今の力1
本日の投稿は以上となります。
カミエラの退出した執務室に、ルーデリアは手元の書類を見て考え込むのだった。
(さて、どうしたもなのか)
現在の異常事態、ある程度の現状は把握できた。課題もある程度見えている。しかし、どのように動くべきか見えていなかった。
(なぜ、このような事がおこったのかもわからず。わかっている事は、ここが異世界ということだけ。アカノツキもいるとなると大きく動くのは危険か)
正直にルーデリアにとって恐ろしいのはアカノツキの動向であった。あの女がいなければ、即座に近くの小国に軍事進攻すればよい。それどころか、この世界の裏側まで手を伸ばせるだろう。だが、あの女がいてはそれも慎重に行わなければならない。もし、あの女の琴線に触れれば、全面戦争になりかねない。それは、態勢の整っていない我が国に甚大な被害をもたらすことになる。
(いや、逆に動くなら今ということか)
こちらだって態勢が整っていないのだ。今なら、向こうも態勢が整っていないはずだ。それなのにこちらを攻撃するだろうか。さすがにそこまでは、ないだろうとは思う。だがあの女の考える事だ。何とも言えない。
とはいえ、このままでは何も動くことができない。派手に動くなら今しかタイミングがない。
(どちらにせよ、やるならある程度は言い訳のできるようにはしないといけないというわけか)
そこまで考えて、ルーデリアは一度、考えるの中断した。少なくとも、動くための言い訳も今は、思いつかない。そこで、少し体を動かそうと考えた。
(それに、自分の力もある程度調べてみたいしな)
この世界にきて、魔法自体は使える事が分かっている。しかし、攻撃系の魔法やスキルの方はどうなっているかわからない。特にスキルが使えない場合、アカノツキとの戦いで大きなハンデとなってしまう。
(そうと決まれば、地下の練習場にでも行くか)
この城には地下の練習場がある。そこに行けば、体を動かすのに問題はない。また、そこならば自分以外の人間が入ってくることはない。自分の能力を試すのには持ってこいだ。
そう考えると、ルーデリアは机の上にある呼び鈴を鳴らした。すると、コンコンというノックの音と共に「失礼いたします」という声がドアの外から聞こえてくる。
そして、音もなくドアが開き、外から静かにヴィクトリアンメイド服を着たメイドが入ってくる。彼女は城内いるメイドの一人である。彼女たちは、義務教育を終えた後に、メイドとしての素質のある者たちの中で更に厳しい訓練と試験を潜り抜けた者たちである。その所作はとても洗練されたものであった。
「失礼いたします。御用でしょうか」
「これから、練習場に行く。もし、尋ねる人物がいるようだったら。そこに来るよに伝えよ」
「承知いたしました。陛下」
それを伝えると、ルーデリアは椅子から立ち上がり、練習場へと歩みだした。
――――――――
ルーデリアは練習場についた。そこはとても広大な場所であった。天井には、外を思わせられるようにきれいな星空が浮かんでいる。もちろん、本物ではない。この場所を作った時に高い壁紙アイテムによってただの天井から張り替えたのだ。なかなかの課金が必要だったが、その出来には今でも満足をしている。
「さて、何から始めようか」
ルーデリアは練習場の玄関部分で悩んでいた。こんな未知の事態である。確認することはたくさんがあるが何からすればよいか、選択肢がありすぎて困ってしまう。これからの方針もある。なるべく時間をかける事はできなかった。
「そういえば・・・アイテムは出せるのか?」
ルーデリアはどうしようか考えていると、ふとそんなことを思った。というのも、アイテム自体、はインベントリーに収納しているのだが、そもそも、インベントリーにアクセスする為には【操作窓】からしかアクセスできないのだ。もし、【操作窓】以外の方法でアクセスできないとなると大変なことになる。
「とは、言っても。どうするべきだ?」
あれやこれやと試してみたが、一向にインベントリーが開いた感覚はなかった。やはり、インベントリーは【操作窓】同様に使えないと見た方がいいだろう。
「・・・しかし。インベントリーが使えないとなると・・・アイテムはほとんどが、ぱぁ。か」
長いゲーム生活で溜めた大量のアイテムはこれからの生活で活かせるものが多かったのだ。なのにそれが使えないとなると大きなハンデになるだろう。
「まて、【空間】ならどうだ?あれなら、インベントリ―とは別だ。それに魔法でもあるのだから使える可能性がある」
