86才童貞。遺産目的の彼氏持ちJKと結婚する
私は『鉾田たもつ』として86年生きた。
多くの経験をし、多くの金を得た。
仕事仕事の人生。
気がつけば周りには誰もいなかった。
家族を作らなかった。
仲間を作らなかった。
友を作らなかった。
金の為だけに生きてきた。
恋というものは13の時に恋文を書いた時以来していない。
その頃の事を思い出すと「もっと恋をすればよかった」と後悔が涌いてきた。
なので
「……一度ぐらい結婚するか」
とネットで妻を募集した。
『鎌田たもつの嫁オーデション』じゃ。
応募条件は
「年齢16~灰になるまで」
「恋をさせてくれ」
「大病の為。1~2年で死ぬ予定。それでもよい方」
金とは恐ろしい。
多くの女が集まってきた。
いや、金に群がる人間は実に醜い。
嘘の愛の言葉やどれだけ自分が金に困ってるかをまぁ~語るわ語る。
「愛してる?」「一目惚れ?」
嘘をつくな。全員金目的のくせに偽るな!たわけ。
そんな中一人目立つ子供がいた。
名を「あさみ」。年は16だという。
話が上手く実に面白い。
「結婚したい彼氏がいます。あなたの事は愛せません。あなたなら襲われる心配もなさそうなので応募しました。一年待てば遺産まで貰えるなんて最高です!」
正直すぎて笑ってしまった。
「×は一つつきますが。彼氏も大金が入るならと許してくれました」
彼氏公認か!ハッハッハッ!
私はこの娘と結婚する事にした。
86才初婚で16才の嫁とは面白い。
たくさんの団体が慌てて結婚を止めに来る姿を想像して笑った。
わしの遺産は全部寄付されると思っていただろうからな。
ざまぁみろ。
・
結婚して分かったが、あさみは実によく働く娘だった。
家事と私の介護をこなしながら高校にも通い、彼氏ともうまくいっているようだ。
面白くていい嫁を貰った。
・
「うーん。今日はとうとうベッドから起きれんかった。あさみよ。私はそろそろかもしれん」
「あら。じゃあやっと私はバツイチになれてお金もたんまり貰えるのね?」
「ふひゃひゃ!おもしろ……げほっ!ごほっ!」
絡まった痰をあさみが吸引器で取り除いてくれた。
本当に正直で働き者の良い妻だ。
流石に70も離れているので恋は出来なかったが、友達……うーん。『孫もどき』が出来たようで楽しかった。
「おばあさんの……」
あさみは椅子に座りスマートフォンをいじりながら語りだした。
「宝物があるのよ。これ」
「ん~?」
「ボロボロになっちゃったからコピーなんだけど」
何だろうか?下手くそな字だなぁ。
コピーしたとあって余計に読みにくい。
文字には性格が出る。
こりゃあ書いた男はろくなやつではないな。
「それあなたが書いたラブレターですよ?」
「あぅ?」
おお。そう言えば……この字は私だなぁ。
中々情熱的かつエロチックな恋文だ。
しかしこれをなぜあさみが?
「あなたはひいおばあ様の初恋の人なんですよ」
「ひい!?」
「そこですか?驚くの?」
そうか。私も孫どころかひ孫がいてもおかしくない歳か。
そりゃあぼちぼち死んでも仕方がない。
あさみのひいおばあ様。
私の初恋の女は私をずっと覚えていてくれたらしい。
私が新聞に載る度に、本が出る度に、テレビに出る度に「この人は私の事が大好きだったのよ」
と自慢したそうだ。
「どうしてあの時おばあ様をふったんですか?」
「ふったぁ?」
私がふったのか……?ふった?何故だ?大好きだったのに。
告白しといて?
覚えていない。
「……怖かったのかな」
男として一人の女を一生食わせていく自信がなかった。
そうだそうだ思い出した。私は臆病な少年だった。
それをきっかけに私は変わって勝負の鬼になった。
彼女がいたから私は成功できたのかもな。
……でも。
「私が逃げなかったら私は彼女と夫婦になっていたかもなぁ」
「そうなると私たちは夫婦になれなかったね」
「そうだな。人生とは面白い」
よし!私の人生には二人妻がいたということにしよう。
満ち足りた気持ちで私はあの世へ旅立ったのだった。