら住む事になった平民達が自己紹介をしていたのですから。


 肌と髪が黒ベタ。白い弧線を描く胡散臭い糸目メイドのメルリンダ・グレイスの給仕は素晴らしく、隠密スキルを最大限に使った歓談の場を一切邪魔しない上に、存在感を感じさせないものでありました。


 あ、申し遅れました。私が存在感の無いメイドのメルリンダ・グレイスでございます。


 食事会を兼ねた歓談が終わり。各自住む事になる部屋を立候補からの抽選会で決めた平民の皆様は、貴族邸宅に付きものの高く売れそうな外見をしたレプリカを根こそぎ持ち帰りましたのでございます。


 もちろん宝物庫に入れておいた、明らかに偽物だとわかる玉璽(ぎょくじ)と王冠と王妃冠もでございます。


 貴族ではない平民という人々は、ヒ素という毒性の高い鉱物…つまりヒ素という石が水に溶けやすく無味無臭であるという知識もなければ、誰も雇い入れている使用人がいないのに炊事・洗濯・清掃が滞りなく済んでいる事になんの疑問も持たない人々でもありました。


 お代わりの紅茶でございます。重さと量の割に味が薄いのですか?

 こちらの重すぎる砂糖とミルクは、高名な作家様への国王様からの手土産という、一生で一度しか口にできない代物でございます。心ゆくまでお楽しみ下さい。


 平民達ほシェアハウスとなったこちらのお屋敷でございますが、こちらのトイレにはトイレットペーパーというモノが補充される事はございませんでしたので、豪華なレプリカが部屋に詰め込まれましてもその暮らしは不自由なモノでありました。


 なにせ家事は済んでいても使用人の姿を見ることが出来ませんので、トイレットペーパーの補充を命じる機会がございません。


 紅茶のお代わりはいかがですか?

 好きなだけお代わりをお入れいたしますよ。なにせどれほど求めようとも、こちらの紅茶を飲む事はこの機会以外で二度とあり得ないのでございますから。


 お砂糖もミルクもお好きな量をお使いくださいませ。大量に御用意致してございますから。


 豪華なレプリカを売却してトイレットペーパーを購入したり、互いにお金を出し合ってトイレットペーパーを購入するのはなんとなく嫌というのも平民でございます。


 そこでこの屋敷の住人達は考えたのでございます。


 どうせ公衆トイレのトイレットペーパーが使われるのだから、持ち帰れば良いのだと。


 それを実行しても誰も何も言いませんでしたので、その三日後。奥のトイレにございます大型のデラックス寝台と平民達が使っているシングルベッドを交換したら良いと貴女様はおっしゃったのですね。


 いえ。怒ってはおりませんよ。感心したのでございます。


 お腹たぷたぷだから、砂糖とミルクが全て欲しいのですか?


 どうぞ。好きなだけ差し上げますが、明日には貴女様が口にする事はできませんよ。

 転売してもよろしいのですよ。私は一切(とが)めたりはいたしません。


 今すぐ転売の手配ですか?

 かしこまりました。こちらの書類にサインと指紋の押印をお願いいたします。貴女様が販売したという確実な証拠となりますので。


 それからこの屋敷では、隣の公衆トイレのトイレットペーパーと寝台を使うようになりました。

 シングルベッドをその公衆トイレに運び入れるのが面倒になったので、隣の美しい公爵令嬢が使用したと嘘情報を交えて。


 粗悪な木材で素人平民が組み立てたシングルベッドにしては、かなりの高額で販売できたとか。

 私、メルリンダ・グレイスは感心するばかりでございます。


 さすが捜査官コロンビアを書いたカリスマ主婦でございます。


 国王様は犯罪を犯す人間が生きてる事がなんとなく嫌なタチでございますのに。 国王陛下最愛の王弟様が暮らすヤリーフ城の隣に盗みに入るのですから。


 そうそうトイレには神様はいらっしゃらないのです。

 トイレットペーパーやトイレ内の備品などは、国王の趣味の対価として配布されたモノでございますので、本日未だに二度と目覚める事の無いこの屋敷の住民の方々の肉体が対価となります。


 何を言っているのか? ですか?


 貴女様以外の皆様は剥製になってしまいます。

 ヒ素毒で意識が遠くなっていく貴女様は、この屋敷での不可解な失踪事件の黒幕としてこれから死刑台にセットされるのでございます。


 私やってない?


 存じてございます。

 しかしながら、国王様の趣味のせいで起きた失踪事件の犯人役が必要なのでございます。

 節約と称して鉛筆や消しゴム等の消耗備品の窃盗や、販売店の試食品を持ち込んだ弁当箱に毎日ギュウギュウに詰め込んで一切買うことのない行為を繰り返し、その犯行を節約と称して喧伝するのを見過ごしては治安に関わります。


 ちゃんと方に則って判決を下せ。窃盗なら窃盗で済む話で死刑はおかしい?


 そのような事は一切ございません。


 目には目を歯には歯をが、当国の法でございますが、貴族による平民殺害は最高刑で硬貨数枚でございます。しかもその黄金の硬貨は平民の遺族に支払われる事がないのでございます。


 では二度と目覚めぬことのない深い眠りをご堪能くださいませ。


 この世界の国王陛下という名の唯一の神は、血族を除く全ての生きている人間に対して、興味が一切ございません。性別が半陰陽(アンドロギュヌス)であるが故に、国王様の兄である事実を隠された腹心の部下である私メルリンダ・グレイスはよく存じ上げております。


 ではごきげんよう。良い黄泉路を。

お疲れさまでした。

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