【空間】とは、物を収納する魔法のことである。この魔法は5個のアイテムしか登録できないものであった。しかし、インベントリーとの大きな差別点はこの魔法は唱えればすぐにモノを取り出せるという点だ。インベントリーを使用する際は視線をインベントリーアイコンに合わせ、そしてその膨大なアイテムの中から目的の物を探さないといけない。それに対し、【空間】はセット番号を唱えるだけで、そこに装備されているアイテムが自動で手に収まる仕組みになっていた。その為、プレーヤー同士の戦闘中などでとても重宝されていた。
「試してみるか・・・【空間01】」
【空間】のセット番号を唱えてみる。すると、手の中でズシリと重みを感じた。どうやら成功したようだ。見てみると、手には黄金に輝く蛇の装飾がされた杖が握られていた。
「『核蛇の杖』か。そういえば、緊急戦闘用にこれを登録していたな」
『核蛇の杖』とは、ルーデリアが戦闘で使用するメイン武器の一つである。これは『核蛇』という希少位モンスターのドロップアイテムから作成可能であった。
モンスターの討伐難易度も高く、少々、作成がめんどくさいアイテムなのだが性能は割と良い。アイテム効果は、使用魔法のMP消費量の40%カットと魔法の連射速度の上昇であった。
元々、ルーデリアの戦闘スタイルはタンク系魔法職という、「エデン」特有の特殊なビルドであった。「エデン」では、通常のゲームと違い、職業のようなものは存在しない。種族によって能力が特化されている。そして、ルーデリアが選んだスライム種は、タンク系の能力に特化した種族であった。高い防御力を誇り、豊富な状態異常スキルにより相手をじわじわ追い詰めていくのを得意としていた。しかし、『神化の指輪』のおかげで、「神種」になることで新たな可能性を手に入れた。それが「古き始まりの粘性体」である。「古き始まりの粘性体」は進化前の「混沌の粘性体」の防御スキルや状態異常スキルを受け継ぎながら魔法特化のキャラクターであったそのため、高い防御力で粘りつつ、状態異常で削り、威力の高い魔法攻撃でトドメをさす。それがルーデリアの攻撃スタイルになっていた。
その為、『核蛇の杖』は高い威力を誇る魔法攻撃をより何度も、そしてより早く放つことができるので、よく気に入って使っていた。
「【空間】が使えるのは助かったな、一切アイテムが使えない状態などアカノツキとの戦いなんて、想像もしたくなかった。さて、他には何のアイテムがあったか・・・」
ルーデリアはそう言うと【空間】を唱え始めた。数秒して、自分が収納していたアイテムを床に並べた。
「・・・『希少位龍種召喚簡易魔術書』が4枚、『神王の帝冠』、『神炎の指輪』、『粘性体の剣』の4つか、」
『希少位龍種召喚簡易魔術書』はランダムなレベル90~100相当の希少位龍種を1体呼び出すことができる。ルーデリアはタンク系魔法職であり、カンストプレイヤーやアカノツキ等の相手にダメージが通る上位の魔法には発動前に時間がかかることもあり、その際の囮用として用意をしていた。実際にあまり使わずに来たので残っていたのだろうとルーデリアは考えた。
『希少位龍種召喚簡易魔術書』以外のその他のアイテムは番外級アイテムであり、愛用装備セットでもあった。
それぞれのアイテムの効果として――
『神王の帝冠』の効果は、『神王の帝剣』という同じ『神王シリーズ』のアイテム効果の強化である。
『神炎の指輪』の効果は、神属性と炎属性の魔法攻撃を70%カットと希少位級魔法である【神炎】を発動条件なしで発動できる。
『粘性体の剣』の効果は、スライム種の持つスキルである《物理攻撃完全耐性》を無効化する剣である
この中でも『神王の帝冠』は同じ番外級アイテムである『神化の指輪』と同じ、闇の陣営のトッププレイヤーに配られる装備である。『神王シリーズ』とは、アイテム名に「神王」と名のついた装備の総称であり、『神王の帝冠』以外に、ルーデリアが所有している『神王の玉座』、『神王の外套』『神王の帝剣』の4つがある。
『神王の帝冠』自体の能力は『神王の帝剣』がなければ発動しないため、弱いものとなっているが、これを装備した状態で『神王の帝剣』を装備をすれば、絶大な力を持つと当時の運営が説明をしていた。しかし、肝心の『神王の帝剣』を保有していないので、宝の持ちぐされとなっている。
「まさか、これらだけが残っているとはな。とりあえず、『神王の帝冠』と『粘性体の剣』は【空間】の中にしまっておこう」
そう言うとルーデリアは【空間】を唱え、『神王の帝冠』と『粘性体の剣』を収納した。正直に、アイテムが使える事はとてもうれしいが、まともに機能するアイテムが『神炎の指輪』と『希少位龍種召喚簡易魔術書』なのは少々誤算であった。
「まぁ、『神王の帝冠』と『粘性体の剣』は何かに使えるかも知らないからな、あるだけよかった」
そうルーデリアは言うと練習場の中央部へと歩き出した。
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